築古の古民家を再生することで、地域活性を図る企業がある。その土地の来歴を生かした物件企画や、ブランディングの強化により、物件を起点に周辺エリアへ人を呼び込む。中には、累計500件以上の再生案件を手がけた事例もある。
累計565件の案件実績も
取得し改修後販売 地元の暮らし重視
緑葉社(兵庫県たつの市)は、古民家再生において物件のブランディングを重要な要素としている。改修の対象となる物件が立つ地域の暮らしを把握し、企画に生かす。それにより、集客が可能な物件に再生できるようになるという。
同社は積極的な再生事業を行うエリアをたつの市に絞る。物件の取得、改修企画から、運営事業者とのマッチングまでを手がける。2015年に再生事業を開始して以降、累計100件の再生案件を行ってきた。
基本的なビジネスモデルは、グループ会社と連携しながら古民家を取得し、飲食店、もしくは宿泊施設などにコンバージョンして、投資家に販売する。投資家は、地元企業の経営者やエリアの出身者等、再生した古民家が立つ地域にルーツを持つ人が多い。売却後は同社がマスターリースする。表面利回りは5~6%。
畑本康介社長は「改修後にテナントがすぐに入居し、事業を開始できるようになるまでのリノベーションを行っている」と話す。事業者は飲食店経営のノウハウなどはあるものの、古民家をコンバージョンする建築のノウハウは持っていない。同社のようなまちづくり企業が間に入り、物件の再生を行う必要があると考える。
緑葉社が改修した事例。旧医院を改装し、多世代交流カフェとしてオープンした
加えて、再生した物件が持つストーリー性を伝える広報活動も重視する。対象となるエリアの暮らしや産業を基に街のコンセプトを決め、物件を企画。すくい上げたコンセプトを、古民家で事業を始めたい人の目に留まるように手を加えて発信する。古民家で事業をするにあたり、人気を集めるのはカフェなどだ。
畑本社長は「ハコ(物件)だけきれいにするのではなく、町の暮らしやビジョンに沿う人を募集していくことも大切」と語る。
年間30棟を改修 京町家を賃貸へ
京町屋の再生・景観保全を手がける八清(京都市)は、物件が抱える課題を解決する改修ノウハウを強みに、京町屋を中心とした古民家の再生を累計で565件行ってきた。
同社は京都市内を主な商圏とする。基本的なビジネスモデルは、物件を仕入れて改修。一般顧客や投資家へ販売する。資金については、取得費用は金融機関からの融資を受け、改修費用は自己資金で行う。年間60棟の物件を仕入れ、そのうち半数にあたる30棟の再生を手がけている。
京町屋は、京都府内に古くからある住居のこと。京町屋が立ち並ぶ場合に、屋根同士が互いに隣地へ越境していたり、建物の目前の路地が狭く工事車両が入れなかったりするなどのハードルがある。そういった取り扱いの難しい物件の再生を専門的に行うことで、物件情報が集まりやすい状況をつくれているのだという。
八清が改修し、2億円で売却した古民家
越境は土地家屋調査士と連携し、隣接地の物件の所有者と境界の立ち会いを行う。そのうえで越境部に対する覚書を結ぶことで、再生できるような環境が整う。
工事車両が侵入できないときは、手作業で資材を運ぶこともあるという。
改修後の物件種別は、一般顧客向けの別荘や住居、収益不動産として賃貸住宅、宿泊施設が多い。特に、最近需要を感じているのは別荘だ。京都市は海外富裕層からの人気も高く、別荘に改修した物件を取得したオーナーのうち、3~4割は外国人だという。
西村直己社長は「当社が取得する物件は傷みがひどいことが多いため、いずれの物件種別への改修でも、柱などは総交換することが多い。古民家らしい雰囲気を損なわないように、新しい建材にもエイジング加工を施して使用することがある」と話す。
資金調達が強み 仕組み金融で運用
narrative(ナラティブ:奈良市)は、物件が持つ歴史を生かしながら、古民家を宿泊施設や宿泊施設付きレストランに改修してきた。18年に設立して以降、累計の再生案件は12件だ。
同社は物件企画から設計、資金調達、開発、運営までを一気通貫で手がける。奈良県でのプロジェクトを中心に、活動範囲は全国としている。
これまでには、奈良県最古とされるしょうゆ蔵を「NIPPONIA(ニッポニア) 田原本マルト醤油」というオーベルジュに再生した。ほかにも一度閉業した銭湯を復活するとともに、宿泊施設や飲食店を開業。観光客による街の回遊性を高めた事例などがある。
narrativeが改修したNIPPONIA田原本 マルト醤油
大久保泰佑社長は「当社の強みの一つは資金調達。事業内容の収益性を基に融資を受けるストラクチャードファイナンス(仕組み金融)を主に活用している」と話す。同社が手がける古民家は、耐用年数などの関係から、東京23区内にある不動産のような担保価値を持てない。だが、再生後に入居する事業者から賃料収入を10年間得るなどの契約内容にすることで、事業における収益性を担保する。それにより、融資を受けることができるようになる。
同社は再生後の古民家を運営するにあたり、元々物件を保有していた事業者から借り上げるパターンが肌感覚で6~7割ほどだ。
こういったノウハウを生かし、金融機関によるまちづくりファンドのバックアップや、他社の古民家再生における資金調達のサポートを担うこともある。
再生で知名度向上 事業の広がりも
空き家や古家の再生に関する情報発信を行う、一般社団法人全国古家再生推進協議会(大阪府東大阪市)の大熊重之理事長は「不動産会社が古民家再生に取り組むことで、会社の知名度向上や事業の広がりにつながる」と話す。
同協議会はこれまで、物件と投資家のマッチングや、再生に関するオンライン講座を行うなど、空き家・古家の再生を促進してきた。
大熊理事長は「不動産会社が古民家などの古家を再生することのメリットは、大きく二つある」と語る。
一つ目は、古家の再生を手がけることで、類似の物件情報が集まりやすくなることだ。ポータルサイトへの掲載や広告出稿は大きなコストがかかる。「だが、古家再生の事業者としての認知度が上がることで、自然と案件の相談が増える。手数料だけを見ると利益が薄く感じる案件も、会社の認知度向上のための広告費と捉え直せば、割安な投資といえる」(大熊理事長)
二つ目は、古家再生から建築のノウハウを習得し、多様な物件企画ができるようになる点だ。賃貸住宅だけではなく、店舗や小規模オフィス、福祉施設、民泊など、エリアに合った物件企画を行うことで、1案件あたりの収益拡大にもつながる。
「全国で空き家・古民家・古家の再生に取り組んできた。再生事業は、単なる建築・不動産の枠に収まらず、まちづくり事業に広がっていく可能性のある事業だ」(大熊理事長) (國吉)
(國吉)
(2025年12月8日1面に掲載)





