【賃貸仲介会社の経営分析】重説、入居申し込みそれぞれで電子化進める2社と電子化検討中の1社を取材
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管理・仲介業|2022年03月22日
5月には電子契約の全面解禁も控え、ますます賃貸仲介業のDX(デジタルトランスフォーメーション)への興味が各社高まっているところだろう。賃貸仲介会社の契約関連業務の実態を探る。
不動産システム、LINE活用、重説を平日に誘導
土・日の残業削減に効果
年間1600件の賃貸仲介を行う不動産システム(島根県松江市)では「LINE」のビデオ通話を利用し、重要事項説明(以下、重説)や賃貸借契約を行うことにより、業務負担の軽減につなげているという。
松江市・出雲市・浜田市・江津市を商圏に4店舗を展開。従業員37人のうち、10人が賃貸仲介の営業を担当する。
申し込みに関しては、紙が9割を占めている。内見後に店頭で記入することが多いからだ。1割の他社物件の客付けのみで電子申し込みを取り入れており、メールで申し込みフォームのURLを送り、申し込み手続きをしてもらっている。
家賃債務保証会社は、主に日本セーフティー(東京都港区)とオリコフォレントインシュア(同)を利用。入居申込書と同時に必要書類に記入してもらい、ファクスで送付している。
重説は対面が6割、非対面が4割。2019年よりLINEを賃貸借契約や重説にも活用するようになった。直近1年で重説、賃貸借契約ともに4割はLINEのビデオ通話で行っている。法人、一般に関係なくLINEを活用する顧客が増えつつあり、今繁忙期は特にその傾向が顕著だという。内見でもLINEを利用し、転勤者などは現地に行かずに物件を決めることもあるそうだ。
LINEのビデオ通話を利用することにより、平日にIT重説を行うよう誘導できるようになったのもメリットだ。来店での重説の場合は土・日になることが多く、時間通りに来店してもらえないこともあり、従業員の時間をうまく活用できていなかった。
現在はLINEでのIT重説を平日の昼などに積極的に誘導することで土・日の残業が少なくなったという。4店舗の約6人でIT重説を実施し、店舗に関係なく、その時に手が空いているスタッフが臨機応変に行っている。重説は賃貸借契約日前に行っているが、顧客の都合に合わせ当日に行うこともある。特に転勤者の場合は重説・契約・鍵渡しまで1日で行うこともあるという。
家財保険会社は損害保険ジャパン(東京都新宿区)と東京海上日動火災保険(東京都千代田区)、あいおいニッセイ同和損害保険(東京都渋谷区)の代理店となっている。重説時や契約時、鍵の受け渡し時など、直接顧客と会えるときに対面で記入してもらい、保険会社に郵送もしくは、担当者に直接手渡ししている。
申し込みから契約までの期間は1週間~10日程度。鍵は契約日に手渡しすることが多い。
不動産システム
島根県松江市
片寄英治社長(57)
芙蓉建設、電子申し込みの実施9割
入居から退去までIT対応計画
年間1204件の賃貸仲介を行う芙蓉建設(山梨県富士吉田市)では、21年から電子化への切り替えを推進し、現在申し込みの9割を電子で行っている。5月の電子契約全面解禁に向け、着々と準備を進める。
同社の商圏は山梨県全域。仲介店舗は山梨県内に4店舗を展開している。従業員数はグループ全体で250人、賃貸事業部で34人。賃貸仲介の営業スタッフはパート・アルバイトを含めた12人だ。
賃貸仲介事業の年間売上高は非開示だが、内訳は仲介手数料が60%、広告料が40%だ。専任媒介は約7割、一般媒介は約3割だ。
入居申し込みは、電子が9割で紙は1割程度。21年6月ごろに電子契約サービスを導入し、一気に電子化が進んだ。電子申し込みは顧客にメールでURLを送り、スマートフォンから入力してもらう。
家賃債務保証会社はグループ会社の日本サポート(山梨県甲府市)を利用。審査書類のやり取りは主にメールで行っているが、ファクスの場合もあるという。
重説は対面5割、非対面5割。ほとんどの場合賃貸借契約と同日に行う。ツールは「Zoom」もしくは「GoogleMeet」を利用している。22年のIT重説の実施率は、21年の繁忙期に比べ約2倍に増加したという。
賃貸事業部の小林秀紀部長は「スタッフも社内外でのウェブミーティングやIT重説に慣れ、オンライン対応が当たり前になりつつあることが増加の要因だと思われる。対面の場合、土・日を希望する顧客が多かったが、非対面なら平日の夕方のニーズもある。その分、土・日の来店接客などに注力できるようになってきた」と話す。
家財保険は、全管協少額短期保険(東京都千代田区)を利用。やりとり方法はオンラインもあるが、現在は郵送で行っている。鍵の受け渡しは、店舗での対面が100%だ。
22年8月をめどに入居者アプリと管理システムを連動させ、募集から申し込み、入居、退去までをオンライン管理で一本化する予定だ。
小林部長は「業務効率化された時間を使い、土地活用部門との連携強化により、建設受注および管理戸数の増加に注力していきたい」と話した。
山一不動産、紙の申し込みが100%
電子化サービス導入検討
年間300件を賃貸仲介する山一不動産(山形県酒田市)は、入居申し込みの対応は原則紙で行っているが、顧客の利便性向上のために、電子申し込みの利用を検討している。
仲介店舗は1拠点で、山形県内や秋田県由利本荘市を商圏としている。従業員10人のうち、4人が賃貸仲介の営業に従事する。
賃貸仲介の売り上げには、家賃1カ月分の仲介手数料と、保険の代理手数料などを計上する。仲介は専任媒介が8割、一般媒介が2割となる。
入居申し込みの実施比率は紙が100%。アーク(岩手県盛岡市)の家賃債務保証を使用し、顧客が店舗で申込書に記入。ファクスで送信し入居審査を行っている。
同社では内見を現地集合で実施するケースが多く、内見後は申込書に記入するためにわざわざ来店する顧客の負担が課題だ。小林大祐専務は「顧客とのやりとりで使用しているLINEで申し込みフォームを送れば現地解散が可能になる。業務効率化と顧客側の利便性向上のためにも電子申し込みの導入を進めたい」と語る。
重説は対面が9割、非対面が1割だ。県外の法人や学生など遠方客から要望がある場合にZoomでIT重説を実施している。ただ、入居後の注意などを顧客に周知する入居前の最後の機会であることと、他社と差別化を図ったデザインの店舗で接客を行いたいとする同社のスタンスから、今後も対面での重説を続ける構えだ。
賃貸借契約と重説は同日に行うケースがほとんどだ。
入居者が加入する保険については、SBI日本少額短期保険(大阪市)を利用。賃貸借契約時に顧客が紙の申込書に記入し、契約する。
鍵については、管理物件にアルファ(神奈川県横浜市)の電子錠を導入しているため、施錠・解錠できる暗証番号を入居日や前日に顧客に伝えている。申し込みから契約までの所要期間は平均10日間。
(2022年3月21日6・7面に掲載)