大家が発行する管理通信1000号に見る 入居者目線の賃貸経営【賃貸住宅フェア2024 東京セミナーレポート】
管理・仲介業|2025年01月30日
当記事は賃貸住宅フェア2024in東京で講演したセミナーを書き起こしたものです。
愛知県半田市
森龍夫オーナー
安心につながる情報発信 災害に備え、避難経路を周知
家主業は一期一会 快適な住環境提供
私の賃貸住宅経営に対する考えを述べさせてもらう。まず一つ目に入居者の尊い命と貴重な財産を預かるビジネスだということ。二つ目は安全・安心、快適な住環境を提供し、その対価として家賃を頂戴するビジネスだということ。そして三つ目は、入居者との出会いと別れを通じて、一期一会を大切にするビジネスだということ。
自分の物件に住んだ人と、時間・場所を共有するという経験は、かけがえのない宝物になる。自分の中で、そう位置付けている。
その考えを実現する取り組みとして私が行っているのが、「プライベート・フォレストだより」と称した入居者向けの管理人通信の発行になっている。
これはB4判の紙面で家主や管理人からの情報を伝えるもので、17年間で約1000号を発行してきた。その理念は、安全と安心、そして地域の話題を柱にして伝え、入居者に快適な住環境を提供することだ。
管理人通信で情報を発信することで、家主や管理人の顔を知ってもらい、考え方を伝えていくことが入居者に対するホスピタリティーにつながる。「ここに住んで良かった」「住み続けたい」と思ってもらうために、この管理人通信を発行し続けている。
ベランダからの避難について紹介しているプライベート・フォレストだより
建物の安全性通達 不安や疑問を解消
管理人通信の具体的な内容についても、お話しする。神奈川県横浜市でマンション傾斜問題が起きた際に、入居者から「ここはどのくらいの地盤までくいを打ち込んでいるのか。傾きはしないか?」という問いかけがあった。この時は、8〜9mのくいを全部で49本、岩盤に当たるまで打ち続けており、十分な強度があるということを記事にした。
また、ある時は骨組みに加えて強靭(きょうじん)な壁で支える構造であることを伝え、安全が確保された建物であるということを知ってもらった。
そして最も重要なこととして、災害時の対処方法や知識の周知がある。特に火災については入居者の協力が必要な部分が多く存在する。年2回の消防機器や避難用はしごの点検についての告知。火災のときはベランダにある隔て板を割って隣の家へ逃げられること、そのために板の近くには物を置かないようにするといったような周知も管理人通信で行った。
道路や駐車場についても告知した。敷地内の道は子どもが遊ぶこともあるということで、安全を確保するための措置を講じるように入居者から要望をもらうことがあった。
これに応え、駐車場へ続く見通しの悪い通路にカーブミラーを備え付けたり、敷地に入ってくる車のスピードを落としてもらうために道路に凸部(ハンプ)や道路びょう(キャッツアイ)を設置したりといった対応を行い、それらを管理人通信で紹介している。
ほかに、駐輪場の明かりとしてLEDテープライトの導入や、自動体外式除細動器(AED)、電気自動車(EV)用の充電機器の設置、宅配ボックス、食材宅配用のコンテナ、籠式のごみ箱、サイクルキーパーといった設備を入居者の生活の改善のために用意して、これも管理人通信で伝えた。
新しい設備を紹介 ニーズに応え導入
私自身の情報も発信している。自分は趣味でアマチュア無線をしているため、地震や災害の際に通信手段が途絶えても、アマチュア無線を使って地元の仲間とつくっている連絡会を通じて情報伝達の手段を確保できるということを入居者に伝えた。これも、住人の安心につながればと思ってやったことだ。
賃貸住宅ビジネス、家主業は他人任せではいけない。管理会社に丸投げせず、できることは自分でやり、手塩にかけて物件を磨き上げ、愛着を持つ。手間をかけた分、家賃収入という果実が得られるものだと私は信じている。
建物を建てれば自然と入居者が集まってくるというのは、もう昔の話だ。今は入居者が選ぶ時代なのだから、魅力がある物件にして、入居者に選ばれ続ける必要がある。そのためにも、絶えず入居者のニーズの把握に努め、入居者目線で考える大家でありたいと思う。
(2025年1月27日15面に掲載)