10年住むと持ち家になる賃貸住宅!?空き家再生で供給

牡鹿観光

管理・仲介業|2026年06月21日

牡鹿観光 阿部 康彦 副社長 久道 雅史 取締役

同業他社9社巻き込み推進

 「贈与型賃貸住宅は、未来を担う子どもたちや地域、オーナー、みんなのために、非常にいいビジネスモデルです」と話すのは、牡鹿観光(宮城県石巻市)の久道雅史取締役。設立56年の総合不動産会社が、空き家を安価に取得・リフォームし、10年間の賃貸後に入居者へ無償譲渡する「贈与型賃貸住宅」の提供を始めた。人口減少が加速する石巻エリアで、地域の同業他社9社と連携しながら、空き家再生を進めていく。

「まちが活性化し、必ず副産物が生まれる」

10年入居で物件譲渡 入居待ちは30人

 宮城県石巻市で、新しい形の空き家活用が進む。取り組みを主導するのが、地場で設立56年を迎える牡鹿観光だ。

 同社は、石巻市を商圏に不動産・建築事業を展開。注文・建売住宅からリフォーム、売買仲介、賃貸管理まで住まいに関するサービスをワンストップで提供する。

 賃貸住宅の管理戸数は860戸、2026年2月期の売上高は約6億円。そのうち建築部門が約3億円を占め、自社保有物件の賃料収入や太陽光発電の売電収入が経営を下支えする。この安定した経営基盤を生かして力を入れるのが、贈与型賃貸住宅の普及だ。

 贈与型賃貸住宅は、約10万円以下で空き家を仕入れ、キッチンや浴室、洗面、トイレといった水回りを中心に200万〜300万円をかけて必要最小限のリフォームを施す。そのうえで、家賃5万円程度と相場より安い設定で入居者を募り、2年更新の賃貸借契約を結ぶ。10年間入居すると、物件が無償で譲渡され、入居者の持ち家になるスキームだ。なお、10年後の賃貸継続や途中退去も自由に選択できる。

贈与型賃貸住宅の仕組み

 25年から取り組みを開始し、26年5月末時点の再生実績は4棟、再生準備中の物件も4棟ある。27年には年間で5棟、将来的には年間で10棟の贈与型賃貸住宅の供給を目指していく。

 1号案件は、元々500万円で売りに出されていた売却物件だった。買い手がつかない状況が続いていたところを、同社が10万円で取得。オーナーは「両親が建てた大切な家を壊さずに利用してもらえるなら、安くてもいい」と話していたという。

 贈与型賃貸住宅は、事業を継続させるうえで、再生を担う事業者が損をしない仕組みが大切であり、物件を安価に仕入れる必要がある。久道取締役は「改修費用などを5年間の家賃で回収し、残りの5年間で利益を積み上げます」と話す。

 1号案件の事例は地元紙が取り上げたことで大きな反響を呼んだ。入居希望の問い合わせも相次ぎ、現在、贈与型賃貸住宅への入居待ちは約30人に上るという。すでに成約した入居者の属性は、子育て世帯のほか、関東と石巻市の2拠点居住者だった。

外観の改修イメージ

外観の改修イメージ

事業者チーム設立 ビジネスを循環

 同取り組みで注目したい点は、自社単独の事業ではないことだ。地域の同業他社を巻き込んだプロジェクトチームとして贈与型賃貸住宅の供給を進めている。

 25年6月に結成したプロジェクトチームは、牡鹿観光を含め不動産会社10社から成る。この旗振り役が、久道取締役だ。

 きっかけは、久道取締役が全国賃貸住宅新聞に掲載された明正興産(長崎市)による贈与型賃貸の記事を目にしたことだった。「これまで当社でも空き家対策で試行錯誤してきましたが、初めて目にするスキームでした。直接聞いて、自分の目で見たいと思い、すぐに電話をかけ視察を申し込みました」と振り返る。単独で行くのはもったいないと、日頃からつながりのある地域の同業他社4〜5社に声をかけ、長崎市へ視察に向かった。

