新卒採用において、大手企業とバッティングした際に「ウチは給与や福利厚生などの条件面で勝てないから...」と諦めていませんか?しかし、諦める前に彼らの心の奥にある声に耳を傾けてみましょう。
■今の学生が本当に求めているもの
実は、今の学生は「給与」と同等以上に「顧客からの感謝」を重視する傾向があります。彼らにとって働く意味とは、単なる生活の糧を得る手段(衛生要因*の充足)だけではなく、自分自身の価値観と仕事が結びつくこと(動機付け要因*の充足)でもあります。
*ハーズバーグの「二要因理論」より
自己決定理論で言えば、彼らは仕事を通じて「誰かの役に立っている」という手応え(有能感)や、他者との結びつき(関係性)を満たしたいと願っているのです。適性検査eF-1Gのデータを通じた個人の分析からも、そうした「貢献欲求」の高さが浮かび上がってきます。
■就職という不確実な海を渡る「社会的証明」
では、知名度や条件面で圧倒的な力を持つ大手企業に対し、どのように自社の本質的な魅力を伝えればよいのでしょうか。ここで鍵となるのが、心理学における「社会的証明」という概念です。
社会的証明とは、「ある状況でどう振る舞うべきか迷った際、他人の行動を正しいガイドとして選んでしまう」という心理的傾向のことです。
就職活動という、正解がなく不確実で不安な状況下において、この心理は特に強く働きます。人間には、集団と同じ行動をとることで「失敗を避けたい」「周囲になじみたい」という本能的な欲求があるからです。

■「リアルな声」が共感と確信を生む
この心理傾向を採用活動(魅力付け)に活用してみましょう。
有効なのは「社員インタビュー」や「内定者の声」を戦略的に発信することです。
候補者は、自分と似た属性の人が活躍し、満足している姿を見ることで「この会社は自分にとっても正解だ」と確信を持ちやすくなります。
ここで重要なのは、強みばかりを並べるのではなく、自社の弱みも隠さず、現場のリアルな「やりがい」をセットで開示することです。例えば「大変なこともあるけれど、お客さまからの感謝の言葉で乗り越えられる」といった等身大のストーリーは、学生の心に深く響きます。
2026年大卒者のパーソナリティー調査から、学生の共通要素として「判断力」や「知的好奇心」「自分を奮い立たせる力」「熱意」といった項目が低く、周囲の関わりや後押し、導きが本人の意思決定や可能性を引き出すうえでとても重要であることがわかっています。
採用戦略を考えるうえで「土俵ずらし」という考え方があります。報酬や福利厚生といった「条件」の土俵から降りて、自社で大事にしている価値観や魅力を磨き、それらと学生のパーソナリティーとをいかに選考過程において丁寧に重ね合わせるかを追求する土俵ずらしの戦略を考えてみてはいかがでしょうか。
次回は、「『入社します』の言葉の裏にある内定者の不安」をテーマに、内定辞退を防ぐための心理的契約についてお話しします。
<プロフィール>
田中 伸明
イー・ファルコン 代表取締役
2005年関西学院大学経済学部卒業。12年、グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。新卒でアフラックに入社、その後グロービスに移り法人営業に従事。12年、i-plug創業メンバーとして取締役就任。22年9月より、100%子会社のイー・ファルコンで現職に。23年、一般社団法人人的資本経営推進協会理事に就任。
(2026年6月15日15面に掲載)





