遠隔地にある物件を、現地に行かずに内見できる。仮想現実(バーチャルリアリティ、VR)技術を応用した内見システムの導入が不動産会社で進み、反響率向上の事例も見られるようになった。2013年に設立したスペースリーは、そのVRシステムを開発、提供する会社のひとつだ。東大で航空宇宙工学を学び、経産省にも在籍した経歴をもつ森田博和社長に、不動産領域への参入経緯と今後の展望を聞いた。
料金、性能で差別化他システムと連携推進
亀岡 システム系の会社と聞いています。
森田 バーチャルリアリティ(VR)という言葉を最近よく耳にされると思いますが、私たちはそのVR技術を使った部屋の内見システムを開発し、2016年にサービス提供を開始しました。特殊なカメラを使って撮影した部屋を、スマートフォンでぐるっと360度見ることができるようになります。離れた場所からでも部屋を擬似的に内見できるため、反響率の向上につなげることができます。
亀岡 利便性の良さはわかりますが、事業として成功させるのは難しいのでは。
森田 現在、不動産会社を中心に約700社へ提供しています。
亀岡 今のままでは同じようなことを考える会社が出てくるということです。かつて住宅は材木と鉋(かんな)があればできました。今は不動産会社はもちろん、設備メーカー、銀行や保険会社などさまざまな企業が関わっていて、そこからこぼれてくる仕事も多い。そこに目をつける会社も多ければ、少しでも成功しようものなら他がすぐにまねをする時代です。
森田 サービスを差別化しなければいけませんね。
亀岡 それをどのように進めるかが課題でしょう。
森田 現在導入いただいている事業者からは、月額3980円から利用できる価格面、画質や遠隔接客などを含めた機能性の高さ、管理画面や制作編集ツールの使いやすさの3点を理由に選ばれています。一方で、システムを使いこなす上では利用者側のリテラシーの問題も大きいため、丁寧なサポートを行っているという点でも他サービスと比べて差別化できている自負があります。今後は、既存の不動産ソフトウェアとの連携を進めていくとともに、VRを利用したエンドユーザーの反応を分析して営業展開に役立てるマーケティング機能の追加も考えています。
スペースリー
森田 博和 社長
1980年9月30日生まれ。東京都練馬区出身。99年に東京大学理科I類に入学し、3年生から航空宇宙工学を専攻。2003年に卒業後、大学院に進学しJAXA(宇宙航空研究開発機構)内で宇宙構造物の研究に従事。05年、経済産業省入省。在籍中に国費留学でシカゴ大学に留学しMBAを取得。2013年に帰国後、エフマイナーを設立。16年11月、VRシステム『3D stylee』をリリース。18年4月に社名およびサービス名を『スペースリー』に変更。
- スペースリー
- 本社所在地 : 東京都渋谷区恵比寿西1-33-3
- 設立 : 2013年8月 資本金 : 8500万円円
- 事業内容 : VRクラウドソフト『Spacely』、VR活用のヒントを提供するメディア『Spacely Tips』、現代アートのオンラインサービス『clubFm』の提供
経済評論家 亀岡 大郎 氏
大正15年京城生まれ。新大阪新聞経済部長を経て、経済評論家となる。文藝春秋、サンデー毎日など一流紙で、経済・財界問題を中心に、精力的な活動を続ける一方で「自動車戦争」「ゲリラ商法」「IBMの人事管理」などベストセラー多数。