テレワークで注目集める多拠点居住サービス 利用者の傾向を聞く~前編~

アドレス, KbuK Style(カブクスタイル), クロスハウス, Sanu(サヌ)

管理・仲介業|2022年02月08日

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アドレスが提供する多拠点サービス用の部屋(福島県)

 新型コロナウイルス下でテレワークを導入する企業が増え、場所にとらわれない働き方が可能になる中、注目を集めるのが多拠点居住サービスだ。月額定額制でホテルや賃貸を利用できるサブスクリプションサービスを提供する企業が続々登場し、ユーザーも増えているようだ。ユーザーの需要をくみ取り、新たなライフスタイルを提案する各社のサービスの特徴や利用者の傾向、狙いなどを聞いた。

アドレス、会員20年比で8倍に

アドレス、ワーケーションの利用用途が大多数

 月額4万4000円からの住み放題サービス「ADDress(アドレス)」を展開するアドレス(東京都千代田区)は、21年の新規会員数が20年比で8倍となり、リモートワークの普及とともに利用者が拡大している。19年4月のサービス開始から対象物件を全国47都道府県、220物件に広げてきた。

 「全国創生」をスローガンに掲げる同社では、オーナーや不動産会社から借り上げた1棟当たり4LDK以上の空き家を改修し、利用者に提供している。対象物件があるエリアは、最も多い1都3県で2割ほど。大阪府や福岡県などの地方都市のほか、香川県の小豆島や熊本県人吉市といった地方にも点在し、全国に分散している。

 用途としては、ワーケーションの利用が大多数を占める。コロナ下でリモートワークになり、人と接する機会が減ったことで、見知らぬ土地で気分転換をしながら、仕事と地域住民との交流を図る会社員らの利用が目立つという。

 ADDressでは、利用者の6割が10人以上の地域住民と出会っている。物件には地域を熟知したコミュニティマネージャーである「家守」を配置し、地元の人しか知らない店や、地域交流のイベントを利用者に紹介。その土地に根付いた生活を体験できる。ADDressを1年以上利用する50代女性からは「家守を通じで地域の人たちとつながることができ、静岡県ではこれまで体験したことないみそやキムチづくりを楽しんだ」と地域での交流に価値を見いだす声が上がっている。

 会員数の増加に伴い、対象物件の拡大を急ぐ。21年秋からはこれまでに活用してきた賃貸住宅の空き家や民宿に加え、住居者のいる住宅の余った部屋を貸し出すサービス「空き家プラン」を始動。子育てを終えたシニア世帯や子どものいない新婚世帯など、部屋数に余裕のある住宅のオーナーを募集し、提供物件の多様化を図る。

 桜井里子取締役は「ライフスタイルが目まぐるしく変化したコロナ禍を教訓に、さまざまな利用者に応じたサービスプランを提供し、新たな需要の掘り起こしを進める」と語る。

 

KbuK Style、世界で拠点が1000超 近場での宿泊増加

 定期制宿泊サービス「HafH(ハフ)」を運営するKbuK Style(カブクスタイル:長崎市)は、世界36カ国、1010拠点(2021年11月末時点)でサービスを展開。19年4月のサービス開始以降、会員数は3万5000人を突破した。会員への調査では、旅を目的とした利用が45%と最も多く、気分転換にHafHを活用している顧客が多いことがうかがえる。

 旅といっても、遠方への旅行だけではない。会員は1都3県の在住者が約6割と過半数を超え、宿泊施設の利用も東京都が約38%と全国で最も多かった。

 コロナ下で遠出が難しい中、気軽に行ける近場のホテルに滞在し、息抜きに利用する需要が高まっている。

 また、仕事場や出張先としての利用が合わせて37%に上ることから、多様な働き方をかなえるサービスとしても活用されているようだ。

 会員は60%以上が会社員。年齢層は30代以下が75%と多くを占める。同社では五つの定額プランを用意しており、月額9800円(税込み)で最大3泊できる「スタンダード」が人気だ。短期利用の需要が高く、平均滞在日数は1.5泊となる。

 人との交流機会が減ったコロナ下では、会員同士のコミュニティを構成するプロジェクト「HafH Communty(ハフコミュニティ)」を始動した。現在400人の会員が参加し、登山やバーベキューなどのイベントを企画する部活をイベントで立ち上げた。HafHの宿泊先で会員同士が実際に会い、イベントの様子をSNSで投稿することで新規の会員獲得にもつながっている。

 大瀬良亮社長は「アフターコロナを見据えた旅の在り方を考え、世の中のニーズをくみ取った商品を企画していきたい」と語る。

KabuK Style 大瀬良亮社長の写真

KabuK Style
長崎市
大瀬良亮社長(38)

