土地や建物の賃貸事業を行う千島土地(大阪市)は、自社保有の遊休不動産を活用しアートを軸としたまちづくりに取り組む。3月には国土交通省主催の「第1回地域価値を共創する不動産業アワード」の特別賞を受賞した。
創作活動支援し、まちづくり
同社は大阪市住之江区北加賀屋エリアの3分の1弱にあたる約23万㎡の土地を所有。借地だった土地の返還時に、借主が建てた建物などを譲り受け、クリエーティブをキーワードに再活用する。
遊休不動産を活用したプロジェクトを「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(KCV)構想」と名付け2009年に始動。現在、賃貸住宅、アトリエ、美術館、イベントスペース、音楽スタジオ、宿泊施設、天井高約9.3メートルの大型作品の収蔵庫、コミュニティー農園など、合わせて44拠点となった。
空き家と空き地の利活用事業は、地域創生・社会貢献事業部の社員7人が担当する。
KCV構想に関わる物件では、主にアーティスト・クリエーターを入居対象とし、安価で原状回復義務のない物件として提供。入居条件は、クリエーティブな活動を行う個人または団体で、かつKCV構想へ共感できることだ。スタートから14年で現在テナントなどを含む94戸にアーティストらが活動する。
16年にはアーティストら以外も入居対象とした賃貸住宅「APartMENT(アパートメント)」を開業。アーティストがリノベーションをした8戸と入居者がリノベしやすいよう素地を作った9戸を含む全20戸で、現在18戸に入居がある。
入居者募集は主に自社ホームページ「北加賀屋つくる不動産」や賃貸情報サイトでの掲載、口コミなどで行う。
テナントの入居者らが月に一度、独自でイベントを開催するなど、北加賀屋エリアのまちづくりの参加者が増加しているという。
古くは造船業で栄えた同地域がアートで地域活性化を行うきっかけとなったのは、1988年に敷地面積約4万2000㎡に及ぶ名村造船所大阪工場だった土地が現状有姿で返還されたことだ。
活用方法を模索する中で、劇場プロデュースなどを手がけるリッジクリエイティブ(京都市)の小原啓渡社長と知り合い、2004年に名村造船所大阪工場跡でアートイベントを行った。
結果的に、普段は人が来ない場所に900人ほどが集まり、アートでのまちおこしに可能性を感じたという。
千島土地の芝川能一社長は「アートのまちであることが知られるようになってイベントには多くの人が集まるようになった。今後は常時人が集まる場所にするために、飲食店やギャラリー、アパレルのテナントの誘致に力を入れたい」と話す。
千島土地
大阪市
芝川能一社長(74)
(2023年4月10日4面に掲載)