19年比で売上高3倍の物件も【観光需要を取り込む 民泊事業の現在地】

MASSIVE SAPPORO(マッシブサッポロ),ブレークアウト,楽々プランニング,プリズミック,アルプス住宅サービス,スリーアローズ

統計データ|2023年08月23日

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 空室対策や利回り向上の観点から再び注目を集めている民泊。一方で、観光客の減少リスクを見通した対策と安定的な利回りの確保も、課題の一つだといえるだろう。民泊運営代行会社や自社で民泊を営む不動産会社の取り組みを紹介する。

日本人利用者の需要取り込む

コロナ以降の展開 リスクヘッジが肝

 新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが「5類」に移行となり、インバウンド(訪日外国人)が戻ってきた。観光業が盛り上がりを見せる中、民泊に注目が集まっている。管理会社やオーナーにとって、賃貸住宅の空き室を宿泊施設として活用する民泊は、空室対策や利回りの向上といった効果が期待できる。

 民泊事業を始めるためには、住宅宿泊事業法(以下、民泊新法)で定められた基準をクリアする必要がある。民泊新法では、宿泊施設として提供できる日数の上限が年間180日とされている。さらに各自治体の条例によっては、より厳しいルールを制定している場合がある。民泊新法にのっとりながら宿泊事業だけで利益を出すことは基本的に難しい。規定の日数以外の期間をマンスリーマンションとして運用するなど、いわゆる「二毛作」での活用が一般的だ。そのため民泊の運営を代行会社に委託する事例が増えている。料金設定からアメニティーの手配、マンスリーへの切り替えなど、必要となる作業は多岐にわたる。

新法民泊と特区民泊の主な違い

 一方で、外国人誘致のための国家戦略として位置付けられた東京都大田区や大阪市といったエリアでは「特区民泊」として事業展開することができる。特区民泊では、民泊新法による180日の制限がない。最低宿泊日数の2泊3日をクリアすれば、365日運営が可能だ。こうした参入ハードルの低さから、コロナ前は特区民泊エリアで運営を始める事業者が爆発的に増加した。ただ、その結果、価格競争に巻き込まれたうえに、コロナ禍によるインバウンドの消滅が追い打ちをかけることとなり、その多くが廃業に追い込まれた。

 これらの背景から、コロナ感染拡大後の民泊物件の特徴として、運営エリアを観光地に絞るケースが増えてきている。1年間を通して、安定した観光客が見込める場所に民泊物件を展開することで、繁忙期・閑散期のムラを少なくする狙いがある。民泊事業を今後展開するためには、安定的な利回りの確保とリスクヘッジが重要となる。管理会社にとっては、本業である不動産賃貸事業で培ったノウハウを生かせるかどうかが、成功のカギとなりそうだ。

10年の経験生かす 高品質な運営

 民泊などの運営を手がけるMASSIVE SAPPORO(マッシブサッポロ:北海道札幌市)は、2013年より民泊運営を行っている。

 エリアは北海道を中心とした全国だ。北海道内が75%、そのほか大分県、神奈川県、東京都で施設を運営する。北海道内の施設の53%は札幌市内にあり、観光需要がある都市部での運営が多い。既築住宅をリノベーションして用途変更する民泊のほか、小型宿泊施設のオペレーションを無人化する無人ホテルの企画・運営代行も手がける。

 民泊・無人ホテルを合わせた運営室数は23年7月4日時点で約200室。物件の内訳は、アパート・マンションが4割、戸建てが2割、無人ホテルが4割となる。

「ノルドハウスN24」

23年6月に開業した「ノルドハウスN24」。札幌市営地下鉄南北線の北24条駅から徒歩5分の場所に立つ(MASSIVE SAPPORO)

 物件の紹介、家具の設置といった開業準備から、開業後の運営全般までを一貫して請け負う。運営代行費用は売り上げの約20%だ。

 同社の強みは、10年にわたる民泊運営で得たノウハウと、運営オペレーションの大部分を自社スタッフでこなす点にある。同社スタッフは、チェックインや問い合わせへの対応といった、利用者とのやりとりなどを担当。さらに北海道エリアでは、建物の簡単な修繕も手がけている。業務の質を確保することで利用者満足度を上げ、稼働率の安定につなげる。自社スタッフが利用者とのやりとりから得た知見は、新しい施設の企画にも役立っている。

 集客は、OTA(オンライン専業旅行会社)が運営する「Airbnb(エアビーアンドビー)」などのサイトや自社サイトを通じて行う。

 コロナの流行で激減した民泊施設の利用者数は回復している。23年は売上高がコロナ前である19年の2倍から3倍になる月も出てきた。コロナ禍を経ての大きな変化は、日本人利用者の増加だ。19年には全体の1割程度だった日本人利用者は、23年には5割ほどを占めるようになった。仲間と大人数で集まりたい若者や、広い部屋に一緒に泊まりたいファミリー層の利用が多いという。

