財産の管理・運営を家族に委任する家族信託をオーナーに提案する不動産会社が増えている。信託を切り口にオーナーの家族や資産の状況を把握したり、次世代オーナーとの接点を持ったりする会社もある。高齢化が進む中、オーナーの意思能力低下による管理業務の停滞防止にもつなげている。
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家族信託 保有する不動産や預貯金などの資産を信頼できる家族に託し、その管理や処分を任せる財産管理の手法。委託者を親、受託者を子、信託財産の運用で得られた利益を受け取る受益者を親とする場合が多い。 |
オーナー意思能力低下対策も
管理替え防止へ 案件6件進行中
髙松エステート
大阪市
小松晋治社長(63)
髙松コンストラクショングループ(大阪市)で3万7000戸を管理する髙松エステート(同)は、相続時の管理解約を防ぐため家族信託の提案を実施。4月16日時点で6人のオーナーから組成申し込みを受け付ける。
同社は2024年8月に、管理会社向けの家族信託ノウハウ提供を行うL&F(千葉市)が運営する家族信託提案ネットワーク「家族信託の相談窓口」に加盟。オーナー向けの賃貸経営勉強会「資産塾」で家族信託に関するセミナーを実施。合計10件程度の個別相談を受けた。オーナー訪問の際にセミナーでの内容を話し、個別相談につながったケースも2~3件ある。
個別相談があった際は、家族信託の相談窓口の研修を受けた社員が対応する。オーナーからより具体的な話を求められた場合は、家族信託の相談窓口のスタッフに引き継ぐ。実際に組成を行う際は、同窓口の提携司法書士が公正証書で信託契約書を作成する。
提案を開始した狙いは、次世代オーナーとの接点を確保し、代替わりの際の管理解約を防ぐことだ。小松晋治社長は「相続のタイミングで管理替えが発生するケースは多々ある。家族信託の提案を通してご子息とコミュニケーションをとることで、管理替えを防止したい」と語る。同社では一般管理からマスターリースへの切り替えも勧めている。家族信託の組成時に、同時にマスターリースを提案するケースも想定している。
10年で20件組成 認知症リスク対策
ありき
岡山県津山市
有木聖人専務(45)
岡山県で3400戸を管理するありき(岡山県津山市)は、オーナーの高齢化に伴う管理業務停滞リスクへの対策として家族信託に取り組む。14年に家族信託の提案に取り組み始め、25年4月3日までに組成したのは20件ほど。半数が管理を受託するオーナーで、残りが不動産売却の顧客だ。
同社は相続支援全般に注力している。福岡相続サポートセンター(福岡市)が運営する相続支援フランチャイズチェーン(FC)「全国相続サポートセンター」への加盟や相続関連の資格取得を行い、相続に関する知識をつけてきた。管理を受託するオーナーの家族信託組成案件のうち、約半数は同社が開催したセミナーの聴講からの相談によるものだ。残りはオーナー訪問時に直接、家族信託の制度を説明して組成まで至った。
相談を受けた際は、まずオーナーに、家族を集めて自身の資産をどうしたいかを話し合うよう依頼。続いて、どの資産を信託するのかを固める。その後、ありきが提携する司法書士にオーナーの希望を伝え、司法書士と公証人が公正証書で信託契約書の案を作成。オーナーの最終確認を経て組成に至る。
同社が家族信託の提案に取り組み始めた目的は、高齢オーナーの意思能力低下リスクへの対策にある。「意思能力が低下しているオーナーが所有する物件の賃貸借契約や募集条件について、ご子息と話をして進めてしまうのは法律違反になる。管理会社として早急にリスク対策をする必要があると考え、家族信託に取り組み始めた」(有木聖人専務)
売買の顧客に提案 相談から管理受託
狩野コーポレーション
京都市
狩野一成社長(50)
京都市内で700戸を管理する狩野コーポレーション(京都市)は、他社との差別化の一環として家族信託の提案に取り組む。25年4月24日時点で家族信託の組成支援実績が1件ある。
同社は19年に、くふう住まいコンサルティング(東京都品川区)が運営する相続支援フランチャイズチェーン(FC)「不動産相続の相談窓口」に加盟。FC本部の研修を活用して知識を得て、現在は相続対策勉強会を年に19回行う。
組成に至った1件は、売買の顧客のケースだ。2年ほど売買取引が成立せず、その期間に物件の所有者の意思能力が低下。不安を感じていた配偶者が同社に相談し、家族信託を説明したところ組成を希望したという。
提案が管理の獲得につながったケースもある。相続対策勉強会に新規で参加したテナント・賃貸住宅のオーナーから相続の相談を受け、家族信託を提案。組成自体は別の司法書士事務所で行うことになったが、物件の管理は同社が受託した。
家族信託含む相続支援に取り組むのは、他社との差別化が目的だ。狩野一成社長は「エリアで相続支援に継続して注力しているのは当社くらいだ。実家の売却など不動産に関わる悩みを地域の人から相談してもらえる状態をつくっていきたい」と話す。(中村)
(2025年5月19日1面に掲載)








