窮地に立つ、特区民泊の現状

統計データ|2020年04月30日

昼時の大阪駅前。人通りは少ない(4月21日撮影)

 新型コロナウイルスの感染拡大により、世界経済が急速に鈍化している。中でも宿泊事業はキャンセルが相次ぎ、稼働率が1割も満たない状態が続く。経営が立ちゆかず、すでに廃業となった事業者も出ている。回復の兆しが見えない中、正念場を迎える宿泊事業者のオーナーに、現状を聞いた。

3月以降稼働ゼロ、施設淘汰に期待

 「特区民泊の廃業件数は、月を追うごとに増加している」こう話すのは、大阪市内の宿泊事業を管轄する同市環境衛生監視課の担当者。17日に発表した特区民泊の集計によると、2月の廃業居室数が277室。3月で393室という結果となった。収入減少や売り上げ不振が主な要因だ。担当者によると、本件数は廃業届を提出した居室の数字となるため「他にも、一時的に休業としている事業者は多いのではないか」と推測する。本紙にも民泊運営会社大手の宿泊事業停止の情報が入っており、今後の先行きは不透明だ。 

苦渋の決断で事業を続行

 「施設の利用者がひと月で1、2組ほどのペースまで落ち込んでいる」と話すのは、大阪市内に特区民泊・ゲストハウスを計2室所有する加藤薫オーナー(兵庫県伊丹市)だ。

 10人が収容できる特区民泊の施設は、特に外国人の団体利用がメーンだったため、影響も大きい。2月後半からキャンセルが相次ぎ、回復の兆しは見えない状態だ。賃貸物件への転用も考えたが、用途変更の許可が下りるまでには1カ月ほどかかってしまうという。「『今日から宿泊事業をやめます』とは言えない。申請しても1カ月間空白となるなら、今は耐えたほうが得策と考えた」と語る。

 インバウンドが軒並み打撃を受け、廃業となるケースもある中、いずれ旅行客は戻ってくる、と前を向く。「少ない資金で運営している施設や、オーナー個人で切り盛りしている物件は持ちこたえられないだろう。さらに、宿泊事業に参入する企業も減ることが予想される。宿泊事業者が淘汰(とうた)されれば、長期的には好影響となる」と話す。

 さらに、加藤オーナーは4月より、民泊を廃業した施設の買い取りを本格的に始めた。告知後すぐに相談が入るなど、想定外の反響の大きさとなっているという。

見切りつけ賃貸へ転用

 大阪市内で戸建て物件を2棟貸し出している角倉一オーナー。施設の稼働は2月以降下落し、3月は5件のキャンセルで利用がゼロとなった。通常、8割以上で動いていたため、1カ月で60~70万円の売り上げ損失となっている。既に宿泊施設としての見切りをつけ、賃貸物件として転用。4月下旬にも募集を開始するという。

 角倉オーナーは「影響はもちろんあるが、大きな痛手とはならなかった」との見方を示す。両施設はいずれも、元は賃貸物件だった。立地条件が良かったため、空きが出たタイミングで、特区民泊として活用を始めたという。

 角倉オーナーは他にも、90戸の賃貸物件を所有しており、その多くを特区民泊へ転用も考えたが、入居が付いたり、タイミングが合わなかったりといった理由から断念していた。「宿泊施設に踏み切っていたら、大損だった」と安堵(あんど)の表情を浮かべる。

 今回の事態を機に、宿泊事業に関しては一旦終止符を打つ形だが「いずれ終息する。そのときはまた特区としても考えたい」と前向きだ。先を見通せば、25年の大阪万博やIRなどのイベントが控えている。インバウンドの望みをつなぐ。

空いた客室でアーティストが活動

 大阪市内で特区民泊の運営を行う井上正英オーナー(大阪市)。

 3月から稼働率はほぼ0%に。5月の予約もキャンセルになったという。そこで井上オーナーはアーティストとコラボレーションして活用するというユニークな企画を検討している。

