新型コロナウイルスの感染再拡大に伴い、短期貸しを行う物件の需要が高まっている。濃厚接触者などが自主隔離のシーンで活用しているためだ。民泊を短期貸しに転用するmatsuri technologies(マツリテクノロジーズ:東京都新宿区)では、1月の反響数が、サービス開始時の約10倍となった。ただ、今後のニーズは落ち着いていくと見込む。
家庭内感染拡大で反響10倍
民泊の運営を主事業とするmatsuri technologiesでは、1月19日から31日までの13日間で、コロナ感染者の自主隔離用の短期宿泊プラン(以下、自主隔離プラン)への問い合わせがおよそ230件あった。これまでの同サービスで最も反響の多かった20年4月に平均1日2件ほどだったのと比較し、1日当たり約20件とおよそ10倍の反響だ。オミクロン株の感染力が強く、家族間での感染が続いた影響により自主隔離プランのニーズが高まったとみている。
問い合わせがあったのは、パートナーや子どもがいる社会人が7~8割と大部分を占めた。家族が濃厚接触者になり、念のため自主隔離を選んでいるという。エリアは東京都や神奈川県、埼玉県などの首都圏を中心とした関東が6~7割と最も高い割合を占め、次点で大阪府からの反響が2割と続く。
宿泊プランは5万~10万円の7泊プラン、7万~13万円の10泊プラン、月額15万~20万円の法人プランの三つを用意している。問い合わせ時点では7泊のプランのニーズが最も高かったものの、宿泊者の家族がさらに別の人の濃厚接触者になってしまうなど、濃厚接触が数珠つなぎとなったことで宿泊を延長するケースがほとんどだった。
インサイドセールス部の加藤拓真マネージャーは「自主隔離プランのニーズはあと長くても1カ月程度とみている。前回のピーク時に、1~2週間で問い合わせが落ち着いたため」と話した。
実家帰省で利用
マンスリーマンションとウイークリーマンションに特化したポータルサイトを運営するNOWROOM(ナウルーム:同)では、自主隔離プランへの反響が、21年11~12月に月あたり300~400件と、通常の10倍の問い合わせがあった。年末の帰郷前に自主隔離を行うことで、実家の家族への感染を抑制しようとしたためではないかとみる。
同社は20年5月に自主隔離プランをリリースした。21年11~12月でニーズが特に高かったのは東京都内のウイークリーマンションだ。1泊5000円ほどの価格帯で、10~14日間の滞在がボリュームゾーンだ。問い合わせは30~40代の都内在住者がほとんどだった。
千葉史生社長は「特に年末は里帰りなど家族と過ごす時間が増える。感染していたとしても、潜伏期間を短期貸しの部屋で過ごすことで、家族への感染を抑制したのではないか」と推測する。
一転、22年1月以降は、反響数が月に30~40件に下がった。千葉社長は「最近では自宅療養を自主隔離の代替とする人が増えているように感じているため、反響は落ち着いていくとみている」と話す。
民泊物件に引き合い
「当団体あてに来る宿泊に関する問い合わせは、例年だと月に1、2件だが、ここ1年は月に5~10件ほどに増えている。その3割ほどが、コロナ関連だ」。こう話すのは、民泊ビジネスの業界団体である一般社団法人日本民泊協会(大阪市)の大植惇生代表理事だ。
40代以上からの問い合わせが多く、女性が3分の2ほどを占めている。希望する物件は、自宅周辺が中心で、予算は1泊3000円程度。宿泊日数は1週間以上。問い合わせ件数は、21年春ごろから増加し、秋ごろには落ち着いてきた印象だという。
同協会では、コロナ関連での民泊活用を促進するために、行政に対する働きかけを積極的に実施。その一つとして、医療従事者が民泊などの宿泊施設を利用する際に、補助金を得られる仕組みをつくるよう大阪府に働きかけた。
大阪府では21年4月から、コロナ感染症入院患者を受け入れる医療機関が、特定の条件を満たす医療従事者用に、宿泊施設や住居を借り上げる際の費用を日額最大4000円補助している。特定の条件とは、感染症入院患者対応のため深夜勤務となる場合や、基礎疾患を抱える家族と同居している場合だ。
「日本人の民泊利用は増えているが、まだ追い風とは言えない」(大値代表理事)
日本民泊協会
大阪市
大植惇生代表理事(52)
(2022年2月14日1面に掲載)