周辺不動産の価値を上げる

【連載】空き家で稼ぐ 第1回

管理・仲介業|2024年09月13日

 リノベーション企画、施工の美想空間(大阪市)は、地域の不動産価値を上げ、複数の不動産から得る賃料収入の拡大を目指す、エリアリノベーションを事業化する。きっかけは、大阪市・難波地区で、当時築60年の木造アパートを改修した複合施設を運営したことだ。施設の事業は順調だったが、鯛島康雄社長が注目したのは、周辺の不動産で利活用が進み、周りの地主が収益を拡大していることだった。

賃料抑え、借り手支える

 鯛島社長の空き家ビジネスの基本は「貸し手となって賃料収入を最大化させること」だ。だが、賃料を高く設定して1棟単位の利益を押し上げる手法とは一線を画す。地域の不動産価値を高めることで、周辺にある複数の不動産で賃料収入の拡大を目指す。

 賃料は相場よりも低く設定する。テナントが事業を継続しやすくするためだ。賃料が抑えられていれば、テナントは新たな企画、特徴ある尖った店舗を始めやすい。ほかの地域にはない魅力的な店舗ができれば、そこに人が集まり、事業を継続できる。この循環を目指す。

 このビジネスモデルを確立するのに、鯛島社長は10年を要した。空き家の活用を始めたのは2013年ごろからだが、当初は公的な事業支援金が途絶えると継続できなくなる店が多く、葛藤があった。

築60年アパートを改修

FUNSPACE DINER物件概要

 転機となったのは、15年、大阪市浪速区日本橋にある、当時築60年の2階建て木造アパート「千南荘」での仕事だ。アパートは南海電鉄南海線なんば駅から徒歩4分の好立地ながら、30年以上入居者が居なかった。だが、土地と建物の権利者が複数にまたがり、地域の再開発から取り残されてきた。「建物は大きい。リノベをすれば魅力を引き出せる」と考えた鯛島社長は、建物を管理する不動産会社と共に権利者の調整を行い、ホテル、レストランウエディング会場、設計デザイン会社、美想空間のショールームの四つが入居する複合施設「FUNSPACE DINER(ファンスペースダイナー)」として、17年に再生した。

「千南荘」の外観

改修当時、築60年だった「千南荘」には、30年間入居者がいなかった

 美想空間はこの建物を10年間の定期借家契約で借り上げた(11年目以降は、毎年契約更新)。リノベの設計、施工は自社で行った。ホテル、設計デザイン会社とは、サブリース契約を交わし、レストランウエディングとショールームを自社の事業として行った。

 開業してからは集客のために、テナントと協力して複数回マーケットを開催した。やがて、レストランウエディングが人気となり、事業として大きく成功した。19年には結婚式関連のポータルサイト「ぐるなびウエディング」で全国1位を獲得し、2年先まで予約が埋まった。多い時には、1日3回の挙式をすることもあった。その結果、周辺の飲食店に挙式への出席者を送客できるようになった。

近隣事業者と提携

FUN SPACE DINER の外観

FUN SPACE DINER の内装

FUN SPACE DINERは、南海電鉄南海線なんば駅から徒歩4分の場所に立つ。
現在はイベントや撮影用のレンタルスペースとして貸し出される

 FUN SPACE DINERを開業した頃、鯛島社長はエリアリノベをそれほど意識していなかったという。変化が生じたのは、レストランウエディングの人気を知った周辺大手企業との間で、提携が進み始めてからだ。南海電鉄とは、なんば駅と隣の今宮戎駅との間の高架下を再開発する「なんばEKIKAN(エキカン)プロジェクト」を通じて協力体制ができた。22年4月に開業した星野リゾート(長野県軽井沢町)のホテル「OMO7大阪 by 星野リゾート」とは、相互送客の提携を結んだ。その頃から、空きテナントビルや空地を使ったコインパーキングなど、周辺の遊休不動産の活用が一気に進み始めた。

 「一番利益が上がっているのは、周辺の不動産を持っている地主だ。これを事業化してみよう」。地域の不動産価値にインパクトを与える仕掛けを行い、賃料収入の拡大を狙う。エリアリノべの手法を見いだした鯛島社長は、新たな場所で、貸し手として参加する機会を探るようになる。

 そんな矢先、大阪市港区築港エリアで、大阪メトロ中央線大阪港駅の駅前にある、築古ビルが取り壊されようとしている話が舞い込んできた。鯛島社長は、このビルに美想空間の本社移転を決め、周辺空き家の取得に取り掛かる。

美想空間 鯛島康雄社長の写真美想空間
大阪市
鯛島 康雄 社長(46)

 

(2024年9月9日17面に掲載)

おすすめ記事▶『昭和町、長屋を武器にした店舗の誘致【空き家をめぐって】』

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