後継者に必要な力、ステークホルダーからの支持の獲得

【連載】現場レポート 賃貸業界のキャリア形成 VOL.117

管理・仲介業|2022年03月02日

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 前回の連載では、3C4P+生産性の分析で各企業の成長要因を解説した。このフレームを発展させて、次世代の経営陣人材に必要な視点の進化について論じたい

二極化が進む時代未来人材に必要な力は?

 前号で述べたように、この繁忙期に仲介件数を伸ばし、管理戸数を伸ばし、かつ生産性を上げていく会社は優れた経営者が社員を引っ張っている。同じ時期にスタートした地場会社を比較すると、地域の雄たる企業は、トップの経営手腕が素晴らしい。

 まさに、みな「よーいドン」と自営業でスタートし、ある会社は大きくなり、別のある会社はその自営の規模のまま、あるいはどこかのタイミングで成長することなく、ある程度の収まりに落ち着いた。その違いは、まさに経営者がリスクを取って出店や管理獲得や新しい取り組みにチャレンジし、その勝負に勝って今のポジションを獲得したといえる。

イノベーションこそ、経営者の「決める」力

 例えば、質屋として1949年に創業した三好質店は、55年に不動産業を開始。当時では珍しかった「不動産の有償管理」を行った。管理業の革命である。

 74年に設立された三光ソフランホールディングス(東京都中央区)。もともとは米穀店だった会社が、不動産・医療・ホテルなど多様な事業展開をする社員数1800人というモンスター企業になったのは、いうまでもなくトップのバイタリティーである。

 80年に創業した長栄(京都市)は、大家業と管理業を極めて行く。所有する物件は122棟4649戸。管理戸数は2万5000戸を超える。2021年上場した。

 95年に創業したシティ・ハウジング(徳島市)は、机一つに電話一つでのスタート。

 地元法人企業への飛び込み営業や徳島大学への取り組みなど、やはりイノベーションとリーダーシップがあっての成長だ。

成功の道は多様。共通するのはリーダーシップ

 実は、前記4社の事業戦略は全く違う。多店舗展開した会社もあれば、地元エリアから全く出ない会社もある。仲介業には重きを置かなかった会社もある。物件を自社所有した会社もあれば、相続対策や管理を磨いた会社もある。

 介護事業など新規事業に拡大していく会社もあれば、本業以外はやらない会社もある。つまり事業戦略の成功パターンは全然違うのだ。勝ちパターンが全く違うのである。

 共通するのは、創業者の強い「胆力」であり、リスクを取って前に進む「推進力」であり、危機を乗り越え、そこで勝ち残ってきた「勝負師」でもある。

では、次の世代の経営者はどうすべきなのか

 こうした成長企業は「創業者が偉人である」ことに異論はない。しかし次世代では同じ自営からの「よーいドン」ではなくなる。管理戸数や社員数、あるいはその社員の資質も含めて、規模の違いや優位性は大きな差がついていく。

 すでに3C+4P+生産性において、会社は大きなアドバンテージを持つこととなり、それをトップは背負わねばならない。

後継者に必要な「支持者」

 コンサルティングの仕事をしていると「うちの息子は後継者としてどうかね」などと聞かれることがある。これは私などが軽々しく答えられるものではなく、また経営者1人がすべて背負うわけではないので、周囲を取り巻く経営陣や社員にもよるのだろう。

 しかし、「不釣り合い」なのか「ふさわしい」なのかは、実はコンサルタントが決めることではなく、3Cのステークホルダーが決めるのではないだろうか。と考えると、後継者たる人材は、いきなり成熟期を迎えた会社のステークホルダーから、前任の偉人のように「支持」されなければならない。人気者でなくてはならない。源氏の頭領も豊臣家の世継ぎも、この点での育成に失敗してしまったのは歴史が教えてくれる。

総理大臣は直接選挙で選ばれない

 先の自民党総裁選では、「国会議員票」と「党員票」での票数が異なった。これに異論がある人も多いが、実は「国会議員というステークホルダー」と「党員というステークホルダー」の双方から支持を得るということはかように難しい。

 同様に、前の経営者から「後任は彼に」と支持を受けるだけでなく「オーナーからも」「入居者からも」「社員からも」「取引先からも」「金融機関からも」「株主からも」支持されるのは難しいのだ。

管理会社の顧客は「オーナー」顧客の顧客は「入居者」

 3Cのフレームの先に、「顧客の顧客」や「自社の投資家や社員」「取引先」といったステークホルダーの軸を入れて考えてみたい(図参照)

 このフレームでは、通常の3Cの先に、さらに同じようにステークホルダーと競争関係を置いて考えていく。

 つまり、後継者は、オーナーの支持を集められるのか。強いリーダーシップの創業者から次世代に経営が移ったとして、入居率が落ちては話にならないし、家賃がボロボロ下がってしまっては信頼できない。

 そして顧客の顧客、つまり「オーナーの顧客たる入居者」にとって、信頼できない経営方針では競争力を失う。

 物件に瑕疵(かし)があれば速やかに直さねばならないし、オンライン内見など探し方が変わればタイムリーに対応していかねば競争優位は失う。

社員の信頼は?提携会社の信頼は?

 そして、大きくなった会社は社員が支えている。創業のリーダーがリスペクトされていても、次世代はむしろ社員にとっては競争相手であり、時には「あいつが子どもの頃から俺は知っている」「こっちが先輩だ」という社員も存在する。

 このステークホルダーたる社員にどう対抗するのか。ベテランに去っていただかねばならないこともあるかもしれないし、頼らねばならないかもしれない。

 あるいは、功を焦るばかりで社員からは評判のよくない社長候補もいる。しかし、どこかで信頼を取り戻さないと、優秀な社員を手放してしまいかねない。

 一方で「俺が社長になったらボーナスを増やすね。休みを増やすね」といった甘言は、選挙に受かる前のばらまき同様、なったあとに「そうはいかない」ことも多い。投資家である株主や金融機関からすれば離反行為となりかねない。

 また、工事などの取引会社からの信頼も大切だ。

 「社長になれば愛される」のではなく、「オーナーからも入居者からも社員からも工事会社からも株主からも業界団体からも愛される」から「経営者になれる」。と考えるともその道は後継者にとって険しいことがよくわかる。

 道を極めるために努力を続ける必要があり、コンサルタントとしてその支援をするのが私の仕事である。

上野 典行氏の写真

上野 典行
プリンシプル住まい総研所長

 

 

1988年リクルート入社。大学生の採用サイトであるリクルートナビを開発後、住宅情報タウンズ・住宅情報マンションズ編集長を歴任。現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2008年より賃貸営業部長となり2011年12月同社を退職し、プリンシプル・コンサルティング・グループにて、2012年1月より現職。All Aboutガイド「賃貸」「土地活用」。日管協・研修副委員長。全国で、講演・執筆・企業コンサルティングを行っている。http://www.principle-sumai.com/

(2022年2月28日17面に掲載)

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