弁護士が教える入居中でも家賃を上げる方法【賃貸住宅フェア2025 開催レポート】」

TMI総合法律事務所

管理・仲介業|2026年01月23日

当記事は賃貸住宅フェア2025in東京で講演したセミナーを書き起こしたものです。

辻村 慶太弁護士

講演者

TMI総合法律事務所
辻村 慶太弁護士

 

野間 敬和弁護士

講演者

TMI総合法律事務所
野間 敬和弁護士

賃料増額、情勢変動根拠に

増額請求権の行使 法的な正当性注意

 賃貸借契約が続いている間でも、家主や賃貸人から賃料を上げる通知をする「賃料増額請求権」という権利がある。その要点や効果、注意点などを説明したい。

 まず留意しておいてほしいのは、賃料を上げること自体が難しいということ。賃貸借契約とは、物を貸して、それに対して賃料という対価を払うことへの合意だ。賃料の増額は契約の内容を変更するということになるが、これには契約の両当事者の合意が必要だ。しかし、賃料増額請求は両当事者が合意しなくてもできるという、極めて特殊な例外として認められた権利になる。

 賃料増額請求権を行使すれば、契約が続いている間でも一方的に増額ができる。具体的な金額は裁判を経なければ確定しないものの、法的に増額の効果が生じる。

 賃料増額請求の条件として、借地借家法の条文には「建物の借賃が土地や建物に対する租税その他の負担の増減により、土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下、その他の経済事情の変動により、または近傍同種の建物の借地に比較して不相当となった時」とある。要するに、情勢の変動により、現在の賃料が周囲の相場と比べて極端に低くなっていると認められれば賃料増額請求が通りやすい。調停や訴訟が行われる場合は、基本的に賃料増額請求が正当か、増額の幅が合理的か、法的に有効かどうか判断するということになる。

 この判断において重視されるのは、最後になされた賃料の合意だ。法律上では、当事者間の合意が非常に高い効力を持っている。賃料増額の可否や幅は最後に合意した時点から現在に至るまで、どれだけ社会情勢や当事者間の事情に変動があったかによって決まってくる。

 数カ月前に10万円で契約した賃料を20万円に増額したいという例であれば、数カ月前に10万円で合意しているわけなので、その数カ月の間にどのような変動があったのか考えていく。当然だが、不当、非合理的と判断される請求が通ることはない。

値上げ幅の基準 継続賃料を考慮

 家主、賃貸人からよくある相談として、「うちのアパートに5年前から入居している人の家賃は月10万円だが、隣の空室は15万円で募集できるらしい。10万円の部屋の賃料を、賃料増額請求権を行使して15万円に上げられるか」といったものがある。先にも触れた通り、賃料増額請求は賃貸人と賃借人の両者が最後に賃料に同意した時から、現在までにどれだけ事情が変動しているかで考えるため、募集賃料と継続賃料は違う。この二つは鑑定方法も違うが、賃料増額請求権で裁判所が採用するのは継続賃料のほうになるため、募集賃料は基本的に考慮されない。両者を比較すると継続賃料のほうが安くなるものの、今までの入居者の賃料を募集賃料と同じにしたいという要求は認められにくいと思ってほしい。

 また、賃料増額請求は時間も費用もかかる。賃料増額請求をして調停から訴訟まで行うと、短くても1年ぐらいはかかることが多い。鑑定が必要になれば裁判所が選んだ鑑定人の費用、本人で手続きを行わないのであれば弁護士の費用もかかるため、かなりのコストが必要だ。弁護士の立場から言っても、賃料増額請求の裁判はやってみないとわからないところがあり、「どれぐらい賃料が上げられるか」と事前に聞かれてもはっきりとした数字を答えることは難しい。ただし、賃借人にとっても賃料引き上げに関わる手続きに応じなければいけないという負担があり、期間も1年以上かかるということで、それらを踏まえて交渉し、良い落としどころを見つける、というのがわれわれの目標になる。

 入居者としても、賃料増額請求に応じると賃料が上がって損しかないように思えるが、直近の合意時点が最近に移るため、しばらくは賃料が上がりにくくなる。これをメリットとして入居者にきちんと説明すれば、合意しやすくなるのではないだろうか。

(2026年1月19日18面に掲載)

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