コロナ禍の賃貸市場への影響は?エリアルポ~大阪編・前編~

エスリード賃貸, アパルトマンエージェント, 南光不動産, プレサンスコーポレーション

管理・仲介業|2021年07月07日

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 大阪府は観光地が多く近年インバウンド需要でにぎわい、また、企業の本社・支社も多いことから法人による借り上げ社宅のニーズも大きいマーケットだ。だが、コロナ下の渡航制限により、観光客の来阪がなくなったり、転勤の動きが鈍化した。大阪の不動産市場は今、どのような状況なのか。地場で管理や売買・賃貸仲介を行う不動産会社らに取材し、現況を聞いた。

民泊の住宅転用増え賃料押し下げ

 コロナ下における、大阪市の賃貸住宅マーケットでは、社宅借り上げの低調と宿泊需要の消失による民泊物件の賃貸住宅転用により、家賃が押し下げられている傾向にある。

 『LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)』を運営するLIFULL(東京都千代田区)が発表する『住まいインデックス』によると、この3年間の大阪市内での平均賃料は、約14万円から14万7000円で推移しており、4.34%ほど上昇している。

大阪市の家賃推移グラフ

 一見好調に見える大阪市の賃貸市場だが、コロナ禍の影響は家賃の上昇幅にある。2018年から19年にかけての上昇率は1.49%、19年から20年にかけては2.08%だった。それが、20年から21年にかけては0.77%と、上昇率が縮んだ。

 なお、調査対象の物件は築10年、専有面積70㎡の物件としている。

 

エスリード賃貸、法人仲介に陰り 転勤の動きが鈍化

 マンション開発などを行うエスリード(大阪市)のグループ会社で、賃貸管理・仲介事業を担うエスリード賃貸(同)では、コロナ禍により法人仲介件数が鈍化した。

 同社は現在管理戸数約1万5000戸、賃貸仲介件数は年間400~500件ほどだ。主にエスリードが開発した賃貸マンションの管理と賃貸仲介を行う。管理エリアは大阪市、神戸市、京都市など。そのうち大阪市の物件が全体の6割を占める。

 エスリード賃貸では例年、賃貸仲介件数のうち3割程度を法人仲介が占める。大阪市には企業の本社などが立ち並ぶ。就職を機に関東エリアから大阪に移り住む企業の社員や、本社に異動となった社員の住まいの賃貸仲介を行っており、管理物件の入居者の8~9割は社会人だという。

 21年度は、賃貸仲介件数自体はほぼ横ばいだったものの、法人仲介の割合が2割ほどと、例年より1割近く減少した。松下恒幸社長は「1社ごとの転勤者数が減少したことが要因」と話す。

 例年は1社につき平均20人、最大で100人の賃貸仲介を行っていた。だが、21年度は肌感覚でその半数である平均10人程度にまで減少。賃貸仲介件数が横ばいのまま全体の転勤者数が減ったことで、法人仲介の割合が減少した。

 「テレワークの普及により自宅での仕事が可能になったことから、本社配属や、転勤の必要がなくなったのでは」と松下社長は推測する。

 また、転勤時期にも変化があった。緊急事態宣言中は企業も転勤を控えたため、繁忙期は例年11~12月だったのが、21年度は1~3月ごろに後ろ倒しになったという。

 学生仲介が低調な分、現在は一般仲介を伸ばすことで補っている。

 同社は今後、高齢者や外国人など、入居者の幅を広げることで、管理・仲介事業を安定させていきたいという。そのために現在、家賃債務保証会社との話し合いを進め、高齢者や外国人の入居審査が通りやすくなるよう理解を促している。

 

アパルトマンエージェント、ウイークリーが不調 出張減り前年比30%

 法人需要では好調だった短期貸しも、企業の出張などの抑制で不調となった。

 管理戸数6476戸のアパルトマンエージェント(大阪府吹田市)では、例年好調だったウイークリーマンション事業が劇的に落ち込んだという。コロナ禍により、法人の出張の動きが鈍化したことが背景にある。

ウイークリーマンションの内観写真

アパルトマンエージェントが管理するウイークリーマンション

 同社は大阪市、吹田市を中心に賃貸管理を行っている。ウイークリーマンションの戸数は非開示だが、内訳は大阪府内の物件が9割を占め、その他京都府や兵庫県、名古屋市などで1割となっている。ウイークリーマンションの入居率は、例年80~90%で推移していた。従業員80人中8人がウイークリーマンション事業部に所属している。

 新型コロナウイルスの感染が拡大した、2020年4月ごろから、ウイークリーマンション事業に陰りが見え始めたという。例年は、同社の総売上高(非開示)のうちウイークリーマンション事業は約4割の売上比率を占める事業だった。徳千代和也取締役は「東京に本社を持つ企業は、大阪に支社を持つことが多く、大阪支社への長期出張時にウイークリーマンションを選ぶ法人が多かった」と説明する。例年出張がなくなることはなかったため、経営は盤石だった。

 しかし、コロナ下による外出自粛により、企業が出張などの動きを控えたことから、20年の売り上げは19年の50%程度までに落ち込んだ。

 特にIT企業などからのキャンセルが目立ったという。外国人労働者を入居させる寮として使用していたが、渡航制限により外国人労働者が日本へ来られなくなったことから需要がなくなった。

