不動産事業を行う緑葉社(兵庫県たつの市)は、人口減少が進む兵庫県たつの市でまちづくりを手がける。古民家を再生し飲食店などを誘致してきた。今、注力するのはグループ会社所有の旧しょうゆ工場を、観光施設として再生するプロジェクトだ。地域の企業や金融機関などの協力により資金調達を行う。地域全体の価値を高めようと事業拡大を図る畑本康介社長を取材した。
2600㎡の工場群を観光拠点へ
買取再販後、転貸 城下町で地域活性
緑葉社は市民出資の株式会社で、城下町の町並みを生かした地域再生を目的としている。畑本社長は2015年に同社の社長に就き、古民家再生によるまちづくりを始めた。同社の古民家再生事業は、買い取り再販と転貸を組み合わせたスキームだ。自社で買い取った古民家を改修し、投資家に販売。その販売した物件を投資家から借り上げ、転貸している。
モデルケースとしては、150万円で空き家を買い取り、600万円をかけて改修。登記費など諸経費50万円を含め原価800万円の物件を、1000万円で投資家に売却。この時点で200万円の粗利を確保する。その後、投資家と賃貸借契約を結んで物件を借り上げ、テナントに転貸することで継続的な転貸差益を得る。
再生した古民家の一つ。カフェを併設した宿泊施設「パーチ・ゲストハウス」
畑本社長は「古民家を仲介するだけでは、収益性が低く、事業として継続することが難しい。そのため、古民家のリフォーム、販売、賃貸を一気通貫で担うことで、投資額を早めに回収し、ストック収入を確保する利益構造にした」と説明する。
現在、借り上げ物件の転貸差益を含む管理事業の粗利はおよそ年間720万円。これまで投資家に販売した物件は40軒ほど。ほかに改修工事や売買・賃貸仲介のみで携わるケースもあり、合わせて再生した物件数は100軒以上に上る。物件を購入する投資家は、首都圏に住むたつの市の出身者や、地元の経営者など。表面利回りは5〜6%で、地域貢献のために購入を決めるケースが多いという。
たつの市の城下町エリアは「播磨の小京都」とも呼ばれ、石畳の道に白壁の町家などが並び、情緒ある町並みだ。地場産業としてしょうゆやそうめんの製造、皮革の生産加工業が盛んで、古くから現存している工場もあり歴史や文化を感じることができる。「この町並みを残し、生かしながら、移住者と観光客を増やし、地域の活性化につなげていきたい。そのためには、個々の再生不動産における利益を追及するのではなく、地域全体の価値を高めるエリアマネジメントが欠かせないと思っている」
歴史的建物を取得 購入費は1億円弱
城下町エリアで空き家再生に取り組んできた畑本社長は、現在、敷地面積2600㎡の旧しょうゆ工場を、観光拠点として整備するプロジェクトを進めている。同プロジェクトは、城下町エリア全体の価値を高めるために、観光客を迎え、町の歴史や文化を発信する拠点にしていく。25年1月に文化庁の「文化観光推進法に基づき認定した拠点計画及び地域計画」に認定され、多くの地元企業が参画する一大事業だ。旧しょうゆ工場には、地域の宿泊施設のフロントや観光客の荷物預かり場、地域住民も利用できるイベントスペースを設ける。ほかに飲食店や物販店をテナントとして誘致していく。
このプロジェクトは、旧工場の購入時から構想していたわけではなかった。旧工場は、畑本社長が設立した再生不動産の賃貸業を行うムカシミライが21年に購入した。株主が40人ほどいる緑葉社では金融機関からの資金調達が難しかったため、畑本社長がムカシミライを立ち上げた。「購入の諸経費などを合わせると、金額は1億円弱。歴史的な工場群を残したい一心で、採算をとる方法をしっかり考えていなかった」と、当時を振り返る。
購入後に旧しょうゆ工場でアートイベントを開催したが、売り上げは伸びず、負債が増えてしまった。緑葉社とムカシミライの資金繰りは悪化し、畑本社長は厳しい状況に追い込まれた。
しかし、これまで地道に古民家を再生してきた実績が、危機的状況を好転させた。緑葉社で1軒1軒取り組んできた古民家再生によって、町の活性化を実感し、畑本社長のビジョンに共感する地元企業が増えていったのだ。
その1社が、緑葉社のメインバンクでもある西兵庫信用金庫(兵庫県宍粟市)だ。同信用金庫は、一般財団法人民間都市開発推進機構(東京都江東区)と提携し、24年3月に、たつの市を含む地域の活性化を支援するまちづくりファンドを創設。畑本社長が進める旧しょうゆ工場のプロジェクトをはじめ、城下町エリアでの複数のリノベーション案件を資金面から支える取り組みが始まった。
旧しょうゆ工場のプロジェクトには、たつの市のほか、自治会や商店会メンバーで構成するまちづくり運営組織「龍野みらい舎」、地域のしょうゆメーカー、鉄道・運輸会社なども参画している。
旧しょうゆ工場の外観写真
投資会社の設立へ 円滑な資金調達を
参画者が増えた理由として、自治会や商店会、民間企業などが連携し、城下町エリアがある龍野地区のまちづくりに取り組む環境が整ってきた背景がある。19年にたつの市の城下町エリアである龍野地区が、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。この選定を契機に、同市は22年、「龍野地区まちづくりビジョン」を策定。「ほどよくにぎわいがあり、生活と観光が共存するまち龍野」を目指す。そのため、自治体だけでなく、自治会、商工会、地域の事業者による連携や協業につながった。
畑本社長は、城下町エリアのまちづくりに複数の企業が出資する地域再生投資会社の設立を目指している。年数が古く担保価値の低い古民家の再生事業は、資金調達が要になる。これまで地域貢献の意識を持つ個人に、再生した古民家を販売していたが、まちづくりにつながる不動産への投資は、地域の企業も担うべきだと考える。
「増加する空き家を食い止めるには大きなファイナンスが必要。地域の魅力が高まり、住む人や観光客が増えれば、地域の企業もそのメリットを享受できる。継続的にまちづくりに関わる仲間を増やしていきたい」
緑葉社/ムカシミライ
兵庫県たつの市
畑本 康介 社長(42)
(2025年4月7日13面に掲載)





