1990年代のような「アナログ時代」「市場の成長が右肩上がりの時代」には、個々の社員が1から10までを行い、それぞれの活動の合計値が店の売り上げとなる構造の会社が多くありました。
分業化で顧客ニーズに対応
一方、現在は「デジタル時代」「右肩下がり時代」ですから、そのやり方は通用しません。デジタル時代の仕事は「チーム制」「個々が得意な分野を担当」「それぞれの活動をかけ算して売り上げをつくる仕組み」で回さなければなりません。
今、情報のやりとり・取得の中心は「スマートフォン」「チャット」「動画」になり、「紙」「メール」「文字」で業務が行われていた時代とは桁違いのスピードとボリュームでコミュニケーションが進む時代です。
個々の許容量・キャパシティーを超えた情報が飛び交う時代に、一人一人のスタッフがすべてを行うやり方で対応できるはずもなく、スピードやボリュームの処理を得意とする「デジタルツール」を活用し、細かくなった顧客ニーズに適切に対応するための「役割分担」が必須になります。
反響対応専任化 壁の多くは経営者
今、必要性が高い専任化は「物件問い合わせ対応」です。
ここは多くの会社で壁になっていることがあり、その壁をつくっているのは経営者であることが多々あります。
その背景にある考えには、「物件問い合わせ対応を専任化したら営業社員は何をするのか」「物件問い合わせ対応だけさせたら暇を持て余すことになる」「偏った成長しかできない社員が増えてしまう」といった考えがあります。
また、「物件問い合わせ対応の専任化」を一度実施してみたけれど、自社ではうまくいかなかったので元に戻したという会社もあります。
いずれにしても、結果としては「これまでのやり方」での役割分担や連携を続けていて、成果の出ない状態が続いていることが多いように思います。
店長の職務 マネジメント専念
多くの会社で「これまでのやり方」から抜け出すことができない最も大きな理由は「店長が自ら稼ぐプレーヤーから抜けることができず、『マネジメントが片手間』になっている」からです。
「チーム制」「個々が得意な分野を担当」「それぞれの活動をかけ算して売り上げをつくる仕組み」で組織を回すことが求められる「デジタル賃貸仲介」において、「旗を振る人」がいない状態になっていれば機能しないのは当然です。
そのようなときには、まずは「ウェブ掲載」を専任化して集客強化を徹底し、月間集客数を「1店舗あたり150件以上」に伸ばすことから始めることを勧めます。
併せて「物件問い合わせ対応」を専任化すると「反響来店率50%」まで伸長でき、さらに「対面接客」も専任化して行えば「来店成約率70%以上」に伸ばすことができます。
すると「反響数150件×反響来店率50%×来店成約率70%=52件」の月間成約件数を実現できます。成約単価は郊外エリアと都市エリアでは変わってきますが、単価8万~15万円だと「月間売り上げ420万~780万円」以上の獲得ができます。
店長をプレーヤーから外してマネジメント専任にしたモデルチェンジ初期としては、まずまずの売り上げ獲得ができるのではないかと思います。
DXの目的 市場調査の強化
賃貸仲介ビジネスではさまざまなデジタルツールを使うようになっていますが、反響・来店・申し込みといった案件管理や各種実績の数値管理を「エクセル」「グーグルスプレッドシート」で行っていたり、スケジュール管理を店舗ごと・部門ごとで「別々のカレンダー」で行っていたりする会社はまだまだ多くあります。
業務ツールはデジタル化しているけれど、マネジメントツールは以前からの方式のままという状態では「デジタル賃貸仲介時代」の勝者となることはできません。
そもそも多くの会社では「マネジメント」がどういうものであり、店長が何をすべきなのかということの理解から進んでいない事例が多いように思います。
その結果、店長がトップ営業として稼ぎ、ほかの営業スタッフはそこそこの売り上げ実績で横ばいとなり、皆がそれぞれに自分の売り上げを追い求める状況が永遠に繰り返されてしまうことになるのです。
賃貸仲介に限ったことではないですが、DX(デジタルトランスフォーメーション)の目的は「業務効率化」ではなく、一つは「マネジメントの強化」であり、二つ目は「マーケティングの強化」です。まだまだ「アナログ体質」が残る賃貸不動産ビジネスにおいて、競合他社に先んじて「専任化された組織」「デジタル化されたマネジメント」によってDXを推進できた企業がこの先10~30年後の勝者となります。チャンスをつかむ経営判断を、進めていきましょう。
船井総合研究所
賃貸支援部
賃貸DXグループマネージャー
宮下一哉
賃貸不動産ビジネスに特化した「組織戦略」の構築により、持続的な安定成長を実現する経営を目指す。未来組織図づくりや人材開発、業務再構築から始まるDX推進まで、組織実行力をアップする総合コンサルティングを得意とする。
(2023年9月25日20面に掲載)