全国で深刻化する空き家問題に対し、自治体の取り組みは解決の鍵となる。奈良県生駒市は、アンケート調査で実態把握をし、不動産会社をはじめとした民間事業者との連携により空き家を解消してきた。実績は7年で89件に上る。
実態を調査 不動産事業者と連携
7年で約1割減少 住宅として売却
生駒市では、市が相談窓口となり、空き家の流通や活用を民間事業者がサポートする連携体制で空き家解消に努めてきた。2016年と比較し、23年には空き家が約1割減少。取り組みの効果が上がっているという。
大阪府との県境に位置する生駒市は、人口約11万6000人の都市だ。16年に同市が実施した空き家調査では、1444棟の空き家があることが判明。空き家率は2.8%だった。全国の空き家率13.8%に比べ比較的低い値だが、人口減少や高齢化に伴い、今後空き家の急増が想定されるため、対策を講じてきた。
空き家の減少に寄与しているのは、18年に設立し、空き家の売却や賃貸をサポートする組織「いこま空き家流通促進プラットホーム」だ。地場の不動産会社や司法書士、建築会社など47事業者が参画する。同プラットホームでは、25年3月末までに159件の空き家を取り扱った。そのうち89件の空き家が成約。内訳は、78件が売買、11件が賃貸だった。住宅として売却するケースが多い。
所有者の意向把握 相談先の体制構築
同プラットホームは、16年に実施した空き家調査の結果を踏まえて、設立した。同市が行った調査はまず、水道の使用状況等によって空き家候補を抽出。次に、空き家の外観調査を実施し、利用の状況を確認した。空き家と思われる物件の登記簿で所有者を特定し、アンケートを送付した。
アンケートの対象は1643件の空き家と思われる物件の所有者で、回答率は約6割だった。その回答結果から、わかったことは大きく三つ。空き家を売却もしくは賃貸で活用したい意向がある所有者が約5割いること。少しの修繕で住めるような、状態のいい空き家が約8割を占めること。買い手が見つからない、手続きが面倒などの困り事を抱える所有者が多かったこと。
活用を促進するプラットホーム
この結果を受けて、不動産の流通に関わる専門事業者と、空き家所有者情報を持つ行政が連携することで、空き家の活用を促進できると考えた。
連携の具体的な流れは以下の通り。同市はアンケートで、活用の意向がある空き家所有者に連絡を取り、プラットホームの仕組みを説明。プラットホームの利用意向があれば、所有者に対し、空き家や所有者の情報をプラットホームへ提供することに同意を得る。物件情報をまとめた「物件カルテ」を同市が作成し、プラットホームに提供。プラットホームは、当該案件を担当すべき事業者を選任する。事業者は市からより詳細な空き家の情報を提供を受け、空き家所有者と接触し、解消に向け対応していく。その際、事業者は同市より個人情報を受け取るため、秘密保持に関する誓約書を市へ提出する。
同市都市整備部住宅課内蔵敏文課長は「プラットホームの仕組みを考える段階から、事業者と一緒に取り組んできた。そのため実行力が高い連携体制が構築でき、空き家の成約につながっている」と語る。
家主と借り手結ぶ宿泊施設が開設
同市の空き家対策はほかにもある。空き家の所有者と借り手をマッチングする空き家利活用促進事業「恋文不動産」では、1号案件が成立。4月に宿泊施設がオープンした。恋文不動産は、地域の課題解決や活性化のために空き家を活用することを促す取り組み。家賃や立地などの条件面だけなく、借主の人柄や活用内容に共感できれば、空き家を地域のために安価で貸し出していいという、所有者の調査結果に基づき、始まった事業だ。
恋文不動産によって、オープンした宿泊施設の(上)外観と(下)エントランス
もう一つは「戸建て賃貸化促進奨励金制度」だ。空き家を戸建て住宅として貸し出す個人を対象に、奨励金を交付するもの。改修費が100万円を超えることなどが条件で、奨励金は1棟あたり50万円だ。22年度から開始し、利用は3年間で6件だった。
25年度には3回目の空き家調査の実施を計画。定期的な空き家調査によって、早い段階で空き家を特定し、空き家所有者と接点を持つことが重要だという。
(平田)
(2025年6月9日20面に掲載)