観光盛んな北海道 表面利回り15%

 17年10月から民泊運営代行事業を手がけるブレークアウト(北海道札幌市)は、23年7月5日時点で約140室の民泊を運営する。主軸は民泊運営代行だが、自社でも6棟の物件を所有し民泊として運営している。エリアは北海道全域。札幌市内を中心に、小樽・富良野・旭川市などで運営を行う。物件は既築のものを改装して利用する場合がほとんどで、札幌市では1LDK程度のマンションタイプ、そのほかのエリアでは4LDK以上の戸建てが多い。特に外国人は広い部屋を好む傾向があるため、これから物件を購入する人には120㎡以上の物件を勧めているという。

 宅建業者でもある同社の強みは、物件の購入・賃借からデザイン、運営代行、売却までをトータルで支援できる点だ。特に、民泊予約サイトでどれだけ利用者の目を引けるかに直結する内装には強いこだわりを持つ。物件の構造や周辺環境を考慮して一件一件コンセプトを決め、インテリアコーディネーターが家具などを選定する。

 同社が提案する民泊は、表面利回り15%以上で設計する。運営代行手数料は売り上げの20%。北海道は土地が比較的安価にもかかわらず観光資源は豊富で、民泊ビジネスが成立しやすい地域だという。同社の施設で最も高い利益率を出しているのは、都市部から離れた富良野市の施設だ。集客はOTAや自社のサイトで行い、「Airbnb」経由での予約が5割程度で最も多い。

「LANDMARK(ランドマーク)」

22年12月開業の「LANDMARK(ランドマーク)」。富良野市にある180㎡の一戸建て(ブレークアウト)

 22年12月から利用者が回復し始め、23年7月は過去最高の売上高を記録した。民泊を始めたいという問い合わせも増えており、施設数は23年2月から7月の間に30室ほど増加した。

 今後は運営代行の受託を増やしつつ、自社所有物件にも注力していく予定だ。

平均稼働率90% 東京23区中心

 不動産の運用コンサルティングを行う楽々プランニング(東京都港区)は15年3月より、東京23区を中心に民泊物件の運営代行を展開している。

 住宅宿泊事業者登録サポートから空間づくり、宿泊者への対応、管理・清掃まで代行する。民泊や旅館運営に関わる各エリアの条例にのっとって、鍵の受け渡しや常駐管理人を配置する。

 運営を代行する物件数は120件ほどで、平均稼働率は約90%だ。エリアは外国人宿泊客が見込める東京23区や、日本人観光客が多く訪れるリゾートエリアである神奈川県、静岡県、山梨県、長野県が中心。民泊事業を開始する際の費用が30万~40万円、運営代行費用が月の売り上げの15~20%(いずれも税別)となる。

 特徴は投資回収が見込める物件のみ民泊物件としてオーナーに提案する点だ。エリアや物件の広さ、状態を基に表面利回りをシミュレーション。表面利回りが20%を超える場合のみ提案する。

東京都港区にある民泊物件

東京都港区にある民泊物件(楽々プランニング)

 辻哲哉社長は「物件の立地が民泊物件を運営するうえで最も重要。インバウンド需要を見込めるのは東京23区だ」と話す。さらに東京都でもエリアによって想定する宿泊客層が違うため、立地ごとにインテリアの選定や宿泊料金も変わっていく。例えば、欧米からの観光客が多く宿泊する港区や渋谷区では、リゾート風のインテリアを配置したり、アジア系の観光客が多い台東区や新宿区では、和風の空間づくりを行ったりする。宿泊料金も宿泊予約サイトからエリアごとに抽出したほかの物件の情報を基に設定。繁忙期・通常期・閑散期の3期に分け、料金を調整する。

 「今後も訪日外国人数は増加していくため、民泊運用の需要は増えるだろう。個人オーナーだけでなく法人オーナーに向けた提案も強化していきたい」と辻社長は話す。

サブリースで運用 1.5倍の収入増

 1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)を中心に約8000戸を管理するプリズミック(東京都港区)では、18年より民泊・宿泊事業を行っている。

 同社の特徴は、サブリース型で宿泊料を保証する点にある。それに加えて、旅館業として物件を登録し、民泊新法における民泊との差別化を行い、年間を通して宿泊客を受け入れることで、収益性の向上を図る。賃貸物件で貸し出した場合の家賃収入と比較し、手取りで最低1.5倍以上の収入を確保できる金額を保証。実際に、2倍以上の収入増となっている物件もある。都内の7階建て37戸の物件で、ワンフロアの計5室を旅館業として運営している事例では、オーナーの受け取る月間の家賃収入が約45万円だったが、宿泊施設への転換後は約114万円の月額収入となっている。

