新型コロナウイルス禍で、賃貸仲介ビジネスにおいてオンライン対応が広がり、飛び込み客が減るなど、仲介店舗の役割が変化しつつある。そうした中、積極的な新規出店で業績を拡大する会社がある一方で、店舗を集約して固定費削減と業務効率化を図る会社も現れている。それぞれに利点や戦略について聞いた。
新店は1年間で仲介300件に成長
リライフ、商圏を被らせる ドミナント戦略
東京23区を中心に出店拡大戦略を取るのが、賃貸仲介を行うリライフ(東京都千代田区)だ。同社は、2014年の設立以来、拡大路線を進め、仲介件数を順調に増やしている。現在の仲介店舗数は16店舗だ。
鈴木卓人社長は店舗拡大のメリットについて、「人材や資金といった経営のリソースが潤沢になり、会社の成長を早められる。また、顧客からの信用も得やすい」と話す。19年には、10店舗で年間仲介件数2243件だった。コロナ下でも出店攻勢を続け、20年〜21年の2年間で5店を新設。年間仲介件数は3571件と2年で約56%増えた(グラフ1参照)。22年は1月にも1店舗出店しており、年末までにさらに4店舗の新設を予定。年間仲介件数は4200件を見込む。
1店舗当たりの人員は店長を含めて5人前後で、賃貸仲介のスタッフのみで構成。1店舗当たりの運営コストは初期費用が約700万円、ランニングコストが月間300万円ほどだ。新店舗は半年から1年ほどで、年間仲介件数300件まで成長させているという。
出店エリアの選定は、東京23区内で、既存店から2駅前後の距離が基本的な条件。立地は最寄り駅から徒歩1分以内に限定。
特定の圏内に複数の店舗を持つことで、エリアでの認知度やシェアを高めていくドミナント戦略を採用。店舗同士の距離が近ければ、店舗間での異動を行う際にスタッフの負担が軽くなるため、人員の再配置がしやすくなるメリットもある。
出店にあたっては、十分な収益を確保できるかをデータに基づいて判断する。具体的には、大手ポータルサイトに掲載されている物件数や競合他社の数、最寄り駅の乗降者数といった関連データを基に、出店時に見込める反響数や仲介件数をシミュレートしている。
鈴木社長は「コロナ前に来店者の20〜25%を占めていた飛び込み客は半減したが、反響来店でも『店舗を見かけて知っていた』というケースは多く、店舗の広告効果はいまだに大きい」と話す。
同社が店舗拡大路線を取る理由は二つ。一つは賃貸管理などと比べて早期に利益を上げやすい賃貸仲介事業で資金を確保し、賃貸管理や売買仲介、リノベーション事業を含む会社全体の業務効率化のためのシステム開発に資金を投入するため。すでにマーケティングに活用できる顧客・物件管理のシステムや、RPAによるポータルサイトへの出稿システムなどを開発し、導入済みだ。
もう一つの理由は、賃貸仲介を通じて、将来の見込み客を確保することだ。同社は、接点を一度持った顧客に対して、賃貸仲介を入り口に、その後の住まいや収益物件の購入、売却まで、生涯にわたってフォローする戦略を取る。「設立から8年が経ち、少しずつリピーターからの売買仲介に関する依頼が出てきている」(鈴木社長)
リライフ
東京都千代田区
鈴木卓人社長(38)
Live Design、多額の費用投じ意匠性を高める
LiveDesign(ライブデザイン:兵庫県神戸市)は、07年の設立以来、店舗拡大戦略を進め、現在は兵庫県内に7店舗を展開している。出店して運営を軌道に乗せるたびに、仲介件数を月間30件、年間で360件前後増やしてきた。21年は12月に1店舗を出店し、仲介件数は20年比9.4%増の2200件だった。
出店エリアの選定は、まずJRの快速が止まる駅があること。そして、既存店と商圏があまり被らないこと。14年ごろまでは1店舗の商圏を半径2〜3kmに設定していた。最後に、ポータルサイトへの物件掲載数や人口統計などを基に、人口あたりの競合数が少ないエリアを見極めて出店エリアを決定する。
ただし、「ネットでの部屋探しが普及し、現在は当時の倍くらいに1店舗の商圏が広がっている」(藤田進社長)
店舗のデザインにもこだわる。具体的には、藤田社長は「人気ホテルのような、おしゃれさと心地よさの調和がとれたデザインを目指している。改修費用が増したとしても、部屋探しユーザーが入店しやすく、長く滞在するようできれば十分ペイできる」と話す。
1店舗目を出店する際に、12〜13坪の店舗ながら改修費用に約270万円ほど投じて意匠性の高い店舗に仕上げたところ、「地域で話題になり、来店客が殺到した」という。その経験から、店舗によっては、改修費用に1000万円をかけるほど、店舗の意匠性を追求するようになった。
店舗の運営コストは、テナント料や人件費、販管費など込みで、1店舗当たり月間300万円ほど。1店舗あたりの3、4人の営業スタッフを配置している。
仲介店舗スタッフの主な業務は賃貸仲介だが、物件確認などを通じて把握した空室情報を管理部門に共有する役割も果たしている。20年に2818戸だった管理戸数は、21年に3158戸まで増えている。
Live Design
兵庫県神戸市
藤田進社長(47)
タウンハウジング、マニュアル化と店長教育に注力
1都3県を中心に出店攻勢を続けて仲介件数を伸ばしているのがタウンハウジング(東京都千代田区)だ。21年には21店舗を出店。直近の5年で48店を増やし、現在122店舗を展開。17年には4万4828件だった年間仲介件数は21年に6万3718件と42%増加した(グラフ2参照)
高畑順常務は店舗拡大のメリットについて「広告塔としての役割はもちろん、商圏の違いによるリスクヘッジにもなる。例えばコロナ下では、郊外の店舗でいち早く業績が回復した」と話す。
1店舗当たりのスタッフは平均7人ほど。店長1人と営業担当者5人、事務担当者1人といったイメージだ。店舗で行う業務は賃貸仲介が中心だが、管理受託業務を兼任するスタッフを配置するなど、機能拡大を進めている。今後は売買仲介業務も行う店舗を増やしていく計画だ。
現在、同社は計300店の出店を目標としており、すでに150店ほどの新規出店エリアは決定済みだ。「これまでに積み重ねてきたノウハウや実績があるため、ある程度の賃貸ニーズがあり、すでに他社の賃貸仲介店舗があるエリアなら、十分な仲介件数を見込める」(高畑常務)
出店場所を選ぶ際は、原則として広さ12坪以上、地上階、新耐震基準の建物、駅から目に入りやすい場所であることを条件としている。これらに、店頭にLED看板を出すのに十分なスペースがあること、通行人の目につきやすい袖看板を出せること、5年以上のテナント契約を結べることなどを加味して、出店場所を決定する。近隣に競合店があるかどうかは、「顧客が集まりやすいというメリットもあるので、あまり気にはしない」(高畑常務)という。
同社では、店舗拡大にあたり、賃貸仲介に関する業務を実際の流れとともに細かく記載したA4サイズで40〜50ページにもなるマニュアルを作成。未経験者でもマニュアルに沿って業務を行えば、早期に戦力化できる体制を整えた。また、会社の仕組みや部下の指導方法などをまとめた、店長クラスのスタッフ専用のマニュアルも用意。店長候補を集めた研修を行っている。
高畑常務は「店舗拡大に伴う一番の課題は、末端のスタッフまで会社の意思を浸透させ、業務のレベルを高い水準で均質化すること。そのため、業務のマニュアル化や店長教育には特に力を入れている」と話す。
(2022年3月28日4面に掲載)