全国の主要都市における賃貸市場に焦点をあて、商習慣や市況を取材するシリーズ企画。今回は、北海道最大の都市で、2020年ごろまで人口増加が続いていた札幌市を調査した。
価格高騰、家族世帯が賃貸流入
「2LDK以上貸す部屋なし」
札幌市は21年に入り人口が減少傾向となったものの、全国的にも珍しく人口が増加傾向にあった都市だ。賃貸市場はこれまで単身者向けの需要が高かったが、地価や資材価格の高騰で持ち家志向のファミリー層が賃貸市場に流入しているという。同様の要因で新築も建ちにくく、家賃相場の変動にも影響を及ぼしている。
分譲、10年で価格1.5倍 購入から賃貸へシフト
デベロッパーで、グループ合わせ5100戸管理するギム(北海道札幌市)は、19年以降のここ3年間で分譲マンションや戸建てを購入してきたファミリー層が賃貸市場に流入している傾向を感じるという。
理由は物件価格の高騰だ。土地値の高騰と資材価格が上昇してきたこともあり、ここ10年で市内の分譲マンションの値段は3LDKで2000万円台だったものが約1.5倍の3000万円台になっている。そのため、購入を控えて2LDKで7〜8万円、3LDKで8〜9万円の賃貸のファミリー物件を選択する割合が増加傾向のようだ。
管理部管理課の加賀谷純一係長は「現在、管理物件の約25%を占めるファミリー向け2DK〜2LDK物件はほぼ満室。市内全体を見ても、2LDK以上の物件に空きがないという賃貸仲介会社の声を聞く」と話す。
市内の賃貸マーケットは投資家系オーナーが多いという特徴を持つ。このため、戸数を確保できる単身者向け住宅を所有するオーナーが多く、市場にファミリー向け物件が少ない背景がある。供給が少ない中で、購入層であったファミリーの顧客が賃貸を選ぶ傾向にあり、ファミリー向け賃貸の需給バランスが崩れていると同社はみる。
札幌駅前のイメージ
新築家賃設定控えめ リーシングを優先
札幌市の地価は、13年ごろより高騰傾向にあるという。加えて新型コロナウイルス禍における物流の混乱などを理由とした資材価格の高騰で、新築物件の建築費は上昇の一途を辿る。供給量は伸び悩む上に家賃相場は上昇傾向にあるという地場不動産会社からのコメントが多くあった。
その中で、一部のオーナーには、設定家賃の引き上げではなく、家賃価格の維持で入居者獲得を優先するケースも出てきているという。新築後短い期間で満室稼働させて賃料収入を確保したいと考えるからだ。
札幌市を商圏とし、1万戸超を管理する地場の管理会社は「20年ごろから、新築のオーナーは相場家賃から5000円ほど高く設定可能な『新築プレミアム』にあやからず、入居者獲得を優先する傾向がある」と話す。
新築が入居しやすい家賃帯に設定されていることから、これまで家賃の価格差で新築に競合しなかった築10年未満の築浅物件の成約が鈍っているとも分析した。
高齢者入居に動き 2年で10%増加
自社建築アパートの管理を主力とする管理戸数6604戸のアサヒ住宅(同)は、賃貸住宅に住む高齢入居者の割合が増加傾向にあると話す。管理物件においては、ここ1〜2年で感覚的に同層の入居率が10%増加しているという。
同社では、需要の高まりを受け21年に高齢者入居の基準を65歳から70歳に引き上げた。外部事業者の見守りサービスを契約条件に、受け入れを行っている。
賃貸事業部営業1課の西田脩平課長は「パートナーが亡くなったことをきっかけに、戸建てを売却するなどの引っ越しが見受けられる。加えて豪雪地帯である札幌市は、持ち家では冬場の除雪作業の負担が大きいことも理由の一つだろう」と話す。
オンライン授業影響 目立つ学生街の空室
「市内の賃貸市場の動きが鈍い」と話すのは、北海道全域の賃貸住宅を取り扱う地場ポータルサイト「北海道不動産☆連合隊」を運営するラルズネット(同)だ。
市場の動きが鈍いとみる理由の一つに、学生の引っ越し需要の低迷を挙げる。コロナ下によるオンラン授業の導入で、北海道大学の学生需要が高かった市営地下鉄南北線北18条駅・北12条駅を最寄り駅とする物件の稼働率が低迷している。
山本真司フィールドセールスディレクターは「市内でも郊外エリアに立地する学生向け物件はもともと供給過多で一定の空室はあった。しかし、ここ最近は市内の中心部である北18条駅・北12条駅の物件にも影響が出てきている。同駅の物件については、これまで満室だった物件が肌感覚で1割強程度の空室が増加している」とコメントした。
20代人気業種の企業誘致促進
札幌市では、2030年度の北海道新幹線新函館北斗〜札幌間の開通に併せ、市内の再開発が行われている。その中で、企業誘致を促進しており、特にIT企業やアニメ・ゲームなどのコンテンツ制作企業の誘致に注力する。
まちづくりによって生まれ変わる札幌市をモチーフにしたロゴマーク
札幌市経済観光局経済戦略推進部、産業立地・戦略推進課の大道巧立地促進係長は「市が抱える課題の一つとして、若者の転出率の高さが挙げられる。20歳から24歳の特に理系男性の市外流出が多い。この層に人気のIT系企業などを誘致することで、地元定着による流出減を目的の一つに掲げる」と話す。
若者の地元定着は、彼らの住居の確保も併せて必須となってくる。大道係長は「特に転出減のターゲットとしている20代前半の層は、単身者が多いため、企業オフィスが多く立ち並ぶ中心エリアへのアクセスが良い賃貸住宅需要が見込まれるだろう」とコメントした。
企業誘致の取り組みは「札幌市まちづくり戦略ビジョン」として10年計画で始動中。年間15社の誘致実績を目標に掲げ、22年度見通しは現在既に15社の立地見込みとなっている。
(2022年8月22日7面に掲載)