予測しながら経営する時代へ
ビジネスに変化
「全国の不動産会社とパートナーシップを結びながら、新たな資産運用の体験を提供していきたい」。2023年11月1日、不動産会社など16社から、第三者割当増資により13億6000万円の資金調達の実施を発表したWealthPark(ウェルスパーク:東京都渋谷区)の山地壮太執行役員は、フィンテック事業を加速していくことについて言及した。既存事業となるオーナー向けアプリの販売拡大にも力を入れながら、地主を含む投資家層に向けて、不動産に限らずさまざまな資産に投資する仕組みをつくっていく。この動きは、不動産会社が資産管理会社へと変貌を遂げていくことを示唆している。
このような動きが生まれてきていることの背景には、テクノロジーの進化と普及がある。不動産業界に革新をもたらすものとして期待を集めてきた不動産テックは、業務のデジタル化から始まり、効率化、データの蓄積・分析、将来予測へと役割を変えてきた。一般社団法人不動産テック協会(東京都渋谷区)の巻口成憲代表理事は「不動産テックは蓄積されたデータを分析し、活用するフェーズに移行している」と語る。
データの分析、活用が可能になったことにより、ビジネスモデルの変革を成し遂げる事例も出てきている。その一つがオリックス銀行(東京都港区)の取り組みだ。同行はリーウェイズ(東京都渋谷区)が提供する不動産価格分析サービス「Gate.(ゲイト)」内の主要サービス「Gate.Investment Planner(インベストメントプランナー)」を導入。2億5000万件を超える不動産ビッグデータを基に、不動産の将来収益性をAI(人工知能)が分析するサービスだ。
オリックス銀行はそれまで不動産会社から紹介された顧客に融資を行うことが多かったが、サービス導入後は投資家を自ら集客することに成功している。投資用不動産の購入検討者に将来の収支シミュレーションができるサービスを無料で提供し、そこを間口に融資相談を受ける流れを構築したのだ。不動産テックの活用により、顧客獲得経路に変化が生まれた事例である。「不動産と金融など異業種が重なり合う部分においては、ビジネスモデルの変革が起きやすい」(巻口代表理事)
適時提案に商機
データの活用が進むことで、今後は「予測しながら提案する」時代になると予想される。例えば、リフォームが必要な時期が近づいた物件に修繕プランを提案する、減価償却期間が終了するタイミングで売却提案をするなどだ。さまざまな事業領域で横断的にデータが集まりやすいグループ系企業では、活用次第で新たな商機を生むことができるだろう。
巻口代表理事は「不動産テックという言葉はある程度浸透した。今後はそれを取り入れたことで業務に変化が生まれた事例を共有し、不動産会社がテックサービスを取り入れやすい環境をつくっていきたい」と話す。
海外でも広まるデータ活用
海外でも不動産テックの活用や新規開発の動きは活発だ。
2023年11月15日、スペインの業界団体であるCSIM(スペイン・バルセロナ)のパトリシア・レミロ氏が来日し、一般社団法人不動産テック協会の巻口代表理事と意見交換を行った。スペインでは現在、不動産業界でのデータ活用や、データに基づくサービスへの関心が高い。意見交換は日本のテック企業と不動産会社の連携状況や活用事例を知る目的で行われた。
21年に発足したCSIMは、不動産会社やIT企業など社以上を統合する団体。これまで不動産サービスの将来動向に関する市場分析や、建物のエネルギー効率向上による脱炭素化などのプロジェクトを推進してきた。意見交換では、両国の不動産テックの活用状況や、一般社団法人不動産テック協会の活動にも話題が及んだ。
同協会はカナダ政府やマレーシアの業界団体とも連携を図っている。今後も海外の事例収集を行い、日本での不動産テックの推進に役立てたい考えだ。
(2024年1月1・8日33面に掲載)