 長崎市は港町で、坂が多く道が比較的狭い。駐車場が少なく、人口減少と高齢化が進んでいる地域だ。築30〜70年の買い手が付きにくい空き家が多く、石巻市と似た住宅市況だと感じたという。贈与型賃貸住宅は、入居者とオーナー、建築不動産会社にメリットがある三方よしの仕組みだ。地域を巻き込み、使命感を持って積極的に推進していく姿勢にも共感したことから、石巻市でも始めたいと明正興産の尾上雅彦社長 に申し出たという。

 狙いは大きく三つある。まず一つ目が、戸建ての持ち家を希望する子育て世帯のニーズに応えることだ。住宅ローンは組めないが、月々の家賃なら払える家庭も多い。長期の住宅ローンを組む必要がなく、10年後に住宅を取得できれば、子どもの教育費がかかる時期に家賃がゼロになる。

 二つ目が、空き家オーナーの問題解決。相続するも売れず、維持管理費がかかり、解体するしかないと諦めていた空き家の活用方法を提供することができる。三つ目が、自社だけでなく地域全体の事業につながること。空き家を取得すれば、仲介事業、空き家を再生するとリフォーム事業、貸すときには入居募集事業が生まれる。10年間賃貸として出した後にも、リフォームや解体して新築需要が生まれる可能性もある。こうした好循環を生み出せば、地域の事業者の仕事につながっていく。

リビングはスケルトンの状態から改修

リビングはスケルトンの状態から改修した例もある

 再生実績の1棟を例に挙げると、同プロジェクトチームのエクセルハウス(宮城県石巻市)が空き家の売買仲介に入り、牡鹿観光が買い取り・リフォームを実施。チーム10社で集客・賃貸仲介を行った。

厳しい市況背景 地域で〝総合不動産業〞

 同業他社間でこれほど密な連携が生まれた背景には、石巻市の厳しい市況がある。

 人口減少が進む石巻市における賃貸住宅の入居率は約70%だったという。東日本大震災の後、賃貸の需要が大きくなった時期もあったが、現在は震災前の水準に戻っている。さらに、ワンストップで住宅サービスを提供できる会社がここ30年で淘汰(とうた)されていき、現在はリフォームや売買、賃貸などの単体で事業を行う会社が多い。 しかし1社単体で事業を継続するのが難しい時代となったことから、同業者でネットワークをつくり、協力して仕事を提供し合う方向にシフトしている。

 牡鹿観光を含め、さまざまな事業者が参加し複数のコミュニティーが生まれている。「石巻宅地建物研修クラブ」には、現在19社がノウハウを持ち寄り勉強会を行う。「不動産情報交換ネットワーク」には9社が参画し、ランチを食べながら情報交換を行っているという。贈与型賃貸を推進するプロジェクトチームもこうした土壌の中で生まれた。

 連携の輪は、異業種にも広がっている。最近では地元の葬儀社から相続物件の紹介が舞い込んだ。空き家相続の顧客を開拓するのはハードルが高いが、葬儀社からの紹介であれば接点があり、スムーズに話が進む。今後、増加している介護施設にも相続ニーズが眠っているとみて、連携を進めていきたいとする。

 「贈与型賃貸住宅は大きな利益が出る仕組みではないため、参画する事業者は少ない。また、不動産を安価で売買することに共感してくれるオーナーも多くはないです。ただ実績を積み重ねれば、人々の価値観も変わってくると思います。入居者として地域に人を呼び込むことができれば、まちが活性化し、必ず副産物が生まれる。3年、5年先を見据えて引き続き地域連携を強化していきたいです」(久道取締役)

贈与型賃貸住宅のプロジェクトチーム

(齋藤)
(2026年6月15日20面に掲載)

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