 20年4月の新規入居の動きが大きく減ったため、4~5月には入居率も50~60%と厳しくなった。

 経営への影響も踏まえ、同社ではウイークリーマンションの借り上げを一部解除した。過去10年間で稼働率の低い物件を選んだ。主に、都心部のホテルが競合するエリアでの稼働率が低かったという。その結果、21年6月には稼働率が80%にまで回復した。

 「ウイークリーマンション事業は継続していく。このタイミングで撤退する企業は多い。情勢が落ち着き、需要が戻ってきた頃にライバル企業が減っていると見込んでおり、そこに商機があると感じている」(徳千代取締役)

 その他一般客に関して、自主隔離、テレワーク利用など、コロナ禍に関する特需は発生しているものの、結果的な売り上げには影響していないという。

 今後はインターネットによる集客により注力していき、目下の目標ではSEO対策を強化していくという。

 

南光不動産、学生の退去増加 入居率が4%下落

 学生の非対面授業が広がり、大規模な大学周辺の賃貸マーケットに影響をもたらしている。

 管理戸数1585戸の南光不動産(大阪府東大阪市)では、大学でリモート授業が中心となったために、2020年から21年3月にかけて学生の退去が増加した。そのため入居率が約4%落ち込み現在約90%だという。

 同社は全体の仲介件数約680件のうち、同社の商圏である東大阪市の小若江に立つ近畿大学の学生へ賃貸物件をあっせんする学生仲介が8~9割を占める。管理物件は1Kやワンルームなどの単身者向けが9割。管理物件へのリーシングが7割を占め、管理物件は近畿大学から徒歩5~15分圏内の場所に位置する物件のみだ。

近畿大学の外観写真

近畿大学外観

 同社では大学のリモート授業の影響が大きかったと話す。実際、20年度における「授業がオンラインになったから自宅に戻る」といった、リモート授業が理由の退去者は約330件にのぼり、特に大学3年生のケースが多い。学部によって対応が分かれるものの、完全にリモート授業が明言されている学部もあるという。

 近畿大学では、20年度は4月2週目にリモート授業への完全切り替えが発表された。また、6月には後期授業のリモート化も宣言され、新入生の退去が6~8月にかけ肌感覚で月10件ほど発生したという。

 不動産事業部の越前友範部長は「前期時点では後期が対面なのかリモートなのか、学生も確認がとれなかったため、現状維持を選んだのでは」と推測する。退去は増加したが、20年度は「念のため部屋は決めておきたい」という新入生の動きから、仲介件数自体は例年通りだった。

 また21年度は早めにリモート授業の発表があったために新入生の退去は少なかったものの、例年であれば退去予定ではなかった2~3年生が実家に戻るために退去したという。授業が少なくなった上にリモート授業に切り替わり、1人暮らしの必要がなくなったためだ。

 「当社は賃貸仲介に関して学生の一本柱だったために大きく影響を受けた。今後はポータルサイト反響を分析し、一般客の割合を増やしていくことで、持ち直していきたい」(越前部長)

 

プレサンスコーポレーション、宿泊物件を相場より5000円低く賃貸

 管理戸数約2万2000戸のプレサンスコーポレーション(大阪市)は、管理を受託している一部の賃貸物件の家賃の賃上げをストップしたという。コロナ禍によりインバウンド需要を見込めなくなった民泊が、低い賃料で賃貸物件に転用され、家賃の値崩れが起きていることが背景にある。

 同社は大阪府、京都府、神戸を含む関西エリア3都市を中心に管理を行っている。その中でも大阪府は全体の50%ほどを占めており、管理業において要となっているエリアの一つだ。大阪府内では主に大阪環状線近辺の賃貸物件を管理している。

 同社では管理する物件の家賃を少しずつ上昇させる取り組みを行ってきたが、大阪環状線南側の物件においては、コロナ禍を機にその動きを一時中断しているという。

 大阪環状線南側は難波や道頓堀などの観光スポットが多く、インバウンド需要の高いエリアだった。そのため民泊も2018年ごろから多く見られるようになっていた。

 同社では、00年ごろから毎年管理物件の家賃を1000円ずつ上げ、現在では単身者向けの1Kで、この10年で5万円から7万円までにアップさせたという。

 しかし、20年5月ごろから民泊を賃貸物件として転用するケースが目立つようになった。コロナ禍における渡航制限により、インバウンド需要が期待できなくなったためだ。

 民泊を賃貸転用した物件は周辺相場よりも5000円ほど安い賃料で貸し出しを行っているという。民泊物件は、30~40㎡ほどの広さの物件が多く、同社の管理物件とも入居者ターゲットで競合する案件も多い。例年通り家賃を上げると、部屋探しユーザーへ訴求することが難しくなるために家賃の値上げをストップした。

 賃貸事業部の加登山裕一部長は「民泊が安い賃料で貸し出しを行ったことにより、市況が悪くなったと感じている」と話す。

 同社は当面家賃の値上げの動きを止め、入居付けを優先していくという。

(7月5日6面に掲載)

おすすめ記事▶『コロナ下で変わる地方移住特集①』

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