賃貸住宅デベ、ZEHで差別化

フュディアルクリエーション,フィリックス,グローバル・リンク・マネジメント,オリックス銀行

建築|2025年02月07日

 賃貸住宅においても、省エネルギー性能の高い物件の供給が求められている。4月以降、住宅での省エネ基準適合が義務化される。国の方針を見据え、ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)仕様の賃貸住宅の開発にいち早く取り組む企業も出てきている。

相場比8000円高で成約も

集合住宅におけるZEHのエネルギー消費基準

50戸が51日で満室、土地仕入れも有利に

フュディアルクリエーション 古川伸樹社長フュディアルクリエーション
東京都港区
古川伸樹社長(49)

 

 国が打ち出す2030年のZEH標準化や国際的なESG(環境・社会・企業統治)投資への潮流を見据え、ZEH仕様の賃貸住宅に取り組むデベロッパーがある。

 ZEHにすることで賃料への影響やリーシングにおいて手応えを感じているのは、賃貸住宅の開発・販売・管理を行うフュディアルクリエーション(東京都港区)だ。

 同社が開発するのは主に賃貸マンションで、開発後は個人投資家向けに区分で販売している。

 ZEH-M Oriented(ゼッチマンションオリエンテッド)認証を取得したマンションの24年度の完工戸数は3棟105戸で、さらに10棟以上が進行中。

リルシアトウキョウノースゲートの外観

ZEH-M Oriented認証マンション
「RELUXIA TOKYO NORTH GATE(リルシアトウキョウノースゲート)」
※フュディアルクリエーション提供

 ZEH-M Orientedとは、再生可能エネルギーなどを除き、共用部を含む当該住棟全体で、 20%以上の1次エネルギー消費量削減を実現する集合住宅のこと。

 開発物件におけるZEH-M Oriented認証の取得率100%を目標としている。

 収益不動産を環境配慮型にすることで上がっている効果は二つある。

 一つ目は、相場より高い家賃設定だ。同社の顔認証、IoT機器付きのZEH-M Oriented認証取得マンションは、賃貸物件を探す顧客からのニーズが高いという。光熱費などのランニングコストが抑えられる省エネ効果も好評で、相場より7000~8000円高い家賃でも成約している。家賃を上げることで収益物件としての資産価値も上がり、投資家が売却する際にも有利になるという。

 入居者層にも変化があり、法人契約の割合が高まっている。同社の古川伸樹社長は「通常の管理物件は法人契約が占める割合が3割だが、ZEH-M Oriented認証取得の場合は5割以上にまで上がる。企業のSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みの一環として、環境に配慮した社宅需要が高いように感じる」と話す。

 二つ目は、販売やリーシングの短期化だ。ZEH-M Orientedの仕様にすることで建築費が上昇した分は販売価格と家賃に反映しているが、成約は好調だという。2月中旬に竣工を予定する全50戸のZEH-M Oriented認証マンション「RELUXIA(リルシア)横濱吉野町Ⅲ」は24年12月に投資家への販売を開始、約1カ月で完売した。

 入居者募集は同年12月3日に始め、わずか51日で満室になった。同社は50戸ほどの規模の物件であれば、竣工後2カ月ほどで全戸成約するのを目安とする。同物件では竣工前に満室を実現した。同様に24年度に完工した同認証マンション3棟105戸はすべて稼働中だ(25年1月21日時点)。

 さらに開発物件を環境配慮型にすることにより、土地の仕入れでも優位性が生まれたという。「ZEH-M Oriented認証を取得することで金融機関からの評価が高い。仕入れの際の提示金額を、他社よりも高く設定できるようになった。特に東京都心では土地の仕入れが厳しい状況が続いているが、強気な姿勢で買える」(古川社長)

 同社がZEH-M Oriented認証の賃貸マンション開発の検討を開始したのは22年ごろから。ZEHを推進する国の政策目標を踏まえ、将来的には環境配慮型の住宅が標準化することを見据えて企画を開始。24年1月にはZEHデベロッパー認定を取得。ZEHに関する販売営業担当者向けの研修を行うなど、積極的に環境配慮型マンションの開発・販売に取り組む。

販売営業担当者向けの研修資料

販売営業担当者向けの研修資料

 同社が今後業界に期待するのは、ZEHに対する認知度の向上だ。古川社長は「特に賃貸仲介会社がZEHに対する理解度をより深められれば、賃貸物件を探す人への認知度もさらに高まるだろう。結果として環境配慮型物件全体の価値が上がるのではないか」と話す。

 同社ではZEH-M Orientedにさらなる付加価値を加えた物件の企画を進める。今後、創エネ・蓄エネを活用した防災型住宅をコンセプトとする単身者向けマンション開発も検討する。「今後は、ZEH-M Orientedからさらに一歩進んだ、新しいコンセプトの賃貸住宅の開発に取り組みたい」(古川社長)

建築コストをコントロール、利回り維持

フィリックス 佐藤翔常務フィリックス
愛知県名古屋市
佐藤翔常務(41)

 

 愛知県を中心に投資用木造賃貸住宅の開発・販売・管理を行うフィリックス(愛知県名古屋市)も、ZEH仕様のアパートを積極的に展開する。建築の内製化などにより販売価格と表面利回りを維持し、投資家からの反響も好調だという。

 同社は、22年9月にNearly(ニアリー) ZEH仕様のアパートを竣工。23年10月以降に着工する物件については、共用部を含む住棟全体でZEH-M Orientedを標準仕様としている。同認証を取得した賃貸住宅の完工戸数は、92棟843戸(25年1月27日時点)。23年度の開発棟数は年間約50棟で、24年度は年間約62棟のZEH仕様の賃貸住宅の開発が進行中だ。

フィリックス ZEH-M Oriented認証取得アパート

フィリックスが開発したZEH-M Oriented認証取得アパート

 環境配慮型のアパートの場合、同社で企画する1棟9戸のアパートでは建築費が1000万円ほど上がる計算だ。そのコストを販売価格に転嫁すると、表面利回りが0.7~1%下がることになる。

 佐藤翔常務は「ZEHの認知度は現段階では低いと感じる。個別性もあるため何円高い設定が妥当なのかが説明しにくい。現在は、ZEHによる家賃アップを織り込まないようにしている」と話す。

 家賃への転嫁を行わず、新築で表面利回り7%以上を保つために行うのが、木材プレカット工場の内製化によるコスト削減と建築資材メーカーとの価格交渉だ。建築資材については何社とも話をし、同社の方針に理解を示した企業の協力もあり、仕入れ値を抑えられている。

 同社が賃貸住宅をZEH仕様にすることの意義はブランディングと物件売却時の競争力の二つ。

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おすすめ記事▶『フュディアルクリエーション、開発物件のZEH化推進』

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