地場不動産会社への取材や賃貸住宅に関わるデータから各主要都市の賃貸市場を探る。今回は、市内に数多くの大学を擁し、学生需要が高い京都市に焦点をあてた。
対面授業増え学生需要回復
成約数、コロナ前水準に戻る
京都市内には38の大学や短期大学が所在することから「学生の街」とも呼ばれ、学生需要の高いエリアだ。新型コロナウイルス下で、各大学がリモート授業へシフトしたことからその需要に陰りがさしたが、2022年現在では回復基調にあるようだ。家賃相場に関しては、北部の家賃が高騰しているなど、市内でもエリアごとで傾向が異なっている。
22年、学生の成約順調 コロナの危機感薄れ
京都市内は合計38校の大学や短期大学が点在し、学生需要の高いエリアだ。20〜21年のコロナ下で、リモート授業へシフトしたことにより落ち込んだ学生需要が、22年には回復基調にあるという。
管理戸数7609戸のうち、入居者の6割を学生が占めるフラットエージェンシー(京都市)では、学生の新規入居が減ったことで21年6月には、管理物件の入居率が91.8%にまで低下したが、22年8月には92.7%に回復した。
学生需要の高いエリアは京都駅より北部に位置する北区、上京区、右京区など。同エリアに所在する京都大学など27校の大学と提携し、入学を機に一人暮らしを始める学生への部屋のあっせんを行う。学生向け物件はワンルームや1Kで1万9000〜9万3000円台が中心だ。
20〜21年はリモート授業への切り替えにより、大学周辺に住む必要がなくなったことで入居希望者がコロナ下前に比べ100件ほど減少した。
22年に入ってからは、段階的に授業を対面に戻しつつあり、それに伴い学生需要も復調しているという。実際、22年の繁忙期の学生の成約件数はコロナ前の18年とほぼ同様にまで持ち直した。
プロパティマネジメント部の小寺教誠係長は「対面授業へ戻したことに加え、コロナが長期化し、日常として捉えられるようになったためか、顧客である学生のコロナに対する危機感が以前よりも薄れてきたように感じる」と話した。
南北で顧客層分断 家賃高騰が影響
「建築資材費の上昇を受け、京都市内で家賃が高騰している。その影響により北部、南部で入居者層の違いがさらに顕著になっている」。そう話すのは、京都ライフ(同)の平岡卓司取締役だ。同社は管理戸数約2万戸のうち、京都市内の物件が8割を占める。
京都市の北部は右京区、左京区、北区、上京区、中京区、下京区、東山区などが該当し、南部は伏見区、山科区、南区となる。中でも賃貸需要が高いのは伏見区だ。
北部の1LDK〜3LDKなどのファミリー向け物件の相場家賃は10万〜25万円ほど。入居者層は医者や大手企業勤めなどの高所得者にほぼ限られるという。
一方、南部では同じ間取りのファミリー向け物件で8万〜13万円程度と、北部の物件と2万〜12万円の差が開いており、年収300万〜600万円などの一般所得層に需要の高いエリアになっている。
平岡取締役は「新築で家賃高になりやすい傾向にあることに加え、北部ではファミリー向けの物件が不足し、築古でも家賃の上昇傾向が顕著になっている」と話す。
家賃の高騰は主に20年ごろからで、年に2000〜3000円ずつ上がっている。コロナによる物流の混乱の影響により、資材高騰の煽りを受けたためだ。
相場家賃の上昇により、高所得者層以外の北部への流入がより難しくなり、それに応じる形で、南部に建つ伏見区のファミリー物件を借りるケースが増えている。
「家賃上昇は伏見区でも起こっているが、元々の家賃相場が北部と比べ低いために入居希望者から選ばれやすくなっている。ただ、伏見区でも家賃は上昇傾向にあり顧客の希望する家賃にそぐわない場合は、さらに家賃の安い市外や府外へ流出する場合もある」(平岡取締役)
西京区で家族需要 ベッドタウンの役割
管理戸数2715戸のクライフ(同)では、西京区におけるファミリー需要をつかみ、入居率を96.8%に維持している。
同社は管理物件のうち京都市内に所在する物件が95%で、その中でも西京区の物件が50%超だ。管理物件は1LDK〜4LDKのファミリー向け物件が7割を占め、相場家賃は8万〜16万円だ。主な入居者層は同市内で一般企業に勤める20〜60代と幅広く、ボリュームゾーンは20代後半〜40代だ。
同区内でも最もファミリー需要が高いのは阪急京都線桂駅周辺エリアだという。
唐津亮社長は「西京区は大学が多く所在する北部エリアに位置しており、周辺は単身者向け物件がほとんど。他区でもファミリー向け物件はあるものの、数自体少ないため、家賃も高騰している」と話す。
そういった中、桂駅周辺はファミリー向け物件の家賃相場が周辺よりも1万円ほど安いため、他区へ勤務するファミリー層のベッドタウン的な立ち位置にあるのだという。
「入居率維持を目的としているため賃料は現状維持のままだが、ファミリー向け物件は需要が高い分、家賃上昇の余地が十分にあると考える」(唐津社長)
京町家保全支援、4年間で12件
京都市では、京町家の保護・再生支援を行っている。京町家が建てられた当時の生活文化の継承や景観維持のためだ。
同市で協力事業者を募り、地域の不動産会社やリフォーム施工会社など約100社と提携している。京町家の所有者から相談を受け付け次第、各社へ協力を仰ぐという流れだ。
所有者から相談を受け改修を行った京町屋の例
改修費用は、同市が一定の補助金を支給しており、工事内容にもよるが最大250万円の補助金が支給される。施工内容は屋根など躯体の修繕や、内装リフォームとなっている。
同支援は18年より開始し、22年7月末までに累計で45件の相談が寄せられた。そのうち、保全、活用につながっているのが12件。検討中が30件だ。
改修、コンバージョン後は住居や店舗としての活用につながっている。
(2022年8月29日7面に掲載)