賃貸ビジネスに関わるデータやマーケットの特性・変化を取材し、主要都市の賃貸住宅市場を分析する。今回は山梨県甲府市の管理会社上位4社に話を聞いた。
法人不調で仲介3割減も
甲府市は山梨県の県庁所在地で、人口も県内ではトップだ。地元企業の拠点はJR中央本線の甲府駅周辺に集中しているものの、法人需要に一部で陰りが出ている。加えて、若いファミリー層やリタイア層が隣接する、昭和町や北杜市などへ流出する動きもある。一方で、都内のテレワーカーからは新宿まで1時間半程度で行ける二拠点居住の地としての注目も集める。
エスティケイ、企業の契約低調コロナで追い打ち
山梨県甲府市を拠点に、甲斐市、中央市で約7900戸を管理するエスティケイ(山梨県甲府市)売買事業部の牛山庸市部長は「甲府市での法人需要が厳しくなっている」と話す。
甲府駅周辺の市中心部はオフィス街があるほか、市内に工業団地を有するものの、法人契約は減少の傾向だ。経費削減のために法人契約から個人契約に切り替わったほか、新型コロナウイルス禍の影響でテレワークが増え、2017年〜18年ごろと比べ法人の賃貸仲介契約数は約3割減少している。
法人契約の減少に加えて、甲府市内から人口の流出が一部で進む。20〜30代のファミリー層は隣接する昭和町に、50代後半〜60代の団塊世代は同じく隣接する北杜市へ引っ越す動きが起きているという。
昭和町では11年にイオンモールが開業して以来、若年層からの人気が高まっている。また、行政の子どもへの手当などが手厚いということもあり、ファミリー層に特に人気だ。一方、団塊世代はリタイア後の田舎暮らしにあこがれて北杜市の別荘地を購入する事例が増えている。
甲府住販、企業誘致は進まず再開発も効果なし
甲府市を中心に約6200戸を管理する甲府住販(同)によると甲府市の中心部は雇用が多いもの、中心部から離れたエリアに住むパターンが増えているという。家賃が安く、マイカーで中心部に通勤できるからだ。甲府市と比べ、中央市や甲斐市は家賃が甲府市の約7割、昭和町でも8割程度で済む。
甲府駅周辺に居住するのは中心部に立地する企業への転勤者だ。ただ、東京都に隣接し、日帰りで行き来ができる環境であるため、甲府市への企業進出自体がここ10年間はあまりなく、反対に撤退が増えているという。
保坂大専務は「12年ごろから甲府駅周辺の再開発をしているが、中心部に住みたいという声は上がらない。行政も商店街を新しくしたり、移住への支援金など出しているが、効果がない」とコメントした。
フジオ、駅周辺に移住者増 就農者からニーズ
山梨県と静岡県、東京都を商圏に約1万戸、うち約4000戸を甲府市で管理するフジオ(同)によると、甲府市の中心部は転勤者や移住者に人気が高いという。都市部からの移住者たちは車を所有していないためだ。
特に、20年ごろからはコロナ下でテレワークの導入が進みIT関連企業に勤める30〜40代のファミリー世帯が、毎月数件は成約するようになった。同社の窪田けさ美常務は「東京都よりも広い物件を安く借りられる。都心に電車で1時間半程度で通える立地なので、月に1、2回東京都に出勤するテレワーカーらに便利だと考えられているのではないか」と話す。
そのほかには、17〜18年ごろから、就農者の移住が増えてきており、年間10件程度成約している。継ぎ手のいない農家が持つ既存の果樹園を利用して30〜40代の脱サラリーマンや山梨県の気候や風土に魅力を感じた人などが就農している。
同社で今後期待するのは法人需要だ。年間の賃貸仲介の約3分の1にあたる約1000件が法人契約だ。24年には以前撤退した半導体大手のルネサスエレクトロニクス(東京都江東区)の甲府工場が再び稼働するということで、さらなる企業関係者の賃貸需要が高まるのではないかとみる。
芙蓉建設、マンションが人気家賃最大2万円増
管理戸数約3500戸、そのうち約16%を甲府市で管理する芙蓉建設(山梨県富士吉田市)は10年前の12年ごろと比較し、アパートの家賃は2000〜5000円程度下がっていると話す。一方で、マンションと戸建て賃貸は反対に同程度上昇しているという。
甲府駅周辺の中心部に所在する証券会社や銀行に勤める単身者から需要の高い高級マンションの供給が不足。そのため、マンションの家賃が上がり続け、12年ごろと比較し、最大で2万円程度上昇しているという。賃貸事業部の小林秀紀部長は「礼金は良くても築5年ぐらいまでしか取れないが、中心部の賃貸マンションでは、礼金の設定が当たり前になっている」と話す。
以前は、甲府駅の北口を観光客向けにまちづくりを行っていたため、工事関係者によるウィークリーマンションの需要があったものの、現在はなくなった。ただし、引き続き渋滞緩和のために道路整備の工事が行われていることで、工事関係者や県外からの出張により短期貸し物件は75〜90%ほどの稼働率を維持できている。
まちづくり甲府、店舗誘致、イベント開催で活性化
まちづくり甲府(山梨県甲府市)では8年の設立より、甲府市役所と甲府商工会議所が協力し、半官半民で甲府市の中心部である甲府駅周辺の活性化に取り組んでいる。
同社では空き店舗へのテナント誘致を16年から始め、毎年10〜15軒の解消を目標に当時約170軒あった空き店舗への誘致を行っている。
また、毎月第2土曜日には市内の四つの商店街で「第2土曜市」と題したセールやイベントを主催。春と秋の年2回は、道路を歩行者天国にし、子ども向けのイベント「こどもマルシェ」を開催している。
業務担当を務める長沼恵介氏は「エリアの価値を高めることで後から人口などがついてくると考えている。地元の人と共に愛される街づくりを進めている」とコメントした。
(2022年6月20日6面に掲載)