空き家の買い取り再販事業を主力に着実に業績を伸ばすフォステール(奈良市)。販売価格を抑制するためにリフォームを途中で止めた状態で販売する独自の買い取り再販スタイルを確立。改修コストを抑えることで、空き家の再生・流通を促す。
年商5億円、5年で20%超成長
新築販売で創業 転機は物元仲介
フォステールは、「最後まで完成させない」リフォーム手法を強みに空き家の買い取り再販を手がける。その実績は、売買仲介も含めて年間500件に上る。
2024年9月期の売り上げは5億円。事業構成比は、買い取り再販が5割、売買仲介を含むその他手数料による売り上げが5割となる。売り上げはここ5年間で1億円超伸ばした。
本社を奈良県に置き、大阪府と滋賀県に店舗を構え、不動産フランチャイズチェーン(FC)の「センチュリー21」に加盟する。従業員数はパート・アルバイトスタッフを含め38人だ。
同社の創業は07年。建築会社を顧客とした建て売りの販売代理を行っていた。岸川悦也社長は「個人が所有する不動産の仲介は、信頼関係の構築が重要。創業したばかりで、規模の小さい当社は受注するのが難しかった」と振り返る。
成長事業として空き家再生に活路を見いだしたのは16年ごろ。2拠点目となる大阪府への進出に伴い従業員数が拡大。建て売りの販売代理から、個人が所有する不動産の売買仲介に営業スタイルを変更した時期だった。その中で、「メイン商圏の奈良市だけでも、月間2000件の相続が発生している」(岸川社長)と相続物件に目を付けたことが、結果的に空き家再生ビジネスにつながった。
相続案件の獲得には、DMを使用する。DM送付システムを独自で開発したことで、関西圏を対象に月間数千件を送付するというDM作業を効率化した。顧客から相談を受ける中で空き家の情報を獲得。同社が定める条件に見合った物件を買い取り再販につなげ、今では売り上げの半数を占める事業へと成長させた。
全面改修せず 価格は1000万円以内
同社が空き家再生で最も重視するのが出口戦略だ。買い取り再販で見ると、都心部の物件が6割、地方の古民家が4割を占める。
特に古民家については、シロアリ発生・雨漏り・ごみ屋敷といったほとんど売値が付かないような空き家のため、なるべく改修コストを抑えて販売する必要があった。この考えから生まれたのが、100%のリフォームを行わない独自の買い取り再販スタイルだ。
買い取りに関して掲げる条件は大きく3点で、「車が入れる接道があるか」「丘陵地ではないか」「限界集落ではないか」。丘陵地については、空き家が倒壊した場合に、坂の下に位置する家に被害が拡大してしまうことを警戒しての視点だ。
岸川社長は「特に古民家の空き家を購入する顧客は、自身でリノベーションなどを手がけたいという要望を持つ人が多い。また、更地にすることを目的に購入する法人顧客も中にはいるため、完璧な状態で販売しないことを求めるニーズがある」と話す。
西海岸風といったコンセプトを持たせた状態で基礎部分の改修を実施。その後は、イメージパースまでを作成し、販売する。「例えば、すべてをリフォームすると改修費で1000万円かかるところが、途中で改修を止めることで500万円に収まる」(岸川社長)。販売価格も無担保ローンを借りられる1000万円以内に設定することにこだわり、販売実績を伸ばす。
売買仲介も含めた顧客属性は、個人が7割、法人が3割だ。このうち、実需用を目的とした購入が7割、投資用が3割を占める。
参入障壁は手間 「草取りから始める」
「多くの事業者が実務の実態を想像できていないことで、空き家の再生事業を断念するケースを見てきた」と岸川社長は語る。
空き家の再生は、物件が立つ敷地内の草取りから始まり、どこまでが再生対象物件の土地なのかの境界線を隣人と話し合う。空き家は住宅ローンが付きにくいため、販売価格を抑える工夫が必要で、古民家特有の梁(はり)のある物件は改修できる工務店を探すのも簡単ではないという。
岸川社長は「正直手間暇はかかる。それでも空き家再生事業を続けているのは、使命感による部分も大きい。社員も共感して空き家再生に携わってもらえるような企業理念の再設定に着手している最中」と語った。
(齋藤)
(2024年10月28日20面に掲載)