一般社団法人尼崎家守舎(兵庫県尼崎市)は、地域の空き家問題に対し、短期・長期の時間軸からのアプローチをとる。一時的には、建物の崩壊や周囲の治安悪化を防ぐためにDIYで改修し、貸家や倉庫兼貸しスペースとして活用。中長期的な視野では、接道不良の解消を目指すといった複数のプロジェクトを手がけている。
接道区画一体での再開発を期す
尼崎市職員の副業 一般社団法人を設立
尼崎家守舎の小濱賢二郎理事は「空き家を根本的に解決するには5年、10年という中長期的な期間で取り組む必要がある。試行錯誤しながら、多くの民間事業者が空き家の活用・再生に取り組めるよう事業スキームを模索したい」と話す。
尼崎家守舎を立ち上げた相馬美津子代表理事と小濱理事は、尼崎市の職員だ。副業を認めるパラレルキャリア制度が整ったことを契機に、2021年に同法人を設立。当時は2人とも、尼崎市の住宅政策課で空き家対策などに取り組んでいた。自治体として介入しづらい空き家問題に対し、個人としても本格的に活動したいという思いが強くなり、同法人の立ち上げに至った。尼崎家守舎は、これまで2戸の長屋再生をコーディネートしたほか、もともと空き家だった建物をそれぞれ1軒ずつ所有・賃借している。
450万円で取得改修後に賃貸
接道要件を満たしていないことから空き家となるケースは多い。尼崎家守舎でもこの問題に取り組んでおり、接道要件を満たしていない築56年の長屋を所有する。周辺は道が狭く入り組んだ住宅街。居住ニーズがあるにもかかわらず、再建築不可のために空き家のまま放置される住宅が増えつつある。
尼崎家守舎は、2戸で構成する長屋のうち、空室だった1戸を購入。もう1戸には高齢夫婦が住んでいる。この長屋を含めて隣地の5軒で共有する細い通路の先に、建て替えの条件を満たす道路があり、隣地のうち1軒は空き家となっている。購入した長屋は老朽化によって長く空き家だったが、市が管理する広場のような空間に隣接し、治安や日当たりが良い立地だ。ゆくゆくは接道までの区画と一緒に再開発できるようになることを期待している。
「接道不良による空き家については、個々の不動産ではなく、接道する区画を一体のエリアとして捉え対策を考えなければいけない。購入した長屋も10年越しのプロジェクトになるだろう。その時まで空き家のまま放置しては住環境が悪化するため、暫定的に利用しながら時機をうかがう」(相馬代表理事)
将来的に接道できるか確実ではないため、賃貸運営での利益確保も必要だ。長屋1戸は450万円で購入し、専有面積65㎡の住居として賃貸中。入居者は知人の申し込みによってすぐに決まり、25年4月から家賃収入を得ている。住戸の一部は入居者と一緒にDIYで改修工事を行った。10年間の賃料収入で、購入費用と改修費の150万円、10年間の固定資産税などの諸経費を回収できる金額に設定した。
特定空き家を賃借 暫定的な課題解消
借り手となることで、空き家のまま放置されることを防ぐ取り組みも行う。25年12月には、特定空き家だった民家を暫定的な措置として借り始めた。この民家は建物の老朽化が進み、行政から指導対象となっていた。しかし共有名義のため所有者の意見がまとまらず、売却も大規模修繕もできない状況だったという。
尼崎家守舎は、所有者の親族から相談を受け、家賃1万円で借りた。一部は建具などを置く倉庫として利用。ガレージや雨漏りがない部屋は、イベント開催や貸しスペースとして使用し、家賃代を賄っていく予定だ。これまでに開催してきたDIYやまちづくりに関するイベント、交流会の中でも、少額だが売り上げが立つものもあった。地域活動や趣味が高じてフリーマーケットなどの小商いをする人たちのつながりもあり、使い手の見込みは立っているという。
特定空き家の根本的な解決には、建て替えや解体、大規模な修繕工事が必要になる。しかしこの民家の場合は、しばらく事態が改善することは見込めない。「すぐに解決ができないのであれば、暫定的な対策が必要。私たちが借りることで、固定資産税の負担を軽減することや、空き家の老朽化を防ぐことになる。このまま空き家が放置され、周辺地域の治安や住環境を損なうことは避けなければいけない」(相馬代表理事)
治安悪化を防止 家主の負担軽減
所有者に対しては、年間12万円の賃料収入で、雨漏りなどの補修工事を行うことを相談中だ。尼崎家守舎主催のDIYイベントなどで改修費を抑える案もある。特定空き家となれば、固定資産税の住宅用地特例が解除され、税金が最大6倍になる。金銭的負担は、所有者が将来、建て替えや解体を行う資金に影響してしまう。加えて、誰も使用せずこのまま建物の老朽化が進めば、屋根材の飛散や建物倒壊の恐れ、不法投棄や害獣の侵入にもつながる。尼崎家守舎では、まずはこうした喫緊の課題に対応することが必要だと考える。
「この1軒を借りたところで、社会的な影響は少ない。市内にはたくさんの空き家、特定空き家予備軍があるためだ。ただ、このような取り組みを多くの空き家所有者や民間企業に知ってもらい、暫定的な対策の一つとして参考にしてもらえれば、自分たちの活動に意義があると思う」(小濱理事)
DIY再生のノウハウ構築
「古い住宅を効率的に改修するノウハウを構築できつつある。建具は廃棄するだけでもコストがかかるため、なるべく再利用する。DIYは、職人が作業する工程・工期と分けなければ余分な手間がかかることも学んだ」(相馬代表理事)
DIYで改修した長屋。入居者の希望を反映し改修。DIYイベントでも改修を行った
尼崎家守舎は設立直後の事業として、阪神電気鉄道本線杭瀬駅近くにある長屋を2戸再生した。先に入居者を募集し、その入居者の希望を反映した改修プランで、長屋を再生し家賃アップを図る企画だ。改修後に家賃を値上げすることで、工事費を7〜8年で回収する。この改修工事にもDIYイベントを取り入れていた。
杭瀬の長屋再生プロジェクトは、尼崎家守舎として初めての事業ということもあり、リスクやコストを抑えたコーディネーターの立場で関わった。入居者の募集に加え、改修工事内容を入居者や家主、施工会社と調整するのが主な役目だ。小濱理事は「もし今、長屋再生プロジェクトに取り組むなら、家主から借り上げ入居者に転貸するスキームを勧める」と話す。ストック収入が得られるため、民間企業でも取り組みやすい仕組みになる。「地域の民間事業者に空き家再生や、エリアマネジメントを行ってもらうことが理想。尼崎家守舎では、民間事業者がそういった事業を展開できる素地をつくっていきたい」(小濱理事)
(平田)
(2026年5月18日11面に掲載)





