地方版でトップ10入りした企業に、賃貸仲介件数(以下、仲介件数)増加の理由を聞いた。分業化や人材の増員により、ウェブ反響に対する業務または来店後の接客の質を向上させたことで成約件数を伸ばす2社を紹介する。
分業化推進、IT重説は外部へ
クラスコグループ、「IT戦略室」設立 営業の時間を確保
仲介件数8010件のクラスコグループ(石川県金沢市)は、前回から646件増加。甲信越・北陸エリアで前回の4位から順位を伸ばして、3位となった。仲介件数が伸びた要因として、営業の生産性向上を挙げる。
同社は、2019年に、契約関連書類の作成、ポータルサイト(以下、ポータル)からの反響への対応などを5人体制で行う「IT戦略室」を立ち上げた。仲介営業を接客に専念させたことで、23年の営業1人あたりの年間成約件数は165件と19年比で8件伸びた。
22年にはさらに営業担当者が提案に時間をかけることができるよう、IT重要事項説明(IT重説)を外部の宅地建物取引士(宅建士)保有者に委託するようにした。結果、来店成約率は22年の56%から、23年には62%まで伸長した。
物件案内の効率化も、18年ごろから進めている。同社では、あらかじめ店舗で内見する物件を二つほどに絞る。室内のVR(仮想現実)映像を用意している物件の場合は、顧客はその映像を見て、より具体的に物件のイメージをつかむことができる。内見する物件を決めた後は、提携するタクシー会社のドライバーが顧客を物件まで案内する。クラスコの営業担当者は同行せず、顧客のみで物件を見学。契約業務の軽減により、営業担当者が商談に集中できる環境を整えた。
小村典弘社長は「23年4月から、若手社員に向けて、ビジネスパーソンに必要な知識を学ぶ10時間のeラーニングを実施している。仲介営業の生産性の向上と併せて、営業担当者のスキル向上にも注力している」と話す。
クラスコグループ
石川県金沢市
小村典弘社長(48)
ハウジングエステート、人員を7人増加 反響対応を強化
初登場で東北エリア3位にランクインしたハウジングエステート(宮城県仙台市)は、23年に新たに人材を7人増員し、賃貸仲介事業を強化。年間仲介件数は3500件と、22年比で250件の増加となった。
宮城県内に賃貸仲介店舗を6店舗展開する。全従業員は65人で、賃貸仲介事業には37人が従事する。このうち営業担当は30人で、各店舗に平均5人を配置する。
23年の取り組みとして、ポータルへの出稿件数を増やした。利用するポータルは「SUUMO(スーモ)」だ。増加分を含め、年間の出稿件数は約7万700件。
反響の母数を増やしたことに加えて、反響来店率を高める工夫も施す。
ポータル反響に対する一次対応として、自動返信のほかに手作業で付加価値情報を加えたメールの返信を行う。反響に対するリアクションのスピードを自動返信でカバーしたうえで、顧客が探している物件の類似物件の情報などを添えたメールを後送する。人員を増員した分、各店舗の営業スタッフが最低1人常駐できる状態を確保。物件知識を持った営業スタッフがメールの対応にあたることができるため、顧客の要望に柔軟に対応でき、返信内容の質が向上した。
石川祐介執行役員は「23年の反響来店率は前年比最大10ポイント増の30〜35%まで高まっている」と話す。
ハウジングエステート仙台駅前店の外観
また、店長のほかに複数店舗を統括する役職も設置。反響から成約までに関わるデータを分析し、各店舗の課題に対し改善策を提案できる体制を構築した。例えば来店率が下がった店舗が出た場合、そのタイミングでフィードバックを行うという。
「まずは人員を潤沢に確保し、その後の育成も含めて体制を強化していく」(石川執行役員)
ハウジングエステート
宮城県仙台市
千葉房樹社長(46)
(2024年1月1・8日14面に掲載)