創業15年強でグループ会社10社で売り上げ100億円以上に達した、いえらぶGROUP(グループ:東京都新宿区)。SaaS(サース)型の不動産業務に関する基幹システム以外にも、オンライン駐車場契約など、BtoB(企業間取引)サービスをグループ会社で展開している。岩名泰介社長に同社の取り組みについて話を聞いた。
グループ10社体制 不動産会社を支援
―主軸の商品について教えてください。
いえらぶGROUPの主力商品は、不動産業務全般を一元管理できるクラウド型業務管理システム「いえらぶCLOUD(クラウド)」と、不動産業者間で物件情報を円滑に共有できる「いえらぶBB」です。2023年8月には導入企業数が全国2万5000社を突破し、業界全体の業務効率化に貢献しています。
―事業拡大が目覚ましいです。
08年の創業以来、ITと不動産を融合させたサービスを軸に16期連続で売り上げを拡大しています。23年にはグループ全体で売り上げ100億円を超えました。この数字を支えているのが10社あるグループ会社の存在です。
―各社の位置付けは。
各社はそれぞれの分野での専門性を発揮しています。例えば、いえらぶマーケティング(同)は営業活動の全国展開を担い、いえらぶ琉球(沖縄県那覇市)では沖縄地域に根差したメディアの運営やAI(人工知能)ソリューションの提供を行っています。さらに、いえらぶクリエイターズ(東京都新宿区)ではSNSマーケティング支援を通して、不動産業界の新たな集客手法を開拓しています。これらのグループ企業の連携により、いえらぶGROUP全体が進化を続けています。
―グループ全体としての重点施策を教えてください。
管理業務を代行するサービスを拡充し、業界の人手不足を補い、不動産会社がコア業務に集中できる環境を整備したいです。さらにはAIやIoT技術を活用した新サービスを開発し、より業務の効率化を促進。業界全体の成長をけん引していける存在を目指しています。
業界を変える IT活用を促進
―業界でのキャリアのスタートは。
私がキャリアをスタートした20年以上前は、不動産業界ではパソコンを触れる人が少なく、ほとんどが紙やファクスによる業務が主流でした。ITなんて影も形もない。パソコンを触れるだけで一目置かれ、「エクセル」で業務管理や顧客管理ができるようにしただけでも「すごい」と言われた時代でした。
―若くして事業部長になったそうですね。
独立前はデベロッパーに勤めており、IT事業部を立ち上げ25歳で事業部長になりました。当時は、役員に対して物おじせず意見を具申(ぐしん)するなど、元気な若者でした。そんな中、ある役員から「独立してみてはどうか」と提案され、08年にいえらぶGROUPを設立して今に至ります。ITで不動産業界を変えられる、という強い確信がありました。
―起業に至るまでの経緯を教えてください。
当時はもちろん社会全体が今ほどIT化されていませんでしたが、特に不動産業界はIT化が遅れているといわれていました。そこを変えたいという思いで起業し、年数を重ねるにつれ不動産業界にも次々とIT導入の波が押し寄せました。今ではもうほかの業界より遅れていると感じることはなくなりました。手前みそになるかもしれませんが、種まきをしてきたかいがあったと実感しています。
―起業にあたり目標とした人物はいますか。
大学時代の友人の父親が起業家で、その人に影響を受けました。私の父は国公立大の理系大学院を卒業してばりばりの研究員として働いていました。堅実で真面目な人で、何ごともきっちりとこなすタイプです。一方、その人は父と同じくらいの年齢なのに、夢を語る様子が本当に輝いていて魅力的に映りました。だからといって当時から起業を考えていたわけではなく、「将来自分もこんなふうに夢を語れるようになりたい」と思ったのを覚えています。
中立的な立場重視 顧客利益を尊重
―業界でのポジショニングは。