 展開するエリアはインバウンド需要の高い東京23区内とJR東海道線横浜駅や川崎駅周辺の物件だ。旅館業への用途変更の手続きを含めて、同社がサポートを行う。既存物件のみならず新築物件の企画に携わるケースもある。

 賃貸物件を宿泊施設に転換する場合の事務手数料や手続きに関する費用はかからない。200㎡を超える用途変更の際には、確認申請のため、別途実費で申請費用が発生する。そのほかに、消防設備や監視カメラ、電子錠など、旅館業法に合わせた設備に加え、1戸あたり50万~100万円の家具・家電の導入費用が必要になる。場合によっては水回り設備の交換などのリノベーションも行う。

ビフォーアフター

必要に応じてリノベーションを施し、家具・家電を設置して貸し出す(プリズミック)

 小泉淳哉営業部長は「管理業で培ってきた入居者満足の向上のためのノウハウを生かすことで、宿泊者が過ごしやすい環境をつくることができる。実際にポータルサイト上でのレビューの評価も高く、リピーターも多いため、高い稼働率と高収益の好循環を実現できている」と語る。

 23年7月末日時点で約60室の運営を行っており、7月の平均稼働率は80%超だ。ポータルサイトの「Booking.com(ブッキングドットコム)」や「agoda(アゴダ)」、「Airbnb」に掲載して集客を行っている。

全物件で予約満室 国内顧客6割強に

 「民泊運用室数をコロナ前の倍にあたる100戸に増やす。それぐらい需要が増えることを見込んでいる」

 こう話すのは賃貸管理・仲介事業を手がけるアルプス住宅サービス(東京都豊島区)の瀧本勘樹取締役だ。

 管理戸数約4300戸のうち38戸を民泊として運用しており、全物件で夏休み期間中の予約は満室となっている。

 同社が民泊需要の回復を実感し始めたのは、コロナの水際対策が大幅に緩和されることが決まった2月ごろだ。ポータルサイトからの申し込みが戻り始めたという。

 顧客層に関しては、日本人観光客の利用が増えた。19年ごろは99%がインバウンドだったが、23年7月25日時点で6~7割が日本人の利用となっている。民泊として運営する物件のエリアはさまざまで、東京23区内以外にも、神奈川県や東北地方の物件もある。

 コロナ前は、管理物件のうち50戸強を民泊と家具付きのマンスリー賃貸の二毛作で運営していた。宿泊利用が見込めないコロナ下では、一般賃貸か、マンスリーメインの物件としての運用に切り替えた。マンスリー物件は、民泊のポータルサイトにも掲載していたが「コロナ下での民泊利用はほぼゼロ。まれに帰省や駐在者の一時帰国で宿泊利用があった程度」(瀧本取締役)と話す。

 7月25日時点で、民泊稼働率は約75%。宿泊単価は、円安の影響もあり19年比で15%ほど上げているため、収益性は向上。瀧本取締役は「稼働率を上げたいのであれば単価を下げればいいが、下げすぎると顧客層の質が低くなる。稼働率は7割程度になるような価格設定がベストだと考えている」と話す。

 8月末までに民泊として運営できる物件をコロナ前の50戸に戻し、9月~24年8月末までには100戸の確保を目指すとしている。

スリーアローズ、民泊可能な物件を仲介

賃貸と比較し3.5倍の収益も

 2016年の会社設立から民泊専門不動産会社「部屋バル」として、民泊使用が可能な物件の仲介や民泊運営支援を手がけてきたスリーアローズ(東京都港区)。一棟の賃貸マンション・アパートや戸建てなどの転貸可能な物件を、所有者から投資家らへあっせんしている。

 取り扱い物件のエリアは全国で、特に人気エリアは、東京都内や沖縄県。観光地などの神奈川県箱根町、静岡県熱海市、長野県軽井沢町なども需要が多いという。利用者の7~9割を海外からの旅行者が占める。

 これまで約2000人、約4700件の仲介実績がある。そのうち約6割が副業で民泊運営を行っているという。コロナの影響の変化や円安によるインバウンド需要の回復で民泊の利用が回復する中、同社が運営するウェブサイトに登録している民泊に興味のある会員は約2万5000人を超える。

 同社では物件の利用方法として、所有者が民泊運営希望者に物件を貸し出し、相場賃料との差額で収益を得る方法と、所有者自身が民泊運営者として収益を上げる方法がある。

 同社が仲介した東京都内の20㎡のワンルームマンションでは、賃貸した際の想定賃料が10万円のところ、民泊として運営をした場合には、運営経費などを差し引いて35万円以上の売り上げになるという。

 収益性の高さから1件目の民泊運営後に、2、3件目の運営を希望する投資家も多く、民泊運営が可能な物件の提供が追い付いていないのが現状だ。

(2023年8月21日8・9面に掲載)

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