コロナ禍の賃貸市場の影響は?エリアルポ~和歌山編~

アズマハウス,家あるじ,大協不動産,マルチョウ

管理・仲介業|2022年02月09日

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 各地の賃貸マーケットの新型コロナウイルス下での影響を探る「エリアルポ」。今回は、都道府県別の人口が47位中40位(2020年時点)と過疎化が進む和歌山県を取り上げる。県内で最も人口が多い和歌山市、2番目に多い田辺市と、観光地の西牟婁郡白浜町で事業を行う不動産会社やオーナーに話を聞いた。

南紀白浜、県外からの顧客急増

≪和歌山市の賃貸住宅市場≫
 人口35万3667人(20年時点)と、和歌山県民の4割が同市に住んでいる。世帯数は15万6639世帯。家賃相場は単身向け物件で3~5万、ファミリー向け物件で5~8万円ほど。他県からの流入は少ない。

アズマハウス、8〜10月低調も11月からは回復

 管理戸数1万4649戸と、和歌山県地場最大手のアズマハウス(和歌山市)では、2021年は大きなコロナの影響は受けていない。同年8〜10月で一時的に賃貸仲介件数が20年比で約13%落ち込んだものの、11月には復調した。

 賃貸事業部における売り上げは28億4800万円。売上比率は自社所有物件の家賃収入が19億3000万円と67%で最も高い比率を占める。次いで賃貸管理が3億1600万円と14%、賃貸仲介が1億9000万円と6%、その他が4億8300万円と13%となっている。

 21年8〜10月は感染者が拡大した影響で賃貸仲介件数が伸び悩み、3カ月間の平均で1カ月あたり103件の減少となった。特に減少した客層などは詳細を把握していないとしているが、賃貸部の久保良平部長は「コロナの感染が広がった時期と客足が遠のいたタイミングが重なるので、コロナの影響とみている」としている。

 同社の主な商圏である和歌山県は大手企業や大学が少なく、他県からの流入が少ない。県内での転勤がほとんどで、和歌山市外から同市への転勤が多く、和歌山市に人口が集中する傾向にある。「当社の調べでは和歌山県内にある賃貸物件のうち、約17%が和歌山市内に所在する」(久保部長)

 和歌山県内で感染が落ち着いた21年11月のタイミングで客足が戻り20年同月比3%増となり、法人からの依頼も回復してきた。

家あるじ、収益不動産売買年間100件と好調

 収益不動産の売買仲介を行う家あるじ(和歌山市)では、20〜21年にかけて売買仲介件数が好調だった。コロナに関連する補助金や給付金により、資金が潤沢になったことで投資家オーナーが積極的に購入した影響だとみる。

 同社は19年5月に設立し、22年2月期の売上高は5000万円。そのうち収益不動産の売買仲介売り上げが60%と最も高い比率を占め、次いでリフォーム事業が20%と続く。

 20年、21年は両年とも年間100件以上の売買仲介が発生した。同県内の物件を販売した件数は半数を占める50件だ。そのうち収益用戸建て賃貸が5割、共同住宅が4割、土地のみが1割という内訳になっている。

 和歌山市内の賃貸、分譲を含む収益不動産は新築の供給が少ないため築50年以上の築古物件が多く、大阪府などと比較すると安く物件を取得することができる。和歌山市内の賃貸住宅の販売額のボリュームゾーンは1000万〜3000万円ほど。12〜20戸ほどのアパートが多いという。西嶋佑行社長は「投資家は取得した物件を、家賃補助金が支給される生活保護受給者向け物件として集客し、利回り12〜13%程度で賃貸経営する」と話す。住宅への補助金は和歌山市の場合、単身者向け物件で3万4000円、ファミリー向け物件で4万4000円支給されるという。特に人気が高かった和歌山市内の物件の特徴は新耐震基準で建設されたRC造だった。

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家あるじ本社の外観

 売買仲介が好調だったのは、コロナの感染拡大に伴い行政から持続化給付金などの補助金が支給されたことが影響している。

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家あるじ
和歌山市
西嶋佑行社長(27)

 

一般メーンでコロナの影響なし

 和歌山市内を中心に賃貸住宅や店舗を所有する川端貞喜オーナー(和歌山市)は、コロナの影響をほとんど感じなかったという。同市は学生や借り上げ社宅の市場がそもそも小さく、川端オーナーの持つ物件も主に社会人向けが中心だったためだ。

 川端オーナーは賃貸住宅を5棟150戸所有する。そのうち同市に所在するのは99戸で、すべて1LDK〜3LDKのDINKS、ファミリー向け物件だ。そのほか、貸店舗を15店舗所有し、飲食店が入居している。20年、21年ともに、所有物件での家賃滞納は発生せず、コロナ下でも安定した賃貸経営を行えた。その理由を川端オーナーは「コロナで影響があったのは学生賃貸や法人の社宅だが、和歌山市は大学や企業が少ない。所有物件も主な入居者はカップルやファミリーといった層であるため、影響を受けなかった」と話す。