創業以来、私たちの信念は「『不動産業界のIT事業部』でありたい」ということです。当社が不動産業そのものに参入すると、顧客企業との競合が発生する可能性があります。それを避けるために、公正で中立的な立場を維持し続ける方針を変えることはありません。それよりもSNSマーケティングやライフライン代行サービスなどで不動産会社の後方支援を充実させていくことが使命だと考えています。
―不動産業界のIT事業部としての目標は。
20年前に比べてましになったとはいえ、不動産業界はまだまだ古い体質や閉鎖された業界イメージが残っています。若い世代や新しい顧客層に対して、もっとオープンで明るい業界イメージが必要。そのためにも、業界全体のブランディングを強化する必要があると考えています。そのうえで、いえらぶBBなど業界の基幹システムの役割を果たしつつ、サービスを常に進化させ、「いえらぶに頼めば間違いない」と信頼していただくことが目標です。
―サービスの進化において重要な点は。
さまざまな業務を一元管理できることやカスタマイズ性だけでなく、AIの活用によって、お客さまに業務の自動化を推進していただけるようシステム設計や改善に取り組んでいます。将来的には、より高度なデータ分析機能を追加し、ユーザーの経営戦略に寄与するシステムを提供していきたいです。そのためにも、日頃のコミュニケーションを大切にし、担当者がクライアントの課題の吸い上げを意識するようにしています。
―そのための課題と取り組みは。
中身が伴わないと意味がないので、エンドユーザーにはスマート内覧やオンライン契約など、最新技術を活用した価値創造を積極的に提供していきます。業界従事者向けには、不動産業界の仕事が「信頼される」「誇れる」職業として認知されるよう努力したい。そのための一歩として、いえらぶGROUPが率先して、スタイリッシュで働きがいのある業界変革ツールとノウハウを提供していければと思います。
全社員数1000人へ 採用活動に独自色
―今後の目標を教えてください。
現在、いえらぶGROUPの全体の社員数は800人を超えています。24年夏には最上階エリアにオフィスを移転し、社員数の増加とグループシナジーによる事業拡大に対応しています。今春の新卒採用で1000人規模になる見込みです。このような状況を背景に、今後の目標はその10倍、グループ全体で社員数1万人を目指します。単なる人数拡大ではなく、より価値のあるサービスの提供と不動産業界全体を支える体制を整えるための指標として考えています。
24年8月に移転した新オフィス
―ユニークな採用活動もしています。
プロマージャンリーグ「Mリーグ」とコラボした「麻雀× 就活」のイベントを24年10月に開催しました。Mリーグの「EX風林火山」とスポンサー契約したことがきっかけです。講演会には現役Mリーガーが登壇。戦略や意思決定力が問われるマージャンを通じて、就活生の潜在的な嗜好(しこう)・能力を発見することができました。
―社員の反応はどうですか。
雑居ビルで事業を営んでいた創業当時から、有名大卒の新卒の若者が入社してくれていました。当然、親御さんは反対します。その親御さんたちを説得するため、社員一人一人にプロポーズする勢いであいさつに行っていました。社員数40人だった頃には「300人にする」と言っていて。当時ピンときていなかった社員ももはや、今の環境、社員数を通過点だと思っています。ですから1万人も「達成してしまうだろうな」と思ってくれているようです。
会社概要
社名:いえらぶGROUP
所在地:東京都新宿区西新宿2-6-1 新宿住友ビル50階
設立:2008年1月
事業内容:クラウドサービス事業、ITソリューション事業、マーケティング支援事業
社長プロフィール
1979年生まれ。法政大学在学中に起業を経験。その後、マンションデベロッパーに勤務し、IT部門を立ち上げる。2008年にいえらぶGROUPを創業。不動産業界におけるIT活用の必要性を強く感じ、業界特化型のクラウドサービス「いえらぶCLOUD」を開発。エンジニアとしてもサービス構築に携わりながら、同社を16期連続の増収企業へと成長させる。
(2025年1月13日9面に掲載)