ウチダレック、持続可能な経営の土台は"人"【新社長インタビュー】

ウチダレック

管理・仲介業|2024年05月12日

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ウチダレック 鳥取県米子市 内田 光治 社長(38)

 鳥取県米子市にある地場不動産会社ウチダレック(鳥取県米子市)の3代目社長に2023年12月、内田光治氏が就任した。人口減少が進む商圏で、持続可能な経営戦略をテーマに同社のかじを取る。

DX化で週休3日、賃上げも

IT大手から家業

 社員が育つ環境を提供するのが会社の役目」と語る内田社長は、「IT活用」と「人のやりがい」の両軸で、持続可能な会社づくりを進める。

 7月に創業55年を迎えるウチダレックは、地域密着型の不動産会社として鳥取県米子市における賃貸住宅の管理でシェア2割程度を誇る。

 手がける事業は、賃貸管理、賃貸仲介、売買仲介、住宅建設、液化石油(LP)ガスの販売と多岐にわたり、総合不動産会社として成長してきた。売り上げに占める事業構成比率はそれぞれ20%ずつ。従業員はパートを含み26人だ。

 「商圏である米子市は、05〜20年の15年間で不動産を借りる・買うメインの顧客層である20〜30代の人口が25%減少したという統計データがある」と語る内田社長。まさに逆風の中で3代目として経営のバトンを受け取り掲げる方針は、持続可能な生存戦略だ。

 内田社長はIT業界の出身で、その知識を強みに持つ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、大手IT企業の楽天グループ(東京都世田谷区)に入社。ビジネス・スクールへの入学のため退職し、慶應義塾大学大学院で経営管理研究科(MBA)を修了。その後、現在プライム市場に上場した金融系企業のネットプロテクションズ(東京都千代田区)を経て、16年に家業であるウチダレックに入社した。

 会社の経営全体を見わたす部署に入り、20年ごろに専務に就任した。

 内田社長は「家業に戻った16年は、宅地建物取引業法の一部が改正された年だった。ITを活用した重要事項説明の社会実験も実施されている時期で、業界の発展に期待を抱き、前職での経験も生かせると考えた」と振り返る。

ウチダレックの本社外観

ウチダレックの本社外観

社員の生産性2.5倍

 「ITの活用が進むことに期待して飛び込んだ不動産業界だったが、当時の現場は想像とのギャップが大きかった」という内田社長。アナログで属人的な働き方を目の当たりにしたことを機に、同社のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を開始した。

 まず、社内の情報共有ツールを、ホワイトボードからクラウドに替えることから始め、社員がITシステムに触れる機会を増やしていった。

 内田社長がDX化で目指したのは、属人化の解消と、情報の見える化による生産性の向上だ。

 これまで紙で行っていた顧客管理業務は、CRMクラウドサービス「Salesforce(セールスフォース)」をベースに、内田社長が社内向けに機能をカスタマイズ。19年には、顧客管理を完全にシステム化した。全従業員が、システム上で顧客とのやりとりの状況を確認できる点や、情報もシステム内に集約されていることが、属人的な働き方の解消につながった。

 属人化が解消されると、担当者が休みを取得しやすくなった。年間休日数を毎年10日間増やし、19年には業界では珍しい週休3日制を確立した。

 働き方が大きく変化していくことへの反発から、当初52人だった社員の半数近くが同社を離れていくことも経験したという。内田社長は「現在も半数になった人数で管理戸数を維持し続けている。19年時点の1人あたりの生産性は、16年と比較し2.5倍となった」と話す。

 DXが定着した20年以降の離職率は年3%程度で推移し、新たな人材を採用せずとも業務を全うできる基盤が固まってきたという。

内田レック社内改革の流れ

ベースアップ10%

 生産性が高まり、人材も安定した中で内田社長が次に仕掛けるのが、社員の給与を引き上げる「賃上げ」だ。5月時点で10%のベースアップを実施した。

 ユニークなのは、賃上げをプロジェクト化した点だ。現場の社員と共に、自分たちで生み出した利益を給与に反映する。

 内田社長は「プロジェクトを通して、社員たちがサービスや商品を値上げすることにポジティブになることが大事」と語る。価値あるものを生み出してその対価を得る、というやりがいにつながる考え方を醸成する。

 3月から開始した同プロジェクトは、24年度の営業利益を、前年度比で1000万円アップさせ、賃上げにつなげる取り組みだ。具体的には、粗利益50万円分の新規事業や商品、コストカット策を全社で20個生み出す方針を掲げる。

 23年12月に5%のベースアップを実施し、同取り組みを開始した。これに加えて、プロジェクトの途中で営業利益が前年度比で500万円増やすことができれば、社員の給与をさらに5%引き上げることを告知。プロジェクト開始2カ月でこれを達成した。

 営業利益を高める新規プロジェクトの提案はチーム制で行う。チームの編成は自由で、部署を跨ぐことも想定する。ベースアップとは別途に、各チームが提案した案件で生み出した粗利益の5%を、賞与で支給する。

 粗利益アップにつながる取り組みとして、対象となるのが「仕組み化できるもの」だ。例えば、修繕工事費の価格改定や、修繕依頼を獲得するために物件巡回を定例化すること、付帯商品の新規企画など。

 約2カ月で39の企画が提案され、12件を実行した。提案内容を採用するかの判断は、専門の会議体で行う。

 同プロジェクトは、新規事業の企画や提案を経験するという意味で、人材育成の場としても機能させている。

「やりがい」で成長

 内田社長が経営において大切にしているのは、社員のやりがいだ。「賃貸管理事業は、人が原価です」と語り、社員の給与が上がることや従業員の満足度向上、離職率の低下が事業の付加価値となると考える。

 「人がやりがいや成長を実感するのは、自分で考えて行動したその経験。結果が失敗でも成功でも関係はない」と内田社長は話す。そのためには業務の課題を見つけ、主体性を持って解決に動く必要がある。

 「課題を見つけるためには『材料』イコール『情報』がないといけない。それに必要なのがDX化による情報の可視化だった。現在は、社員から経営陣まで、同じ情報にアクセスできる環境を整備できている」と話す。

 同社は、全社で生み出した質のいいサービスを、適正な価格で提供していくことで事業の成長につなげていく。

(齋藤)
(2024年5月13日9面に掲載)

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