不動産借入査定のオンラインサービスを提供するMFS(東京都千代田区)が、6月21日付で東証グロース市場に上場。金融サービスを展開し、不動産売買取引の円滑化を実現する。中山田明CEOに話を聞いた。
不動産投資家会員4万2000人
ローン査定IT化
MFSは住宅購入や不動産投資を効率化するサービスを、エンドユーザーや個人投資家向けに提供してきた。主力商品は「モゲチェック」と「INVASE(インベース)」の二つ。
モゲチェックは、住宅ローンの借入可能額の査定から実行までをオンライン上で行うことができるサービスだ。同社は貸金事業者としての認可を取得していることから、金融機関と同様に、ユーザーの個人信用情報へのアクセスが可能。査定時には、クレジットカードの使用歴などの情報を踏まえて、可能な借入額を自動で算出する仕組みになっている。ユーザーは提案された複数のローン内容から、自分にとってどの金融機関で取引をするのがいいかを比較検討することができる。
モゲチェックの利用ターゲット層は年収500万〜600万円のサラリーマン層だ。会員数は6月末時点で約1万人。
中山田CEOは「市場規模として、住宅ローン貸出残高は増加傾向にある。当社のシェアは1%程度にも満たないので、今後の伸びしろは十分にある」と話す。
ユーザー側のモゲチェックの利用料は無料だ。金融機関からのエンドユーザー紹介料でマネタイズする。
独自評価軸で算出
もう一つの主力商品であるINVASEは、個人投資家を対象にしたサービスだ。INVASE上に掲載されている不動産を選択して、その不動産を取得しようとしたときの借入可能額を算出できる。ユーザーはMFSと提携する不動産会社が市場に出している、中古区分マンションの中から物件を選ぶことが可能。提携不動産会社数は約30社。
特徴的なのは「Pスコア」という独自の評価軸をつくり、個人投資家への検討材料として明示している点だ。Pスコアとは、所在地や駅からの徒歩分数、賃料などの物件情報から、投資後の事業安定性を数値化したもの。1.00〜5.00でランク付けしており、数値が高ければより安定した投資が行えることを示す。
それに加えて、融資の査定を経た後は、子会社のコンドミニアム・アセットマネジメント(以下、コンドミニアム社:同)を通じて売買仲介のフォローも行う。コンドミニアム社は22年にM&A(合併・買収)し、グループ化した不動産事業会社。
INVASEの利用ターゲット層は、年収1000万円程度の余裕資産を持つ層だ。会員数は6月末時点で4万2000人。
2024年6月期の売上高は18億8900万円。そのうち、モゲチェックによる売り上げ比率は75.9%、INVASEによる売り上げ比率は24.1%となっている。
上場で信用力強化
中山田CEOは「上場はMFSに社名を変更し、現在の事業内容にかじを切った14年から目指していた」と話す。
同社は当初、中山田CEO個人の資産管理会社として09年に設立。14年にモゲチェックの開発を本格化するにあたり、社名変更を行った。本格始動から10年目に上場を果たした。
中山田CEOは「不動産会社の営業社員の能力や人脈によって、顧客が知ることのできる情報に格差が生じていることが不動産業界における問題だと感じていた。顧客自ら、どの金融機関で借り入れを行うのが最適なのか、手軽に把握できるようになるサービスが必要だと考え、モゲチェックとINVASEの開発に至った」と話す。
上場により社会的信用力を強化し、資金調達における優位性を高めていく。調達した資金は主に採用費用や開発費用、広告宣伝費用に充て、サービスの向上につなげる。
不動産会社に提案
さらなる発展に向けて、モゲチェック、INVASEそれぞれで成長戦略を取る。
モゲチェックの成長戦略は大きく分けて二つ。一つ目は、不動産会社に同サービスの提案を行ってもらい、利用者数を伸ばしていく。
二つ目は、金融機関と提携し、モゲチェック限定の金利による借り入れを可能にしていく。その第1弾として、7月にはPayPay(ペイペイ)銀行(東京都新宿区)と連携した。
INVASEは今後、アプリ上のサービスの拡充を図る。4月には個人投資家が保有する不動産の時価をアプリ上で確認できる機能を搭載する。
25年6月期の売上高は23億9700万円、営業利益は6900万円を計画する。
(國吉)
(2024年9月9日20面に掲載)