 物件は北区の中崎町。ここは空襲の被害を逃れ、昔ながらの建物が現存しているエリアで、古家をリノベーションしたカフェや雑貨、洋服ショップなどが点在。近年若者に人気のエリアとなっている。

 井上オーナーは所有者から転賃借し、オフィス兼住宅だった3階建ての建物をリノベーション。住宅部分は民泊2室とレンタルルーム2室に。オフィス部分は飲食店として井上オーナーが店を運営していた。しかし新型コロナの影響で軒並み減少。そこで井上オーナーはアーティスト集団『BOY MEETS ART(ボーイミーツアート)』に声を掛けた。「空き部屋を提供し彼らアーティストが活躍することで、生かせられる場にしたい」。

 彼らは関西の大学生を中心としたメンバー。発起人の神戸大学工学部3年生濱田涼さんは「ここで作品を生み出して商品化する仕組みづくりが具現化できれば、アーティストとしての活動の幅が広がる」と話す。

 今月から活動を開始し、スポンサーを募集したり、作品の貸し出しを行ったりできないか模索中だ。

 

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アーティストに活躍の場所として提供している

高槻市内の物件今なお高稼働

 「1割稼働していたらマシ」といわれるこの時期に、高稼働させているのは滝田圭一オーナー(大阪府高槻市)だ。

 大阪市内の特区民泊と高槻市内で住宅宿泊事業法を活用した運営を行っている。特区民泊は壊滅的だが、2室ある高槻は長期利用者の予約が多くなったため、マンスリーに変更して貸し出している。3月は8割、4月は5割稼働と維持している。滝田オーナーも当初はなぜ稼働しているのか不明だったが、勝因を突き止めた。

 物件の近隣に大阪医科大学付属病院があり、外国人の患者が入退院の前後にリハビリする拠点として利用しているのだという。滝田オーナーは「チェックインから退去まで自身で行っているが、対面で行うため外国人がこのような使い方をするということが分かった」と話す。

Link Tree、宿泊運営・撤退相談相次ぐ

 宿泊施設のコンサルティングや清掃会社には、事業者からの問い合わせが相次いでいる。

料金改定や時間貸しを提案

 

 関西で3棟の宿泊施設を運営しているLink Tree(リンクツリー:京都市)では、事業者向けの民泊運営コンサルティング『高収入民泊アカデミー』を2020年からオンラインで開講している。運営に大きな打撃を受けた事業者から、同セミナーに月に300件ほどの問い合わせが入っている。

 

 「宿泊事業の撤退相談や売り上げが上がらないといった声が多く寄せられる」と水田佳苗社長は話す。同セミナーはもともと、水田社長が現地に出向き、施設の現地の視察も兼ねた対面で行っていたが、相談件数が増加したことにより、オンラインにも対応した。テレワークが本格化する中で、事業者への相談も画面越しで行う需要は伸びている。

 観光客の減少により、同社の宿泊施設も9割ほど売り上げが低下。料金の見直しや時間貸しでの転用も視野に入れている。「先を見据えて施設の価値を上げるための工夫を考える時間とするべき」(水田社長)

 民泊運営会社や家賃債務保証会社から200室超の残置物撤去の依頼があった大阪府内のとあるリサイクル会社でも問い合わせに負われる。1月末から対応し、今も続いている状態だ。

 物件はすべて特区民泊の物件。マンションの1室からフロアごと、新築一棟までさまざまで、中には、一度も稼働していないと思われる部屋もあるという。家具はほとんどがニトリやIKEAの製品。家電は中国製が目立つ。担当者は「質から判断して利益を出すのが難しい製品が多い。ただ、新品やそれに近い状態だったり、品数が多かったりするので対応できる」と話す。

                ◇ ◇ ◇                   

 これまで、賃貸物件の空室を転用し、脚光を浴びていた特区民泊だが、思わぬ事態となった。廃業する施設は今後も増加するだろう。宿泊事業者の動きを、今後も注目したい。

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