賃貸管理会社にとって、公営住宅の管理が地域での認知度向上につながっている。公的な事業を担っているという信頼感が、管理の受託増や新卒の獲得に寄与。住宅確保要配慮者(以下、要配慮者)の受け入れノウハウを、民間の管理物件につなげる動きも出てきた。
管理受託や新卒獲得に寄与
公共性が信頼に 人材採用に効果
北海道旭川市の市営住宅の全棟となる、214棟4914戸を管理する富士管財(北海道旭川市)は、同市の市営住宅管理により地域からの信頼感向上につながったと話す。結果的に新卒採用に好影響を与えているという。
市営住宅の管理開始は2017年。小川恭平社長が家業を継ぎ、代替わりしたタイミングだった。小川社長は「商圏の人口減少を理由に、これまで主軸だった不動産開発業から、事業の軸足を賃貸管理に切り替える方針を掲げた。そのために、地域やオーナーから管理会社としての認知度・信頼度を高める目的で、市営住宅の管理を開始した」と振り返る。
市営住宅の管理担当者は5人。専任の正社員が2人、公営住宅の管理経験がある嘱託社員が1人、パートスタッフが2人だ。
市営住宅の管理は、自治体から委託料が支払われる契約で、年単位で報酬の上限が決まっている。小川社長は「市営住宅の管理事業で利益を獲得するためには、いかに業務を効率化するかが重要。当社は20年に自社ビルを竣工し、市営住宅管理の拠点を併設したことが最も効率化につながった」と話す。
同社は毎月発行するオーナー向け通信に、市営住宅の管理について掲載し、その事実を訴求してきた。当初の狙いだったオーナーからの信頼を獲得することに対しての効果について、小川社長は「地場の大手法人オーナーからの、管理受託の獲得が増えていった」と話す。
加えて「新たに実感している効果として、新卒採用ができるようになった。具体的に測定はできないが、学生の親や学校の先生が、公共事業を手がける不動産会社として推薦しやすくなったのでは」と語る。17年以降、年間3~5人の新卒採用ができており、25年度には同社にとって初となる4年制大学卒の人材も入社している。
小川社長は「今後計画しているのは、市営住宅の管理業務に、新卒育成の機能を持たせること」と話す。行政の仕事の色として、業務が細分化・形式化されている特徴を生かし、仕事の進め方を学ぶことができる実地研修に近い配属先になり得ると期待する。
富士管財
北海道旭川市
小川恭平社長
商圏拡大時の戦略 行政業務に学びも
沖縄県で、県営住宅と宮古島市の市営住宅を計315棟3482戸管理するのが、日宅(旧住宅情報センター:沖縄県那覇市)だ。同社が公営住宅の管理に参入した06年は、商圏を石垣島エリアに拡大するタイミングだった。
坪内力取締役は「新しい商圏で知名度のない当社が、オーナーや地域住民に対し安心感を与えるためには、公共事業である公営住宅の管理が信頼獲得につながる一手だと考えた」と話す。
加えて行政関連の業務を経験することで、形式化されている細かい業務の段取りを学び、民間の賃貸管理サービスの質を上げる狙いもあったという。結果、石垣島エリアでの民間の管理戸数実績は、2100戸にまで伸長している。
今後は、公営住宅管理事業としての利益拡大にも注力していく。人員体制は、石垣エリアの県営住宅を専任の正社員2人とパートスタッフ1人、宮古島エリアの県営・市営住宅を専任の正社員5人で管理する。
「ブランディングの位置付けが大きかった公営住宅管理は、売り上げ、利益がそれぞれ全体の5%ほどの構成比だ。年間委託料として売り上げが固定されている条件下で、入居者に対する付帯商品の提案強化やスタッフの残業時間削減への意識向上を図っている」(坪内取締役)
特に付帯商品提案の中でも、家賃債務保証の導入を進めていきたいとした。
日宅
沖縄県那覇市
坪内力取締役
要配慮者受け入れ ノウハウ蓄積狙う
石川県内3地域の市営住宅を計1200戸を管理する志乃丘商事(石川県小松市)は、要配慮者の受け入れのためのノウハウ蓄積として、市営住宅の管理を手がける。
12年から市営住宅の管理に参入。石川県白山市、能美市、小松市の3エリアに管理範囲を拡大してきた。参入のきっかけについて、篠岡沁一郎社長は「メイン商圏の小松市の賃貸市場は、隣接する金沢市と比較すると活発だとはいえない。一方で競合他社は少なくない。差別化戦略として、12年当時、大手不動産会社が参入しなかった公営住宅の管理を事業の柱に位置付けることを決めた」と振り返る。
小松市に立つ志乃丘商事の市営住宅管理拠点。階を分けて本社を併設している
同社はJV(共同企業体)体制で公営住宅の管理を行う。2社が参画し、同社の社員は専任で2人を、もう1社の建物管理会社は1人を配置。JV体制により、限られた人員で管理業務をカバーできている。
公営住宅の管理実績を踏まえ、取り組んでいるのが、民間の賃貸住宅における要配慮者の受け入れだ。管理を担う公営住宅1200戸の入居者のうち、65歳以上は6割を占めるという。同社では、孤独死のリスク対策として、残置物処理に関してのみ死後事務委任契約を活用。高齢入居者受け入れに関わる実務の経験値を積んできた。自社の民間管理物件においても高齢者受け入れのノウハウを生かしていく考えだ。
一方で、公営住宅において課題も見つかってきた。
篠岡社長は「公営住宅にも、立地条件により空室が目立つ物件もある。特に高齢者は、生活利便性が低い地域での暮らしは現実的ではない。今後取り組みたいのは、要配慮者の生活の実態に即した空室情報を提供できる地域のネットワークをつくること」と語る。国が主導するセーフティネット住宅ポータルサイトの、いわば地域版の構築を想定する。公営と民間の両方の視点から、要配慮者の受け入れを考えられる立場にある同社が主導することで、幅広い空室情報の収集・提供につなげていく。
その土地に根付いてビジネスを展開する地域不動産会社にとって、公共性というブランディングの効果は大きいようだ。人口減少による人材不足の時代に、回り回って人材確保につながっている。
志乃丘商事
石川県小松市
篠岡沁一郎社長
(齋藤)
(2025年11月17日1面に掲載)





