「令和2年国勢調査」の結果、日本の総人口は2調査連続で減少した。一方で賃貸住宅への受け入れが敬遠されがちだった在留外国人や単身高齢者世帯は着実に増えている。空室率も年々増加する中、多様な属性の入居者受け入れは急務だ。本特集では、外国人や高齢者の受け入れを支えるサービスを紹介する。
多言語サポート、照明やセンサーで見守り
リーガルスムーズ、孤独死と無断退去に対応
入居時の孤独死や無断退去発生時の対応サービスを提供するリーガルスムーズ(東京都中央区)は、多様な属性の入居者受け入れを支援するサービスを展開している。
入居時の孤独死や無断退去発生時の対応サービスを提供するリーガルスムーズ(東京都中央区)は、多様な属性の入居者受け入れを支援するサービスを展開している。
家賃債務保証会社や不動産会社、宅地建物取引協会(以下、宅建協会)などを通じて、入居者と契約を結ぶ「スムービングサービス」は、孤独死や無断退去などが起きた際に、入居者に代わって退去や残置物撤去の手続きを代行する。入居者は、国籍や年齢などの属性を問わず加入することができ、家賃滞納時の責任範囲が3カ月程度に抑えられる。管理会社やオーナーにとっても、リーガルスムーズが孤独死や無断退去時における入居者の受任者となるため、明け渡し訴訟の手続きを行わずに解約できる。平均3週間程度で入居募集を開始することが可能になり、非常時の負担軽減になることから、孤独死などのリスクにより敬遠していた属性まで入居対象者が広がる。
家賃債務保証会社で審査が下りた人が対象で、非常時の退去サービスも含んだプランの場合、料金は月額539円(税込み)となる。21年12月時点で家賃債務保証会社も含めた販売代理店26社、取扱店の不動産会社7879社、四つの宅建協会と提携しており、延べ5万6000件の契約実績がある。
東北地方から全国へ家賃債務保証事業を展開するアーク(岩手県盛岡市)では、スムービングサービスを活用した家賃債務保証のプランを生活保護受給者や高齢者、外国人を中心に提供している。残置物の撤去から原状回復の手配までリーガルスムーズが担うため、月に平均して2~3件ほど孤独死が発生している支店によると、金銭的負担だけでなく手間もかからないことが大きなメリットだと感じているそうだ。また、今までは連帯保証人がいないと審査承認できなかった属性の入居者でも、緊急時の連絡先の共有のみで審査承認できるようになるなど、幅広い入居者の受け入れが可能になったという。
リーガルスムーズの川上明社長は「国籍や年齢、ジェンダー、収入格差などにかかわらず、生活弱者であっても誰もが入居することができ、オーナーや不動産会社などの関係者も安心する環境を整えることがスムービングサービスの役割だ」と商品の意義を語る。
メイクホーム、生活保護給者向け物件投資
870万円から始められ、表面利回り6.5%
1都3県で約1万7000件の物件の管理や、住宅確保要配慮者支援の物件を運営するメイクホーム(東京都足立区)は、生活保護受給者向け物件への投資「居住支援不動産投資」を15年から提供している。区分所有マンションであれば870万円、戸建てであれば1000万円から不動産投資を始められる。
メイクホームがオーナーから投資金額を預託し、物件の選定から購入、高齢者や障害者、生活保護受給者向けに手すりやスロープなどのリフォームをする。入居者募集や契約、入居後のトラブル対応や管理もメイクホームが行い、オーナーは管理手数料の3%から5%を引いた家賃を毎月受け取るという仕組み。
対象は東京都内を中心に一都三県で、築20年から70年までの築古物件。区分所有マンションは表面利回り6・5%から13.7%。戸建ては表面利回り約16%。22年1月時点で約100戸の実績がある。
メリットとして都内であれば家賃は4万6000円から5万3700円を住宅扶助として国が支給してくれるため、それ以上家賃を下げる必要がなく滞納の心配もない。生活弱者向け物件は供給不足ということもあり、すぐに入居が決まり入居期間も8年以上がほとんどでオーナーは安定して収入を得られる。
石原幸一社長は「今後も、生活保護受給者が減ることはない。居住支援法人として生活弱者でも部屋が決められるように同サービスを始めた。通常の不動産投資より安く開始でき、社会貢献としても意味があるため訴求を目指していく」と語る。
東京ガス、ドアセンサーで異常検知安否確認機能を追加
