大阪市阿倍野区昭和町は、あべのハルカスが立つJR関西本線天王寺駅の隣駅、大阪メトロ御堂筋線昭和町駅の周辺に広がる住宅街だ。大正から昭和にかけて建てられた長屋が所々に残り、空き家や、空きビルを使った、個性的な小規模店舗が点在する。そこには、地域住民が日常的に店を利用するよう活動を続ける不動産会社があった。
昭和町を歩くと、古い建物で営業するカフェや雑貨店が目に入る。チェーン店は少なく、古い建物の趣を生かした若い店主による個性的な店が多い。昭和町で3代続く丸順不動産(大阪市)の小山隆輝社長の元には、自分の店を持つという夢をかなえるため、出店先となる空き店舗を探しに来る人が集まる。
昭和町の人口は2020年までの10年間で約7%増加した。だが、以前は人口が減り、若者の姿も少なく、町の衰退が止まらなかった。転機が訪れたのは03年、町内にある1軒の長屋が国の登録有形文化財に指定されたことだった。昭和町駅から歩いてすぐの場所にある「寺西家阿倍野長屋」だ。
山本さん(左)と丸順不動産の小山社長。2人は昭和町のバイローカルを推進する市民団体ビーローカルパートナーズのメンバー
小山社長は昭和町で生まれ育ったが、寺西家阿倍野長屋がどこにあるのか、わからなかった。文化財に指定されたことを知り現地に行ってみると、町内の至る所で目にするものと変わらない長屋があった。「これが文化財になるんやったら、町は文化財だらけや」。そう思った小山社長は、長屋を武器に町を再生する可能性を考えるようになった。
文化財指定を受けた寺西家阿倍野長屋には、すぐにテナントが付いた。だが、そのほかの長屋は5年、10年も借り手が付かないものが大半だった。建物の老朽化が進み、貸家として整備をするにも多額の改修費用を要したからだ。