鉄道の新線開通による不動産マーケットへの影響を探る。アクセス向上により入居者獲得の好機になりうる。渋谷駅~神奈川県県央エリアと西九州新幹線の周辺状況を取材した。
新駅周辺地価1.3倍も
直通運転機に入居
新線の開通にあたって、近隣の駅にも賃貸マーケットの変化の兆しが見えている。
神奈川県横浜市に所在するJR埼京線・相模鉄道新横浜線羽沢横浜国大駅は2019年11月に開業した。同駅から4駅離れた希望ケ丘駅周辺で賃貸住宅約100戸と商業施設を所有する山田勇貴オーナー(神奈川県横浜市)は「じわじわと需要の変化を感じている」という。
希望ケ丘駅近隣の物件に先日入居を決めた女子大生は、3月に羽沢横浜国大駅から東急電鉄東横・目黒線との直通運転が開始されることが入居の決め手になった。都心の通学先へのアクセスの良さを求めたようだ。
オーナー自身、周辺地域の賃料相場の上昇を感じているという。新駅ができる前に7万円ほどで貸していた築33年3LDKの区分マンションを、今では10万円超で貸している。山田オーナーは「東急電鉄東横・目黒線に直通する3月以降は需要がさらに伸びるのでは」と予測する。
羽沢横浜国大駅周辺で賃貸住宅50戸ほどを管理する双葉商事(神奈川県横浜市)は「ここ1年くらいでやっと動きが出てきた」と話す。
同駅周辺は、戸建て住宅や横浜国立大学生向けの物件が多く、商業施設が少ない。だが駅の開業を機に、横浜市が同駅周辺のバリアフリー化計画を開始。これにより、介護サービスの事務所が増加している。
エリアのテナント料は、肌感覚で20%程度上昇したという。同駅の駅前では、1~4階を商業施設、5~23階をマンションとする複合ビルの開発が進む。「今後、駅前の再開発が完了すればさらに活発化していくと思う」と担当者は期待を寄せる。
宅地分譲事業を主力に、同駅周辺で1棟13戸を所有する宮武不動産(同)の餅田一男社長は「17年ごろと比較すると、宅地の成約価格は1.3倍にまで高騰している」とコメント。今も宅地開発は進んでいるものの、高額すぎて買い手がつかない物件も出てきたという。
コロナ前水準に回復
9月23日に開業したのは、佐賀県武雄温泉駅~長崎県長崎駅間を結ぶ西九州新幹線だ。
長崎県地場大手の福徳不動産(長崎市)の福島卓社長は「新幹線開業と政府の観光需要促進策もあり、ホテルや民泊の売り上げは新型コロナウイルス禍前の水準に戻った」という。
西九州新幹線の開通と共に開業した新大村駅周辺では、大規模な開発が進む。約2万5400㎡の敷地に、商業ビルと分譲マンションを開発中だ。長崎県大村市を中心に賃貸仲介を手がける大村土地建物(長崎県大村市)によれば、地価の大幅な変動はないという。新幹線の途中駅のため、観光客が増えにくいことが理由だ。同社の中瀬和隆社長は「マンションの売れ行きによって、今後の経済効果の影響が変わってくる」とコメントした。
(柴田)
(2022年11月14日20面に掲載)