 同市内には四つの大学があるが、規模の大きい大学は和歌山大学の1校のみという。また企業に関しては、10年以上前までは県外に本社を置く企業の支社が和歌山市内にもあったが、12年ごろから撤退する動きが目立つようになり、法人や学生の入居を狙った物件が同市内には少なく、コロナの影響も受けにくかったとする。

 貸店舗に関しては、1回目の緊急事態宣言直後の20年5月中旬に、入居する飲食店2店から家賃減額の要望があった。だが行政の補助金窓口を案内したことでその後家賃滞納は発生しなかった。

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和歌山市
川端貞喜オーナー(59)

 

 

 

≪白浜町の賃貸住宅市≫
 人口は2万1150人、世帯数は1万1175世帯。町内に白良浜という観光スポットの海岸がある。相場家賃は単身者向け物件で4~5万円、ファミリー向け物件で6~7万円。

大協不動産、海に近い賃貸とオフィス需要増

 和歌山県南部に位置し、海に面する西牟婁郡白浜町では、コロナ下で賃貸住宅やオフィスのニーズが高まっている。同町内の不動産を中心に賃貸仲介を行う大協不動産(和歌山県白浜町)では、県外の顧客からの問い合わせがコロナ前の10倍に増加した。白浜空港が町内中心部から車で5分の場所にあることで大阪府や東京都へのアクセスが良く、自然豊かなことからテレワークやサテライトオフィスとしての利用されている。

 同社は賃貸住宅の仲介を年間150件、オフィス仲介を年間5〜10件行っている。家賃相場はワンルームや1Kなど単身者向けが4〜5万円、1LDK以上のファミリー向けが6万〜7万円だ。

 コロナ感染が拡大した20年4月ごろから、東京都や大阪府、京都府などから問い合わせや成約数が増加した。賃貸住宅では、コロナ前は県外の顧客による成約数は年間1〜2件程度だったが、コロナ後の20〜21年はともに年間10〜20件にまで増加した。顧客層は40〜50代で、建築デザインなどのテレワーカーや個人事業主らだ。特に、海が近いリゾートマンションの人気が高いという。

 オフィスに関して、森彰社長は「本社を東京都や大阪府に置いたまま、白浜町にサテライトオフィスをつくる需要が高い」と話す。問い合わせ件数はコロナ前は年間1〜2件程度だったのに対し、21年は10〜20件に増加した。だが、企業の求めるオフィスの用意がなく、成約には至らないケースが多かった。企業側は海が眺望できるオフィスを求めるが、実際には海の近くにオフィスビルは建設されていないためだ。

 同町内の賃貸住宅、オフィスのニーズが高まった理由について、コロナ下でビデオ通話を活用したテレワークの導入が増え、首都圏に住む必要がなくなった層が、自然のあるエリアへ移住したことが挙げられるという。

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白良浜。白浜町内の観光スポット

 加えて、都心部へのアクセスが容易であることも県外からの顧客が増えている理由の一つだ。同町内にある白浜空港から飛行機を使い1時間ほどで羽田空港へ到着し、大阪市へは車で2時間〜2時間半程度でいくことができる。

 

≪田辺市の賃貸住宅市場≫
 人口は7万2561人と、和歌山市と大きな開きがあるものの県内で2番目に人口が多い。世帯数は3万5128世帯。家賃相場は単身者向け物件で3万5000円、ファミリー向け物件で6万円ほど。

マルチョウ、21年反響40%増移動控え反動か

 年間賃貸仲介件数300件のマルチョウ(和歌山県田辺市)では、21年の賃貸仲介の反響数が20年比140%だった。20年にコロナ下で引っ越しを控えた層が、21年には「コロナ慣れ」したことで一斉に引っ越しを行ったことが影響しているのではないかとみている。

 同社は田辺市を中心に不動産事業を行っている。売上高(非公開)のうち、賃貸管理と賃貸仲介を含めた賃貸業が30%と最も大きい割合を占め、家賃収入と売買仲介が15%となる。管理戸数は約1000戸。管理物件の家賃帯は1Kや1DKの単身者向け物件で3万5000円、1LDKや2DKなどカップル向け物件で5万円、3LDKのファミリー向け物件で6万円ほどだ。21年には賃貸仲介における問い合わせが20年比で40%増加した。管理物件へのリーシングを優先していることから、21年7月には管理物件の入居率が99%とほぼ満室状態になり、紹介できる物件がなくなったという。

 同社が商圏とする田辺市は、地元の中小企業が多く存在するエリアだ。例えば食品加工事業者や、外装工事を手がける企業など。大学や専門学校などはなく、高校卒業後は大阪府の大学へ進学する人が多い。21年に増加した顧客層は、転勤や長期出張を理由に、他県から移動してきた単身者だったという。

 20年の顧客の動きが同社では例年と変わりなかったことから、推測の域を出ないと強調したうえで小川勇人社長は「感染を恐れ、20年の引っ越しを見送った人が、コロナ慣れをしたために21年に一気に動いたのではないか」と話す。なお、20年に同社では賃貸仲介件数が落ち込まず、21年に大きな反響を獲得した理由については不明という。

20220207-0805.jpgマルチョウ
和歌山県田辺市
小川勇人社長(57)

 

 

(2022年2月7日8面に掲載)

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