都市ガス最大手の東京ガス(東京都港区)は賃貸管理会社・オーナー向けに、事故物件のリスクを抑え、物件の価値を保つ「まもROOM(ルーム)」を21年4月より提供している。入居者宅のトイレドアなどにセンサーを設置し、開閉の有無を検知する。同年12月には一定期間開閉がなかった際に、入居者や緊急連絡先に安否確認電話を行う機能を追加した。
従来は入居者が旅行などで不在の際にも管理会社に通知が届くケースがあったが、事前の安否確認の架電により、管理会社の負担軽減につながる。安否確認が取れなかった際には、管理者であるオーナーや管理会社、入居者の家族などへのメールアドレスに通知が届く。通知先は最大8カ所まで設定可能。契約住戸ごとの未開閉状況や安否確認の電話の状況を確認できる仕組みだ。検知期間は24時間と48時間があり、任意で決められる。
まもROOMには、孤独死対応補償と入居者向け電話健康相談も付帯している。孤独死対応補償では、家賃保証として上限5万円を12カ月分保証し、原状回復と遺品整理費用として最大100万円を支払う。入居者は電話やウェブで医療・介護資格を持つ専門相談員に自身の体調不良などを24時間365日、相談することが可能だ。
管理会社が導入するケースでは、単身者の物件に設置し、まもROOMの利用を入居のときの条件として活用している事例がある。利用の決め手としてオーナーや管理会社からは「大規模な工事が不要でよかった」、「1戸から契約することができ導入しやすい」などの声が寄せられている。
利用料金は初期費用無料で契約戸数に応じた月額制。提供エリアは1都3県を中心に、北関東での提供も開始する方向で順次拡大している。
ヤマト運輸、照明の点灯状況で見守り 電球交換のみで利用可能
宅配事業を行うヤマト運輸(東京都中央区)は、「見守りサービスあんしんハローライトプラン」を21年2月より提供している。同サービスでは自宅の電球を専用の電球に交換するだけで見守りサービスが利用でき、異常や依頼があった場合、ヤマト運輸の社員が訪問し、様子を確かめ報告してくれるサービスだ。
電球内にSIMが内蔵されており、前日の午前9時から当日午前8時59分までの24時間で点灯や消灯の動きがない場合に自動で家族らの通知先にメールで知らせるシステムである。通知者が利用者と連絡が取れない際や、都合により訪問できない際は、依頼をすればヤマト運輸が代わりに訪問してくれる。SIMが一体化されており、自宅にインターネット環境がなくとも利用できる。
利用料金は月額1078円(税込み)で、初期費用や途中解約費用はかからない。申込書やホームページから申し込みをすることができ、電球設置もヤマト運輸の社員が行う。22年1月現在で約1000人の契約者がいる。市役所などの地方自治体では4つ、管理会社や家賃債務保証会社などでは23社で導入が進んでいる。
導入の背景として、全国に約3700ある事業所や日頃地域を回っていることを生かし社会貢献ができるサービスに商機を感じたことや、気軽に始められ利用者の心理的負担も少ないといったことが挙げられる。
地域共創推進部ハローライトプロジェクトの川野智之プロジェクトマネージャーは「これまで3000件の異常検知、13件の訪問依頼があった。同サービスを生かし、安心して暮らし続けられる街づくりに貢献していきたい」と語る。
孤独死発生住居にかかる原復費用、平均38万9594円
19年に国土交通省が発表した全国の死亡者数138万1000人のうち、自宅での死亡者数は18万8000人となり、全体の約14%を占める。では、実際に住居内で孤独死が発生した場合、原状回復費用などはどれくらいかかるのだろうか。 正会員112社からなる一般社団法人日本少額短期保険協会(東京都中央区)では、「孤独死現状レポート」を毎年発行している。孤独死を「自宅内で死亡した事実が死後判明に至った1人暮らしの人」と定義し、協会の会員企業にて孤独死が発生した際の支払い案件データを基に統計化した資料だ。 21年6月に発表された同レポートによると、孤独死の発生した住居の原状回復費用は、平均38万9594円。残置物処理にかかった費用は平均23万5865円だ。孤独死の発生した部屋で再び新しい入居者を募集するためには、決して安くはない金銭的負担が発生する可能性が高いことがわかる。万が一のときのために金銭的リスクを軽減してくれるサービスの導入は、多様な入居者を受け入れる体制づくりに大きく貢献するだろう。
(2022年1月31日8面・9面に掲載)