 

 

クロスハウス、共同部屋を減らし感染リスクを考慮

 都内23区を中心に定額住居サービス「クロスハウス」を展開するクロスハウス(東京都品川区)は、19年に稼働率98%を誇っていたが、コロナが広がり始めた20年春ごろに外国人入居者の帰国が相次ぎ、クロスハウスの入居者数が6割にまで落ち込んだ。入居者を増やすべく、共同部屋を減らし、感染リスクの低い家具付き個室を増加。加えて、ユーチューブに物件紹介動画を上げて認知拡大を図ったことで、稼働率は7割程度にまで回復した。

 09年に始動したクロスハウスは、同社の管理する物件間を定額で住み替えられるのが特徴だ。拠点数は440物件、ベッドの台数は現在5000床。これまでに利用した入居者は累計3万人に上る。月額2万9800円から利用でき、共同部屋や家具家電が付いた個室タイプの部屋を用意している。コロナ下では感染リスクを懸念する入居者の心理的負担を緩和するために、2人以上の共同部屋を個室タイプに変えていった。現在はベッド数の8割が個室タイプとなる。

コロナ下で需要が高まった個室タイプの部屋

コロナ下で需要が高まった個室タイプの部屋

 入居者の8割は日本人で、20代の単身者が目立つ。コロナ下では、感染リスクの高い満員電車での通勤を避けるために、会社の近くにあるクロスハウスの物件を契約するケースや、ワークスペースとして活用するケースが増えた。また、外国人の入居者は、コロナ前の19年に全体の3割を占めていたが、2割に減った。現在はワーキングホリデービザで長期間日本に住むアジア人留学生が利用している。

 同社では、入居者をコロナ前の水準に戻す取り組みを行っている。若者からの指示が高いインフルエンサーを約50人起用し、SNSやユーチューブでサービスの紹介を行ったほか、外国人の入国制限緩和を見越して8言語に対応できる体制を構築した。ほかにも、法人営業で法人契約を入居者全体の1割にまで引き上げた。

 大森新太郎取締役は「拠点を海外に広げる計画だったがコロナ下で断念した。日本と海外の住まいを気軽に移動できるサービスにしていく」と語る。

 

Sanu、独自開発の木造キャビンに1000人待ち

 Sanu(サヌ:東京都中央区)は21年11月に、月額制の宿泊サービスSANU 2nd Home(サヌセカンドホーム)を開始し、長野県の白樺湖と山梨県の八ケ岳の2拠点で5棟を運営している。現在、初期会員枠は完売し、次期会員枠の待機者は1000人以上にのぼる。22年春ごろまでに運営する施設を計7拠点50棟まで拡大し、待機者の半分を会員にできるように物件の確保を急ぐ。

 SANU 2nd Homeは、「自然の中にもう一つの家」をコンセプトとする。都内から車で3時間以内で行ける自然の中に、自社企画・開発した木造物件「SANU CABIN(サヌキャビン)」を運営。専有面積50㎡で、10㎡のテラスが付く。室内は自然界から着想を得た曲線的な空間デザインであるほか、暖房をつけていなくても室温13度以上を保てる断熱性能を誇る。また、独自の木独自開発の木造キャビンに1000人待ち造構造で外部の音を室内に取り込みやすく、野鳥の声を聞くことができるなど、自然の中に溶け込む感覚が体験できるという。

曲線を生かした内観デザインのSANU CABIN

曲線を生かした内観デザインのSANU CABIN

 月会費は5万5000円で、月に最大4連泊できる。宿泊料が別途発生し、月曜日から木曜日までは無料。金曜日から日曜日、祝日、祝前日は1泊5500円となる。

 ユーザーの特徴は、年齢が平均38歳、都内在住の会社経営者やフリーランスが目立つ。滞在日数は平均2日となっている。

 観光ではなく、生活が営めるように設備にもこだわる。インターネット動画が楽しめるプロジェクターと音響スピーカー、バーベキューにも使えるたきび台、リモートワークに備えたWi-Fiとワークデスクを完備。物件から車で20分の場所には食材を調達できるスーパーやコンビニがあるため、日中は仕事に打ち込み、夜は家族や友人とくつろぐ会員が多いという。

 広報の水谷彩氏は「収容人数4人のキャビンは子どもがいる世帯も楽しめる。多くの人に自然の中のセカンドホームとして利用してもらいたい」と語る。

(2022年2月7日4面に掲載)

関連記事▶【テレワークで注目集める多拠点居住サービス 利用者の傾向を聞く[前編][後編]】

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