災害発生時に物件への被害を最小限にとどめて資産価値を守るためにも、防災設備の定期的な見直しが必要だ。防災意識の高い入居者にとって、いつ起こるかわからない地震や火事の被害を抑える設備や商品の有無は、物件選択の指標の一つにもなり得る。本特集では賃貸住宅を守る防災商品を紹介する。
「手元に置く」がトレンド
ファシル、発電機と充電器を収納
災害用備蓄スタンド
防災製品の開発・製造を行うファシル(静岡市)は、2020年9月より災害用備蓄スタンド「BISTA(ビスタ)」を販売している。同商品はオフィスや公共施設、マンションのエントランスに設置する防災備蓄庫だ。災害発生時に必要となる発電機やカセットコンロ、スマートフォンの充電器、衛生用品など帰宅支援物資を約50人分収納する。
大きな特徴は2つ。一つ目は、災害時に不足しがちな発電機や充電器を搭載している点だ。緊急かつ必要性の高い備蓄を収納し、入居者だけでなく入居者以外も利用可能。設置場所での活用だけでなく、被災地となったほかの地域に支援物資として送ることもできる。
二つ目は、インテリアに溶け込むデザインだ。倉庫など、人目につきにくい場所に収納されがちな防災用品を生活空間に設置することで、災害時にすぐ利用できるよう意識付けを促す。
BISTAでは発電機や簡易トイレなどの帰宅支援物資を収納
フルパッケージ版のBISTAに加え、簡易版である「BISTA Simple(シンプル)」の2種類を提供する。金額はBISTAが74万8000円、BISTA Simpleは58万3000円(いずれも税込み)。高さ101.5cm、幅50.5cm、奥行き50cmとなる。22年5月時点で、災害対策の一環として大手ハウスメーカーからの引き合いもあり、200台以上を販売している。
八木法明社長は「災害時、地域の人々と助け合える『共助』ができるように商品設計を行った。今後は人が集まる物件や施設に商品を広く展開していきたい」と話す。
ファイテック、投げて使用する消火剤
4000以上の不動産店舗で販売
消火剤メーカーのファイテック(愛知県大口町)は、2011年より投げて使用する家庭向け初期消火用具「ファイテック投てき用消火用具」を販売している。
インテリアとしても設置できるようデザインにもこだわったファイテック投てき用消火用具
ボトル型で、火元に投げ入れると割れる強度に設計されている。食品添加物と同レベルの安全基準で外部試験を行っており、手肌に触れても安全な成分だ。マイナス30~90度までの環境で保管に耐えられるため、室内環境にとらわれず設置できる。冷蔵庫に磁石で貼り付けられる「天ぷら油用消火剤」も付属している。
これまで4000以上の不動産店舗と提携し、入居者向けにも販売する。火災が起きると、消防隊が消火に水を使用するため、鎮火しても火元の部屋以外も浸水し、一棟丸ごと使えなくなってしまうケースもある。林富徳社長は「友人のオーナーの物件が火災により物件価値がなくなったことが不動産会社との提携のきっかけだ。入居者自らが簡単に初期消火を行うことができれば、火災による資産価値下落のリスクも低減できる」と語る。
ファイテック
愛知県大口町
林富徳社長(46)
ホタルクス、停電時に自動で点灯
最大で約20時間稼動
照明器具の開発や販売を手がけるホタルクス(東京都港区)は、停電時に自動で点灯するシーリングライト「HotaluX AID(ホタルクスエイド)」を2021年12月より発売している。
照明とリモコン、停電検知送信機をセットで販売
付属の停電検知送信機を室内のコンセントに差し込むことで、コンセントの電圧状況を監視。停電を自動で検知すると、本体内蔵のバッテリーから非常灯に切り替わる仕組みだ。明るさは3段階で調整でき、最も暗い150ルーメンの明るさであれば約20時間点灯する。日中は電源を切るなど、使い方によりバッテリーを節約し数日間使用することも可能だ。
平常時は調光と調色の組み合わせで明るさや光色を選ぶことができる。8畳用のみ販売で金額はオープン価格となっている。一般社団法人防災安全協会(東京都世田谷区)の「防災製品等推奨品」に認定されている。
同社は、1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに停電時でも安全に避難や滞在ができるよう照明の開発に着手した。家庭用のほか、ビルや公共施設の照明も手がける。
経営管理本部の野崎重樹室長は、「災害などで長時間の停電を経験した人からの引き合いが多い。最近は災害時に避難所に行かないことも増えており、非常時でも明かりがあるだけで安心を与えることができる」と語る。
初田製作所、全10種類のデザイン展開
部屋になじむ消火器
防災関連機器の開発、販売を行う初田製作所(大阪府枚方市)は5月、インテリアになじむ住宅用消火器を発売した。消火器本体に3人のクリエーターが独自のデザインを施したもの。従来の消火器のように赤を基調としたものから、白や黒色まで全10種類の消火器を展開する。雑貨やインテリア感覚で、手元に置いてほしいという思いから開発に至った。
独自のデザインを施した消火器
重さは2.7kgで、女性や高齢者でも簡単に持ち運びが可能。消火薬剤には液体タイプを使用し、粉末消火器に比べて火元が見やすく、使用後は消火剤をふき取るだけで掃除が完了する。
総務省消防庁によると20年の建物火災の出火件数は1万9365件。そのうち住宅火災は半数以上を占め、コンロの消し忘れやたばこの火の不始末、電化製品からの火災などが出火原因の多くを占める。火災発生時には初期消火に消火器を用いる割合が最も多いが、一般家庭での消火器設置率は43.3%で、20~50代の子育て世代からは赤い消火器を置くことに抵抗があるといった声があった。
防災事業部の小野寺恵里氏は「家族や友人へのプレゼントとして購入する人も多い。賃貸管理会社やオーナーが部屋に設置し、入居者の安全を守るといった付加価値を提供するのに役立ててほしい」と語る。
価格は1万2000円(税込み・リサイクルシール込み)で、同社のホームページや通販サイト「amazon(アマゾン)」で購入できる。
(2022年6月27日11面に掲載)