本企画では地場不動産への取材や賃貸住宅に関わるデータから各主要都市の賃貸市場を探る。今回は兵庫県の県庁所在地、神戸市に焦点を当てた。
郊外の単身向け2万円台に下落
神戸市は九つの区から成り立っている。ターミナル駅のJR東海道本線三ノ宮駅周辺で大型事業用ビルの開発の動きがある。その一方で、中心部への人口流入を抑えるために行政が住宅建築を規制する動きも出てきている。中心部へのアクセスが不便な西区、北区などの郊外エリアでは家賃が下落しているようだ。
三ノ宮駅周辺で住宅の新築不可
管理戸数約3000戸のライブデザインマネジメント(兵庫県神戸市)の藤田進社長は「2019年に神戸市が三ノ宮駅周辺での居住用不動産の建設規制の条例を施行し、需要の高い駅近に賃貸住宅が建てにくくなった」と話す。
規制の内容は主に、①三ノ宮駅近辺での居住用不動産が建築不可②同駅周辺のより広域においてタワーマンションなどの大規模集合住宅の建築が不可。大規模集合住宅の定義としては、延べ面積が1000㎡以上で、容積率が400%を超える物件としている。
神戸市の住宅建設規制に関するマップ。オレンジの範囲が本文中の①、水色の範囲が本文中の②に該当する(出所)神戸市ホームページ
規制の背景には、神戸市中央区の周辺地区を住宅街、三ノ宮駅周辺を商業エリアに分けたいという行政側の思惑があるようだ。
三ノ宮駅周辺から他区、特に、神戸市内の小学校などが数多く所在するエリアへの人口流入を進めている。
一方で三ノ宮駅周辺は商業施設を誘致し、再開発を進め、商業エリアとして発展させたいのだという。実際、21年より同駅前での大型オフィスビルの建設が開始したのを筆頭に、2〜3棟の事業用ビルの開発を予定している。現在建設中の大型オフィスビルは、30年竣工予定だ。
藤田社長は「住宅建設の規制により、対象のエリアに物件を持っているオーナーは物価価値が下がり、売却しにくくなるなどの影響が出ているようだ」と話す。
西・北区で人口減 中央区と格差拡大
管理戸数4671戸のハウスプロメイン(同)によると、神戸市内の管理物件の賃料はエリアによって格差が広がっているという。中心地の中央区と、郊外エリアの西区・北区では、同じ間取りでも、3万〜4万円ほどの開きが出ている。
ターミナル駅の一つである三ノ宮駅などを含む中央区は、交通の利便性が高く人気のエリアだ。対して西区、北区は中央区から見て六甲山を越えた場所に位置しており、中心地に向かうのに交通の便が悪い地域もあるため、賃貸住宅の需要が減っている。
三宮営業所の松谷隆幸所長は「1995年の阪神淡路大震災直後には、被災による倒壊で中心地での住居が不足したことで郊外の需要が伸びたため、賃貸住宅の建設が増加した」と話す。加えて、神戸市外国語大学などの大学のキャンパスが西区にあり、学生需要も見込めるエリアだったという。
だが、震災から時間が経過した2000年代初頭から中心地に人が戻り始め、対して西区、北区から人口が流出するようになり賃貸住宅の需要が落ち込んだ。
また、学生のニーズに関しても、07〜12年ごろにかけ西区の神戸学院大学が中央区へ一部のキャンパスを移す動きが見られるようになり、西区・北区の人口流出に拍車がかかった。
「神戸市内でいうと管理物件の中にも西区、北区に所在するものが3割ほどあり、家賃の差は開いている。例えば、ワンルームや1Kなどの単身者向け物件は、中央区では6万〜7万円ほどだが西区、北区では2万〜3万円台にまで下がっている物件もある」(松谷所長)
県外転入減少 学生需要、低迷
神戸市内の郊外エリアで家賃の下落を感じているのはハウスプロメインだけではない。神戸市を足場に賃貸管理を行うとある不動産会社も、郊外エリアで、特に単身者向け物件の家賃の値崩れを感じている。担当者は「学生の県外からの流入が減り、需要が低迷している」と説明する。
西区、北区に加え、隣接する垂水区、須磨区に立地している物件が、同社で管理する約4000戸の物件のうち50%を超える。
家賃の下落を感じ始めたのは15年ごろからだ。特に、学生需要が減少しており、築20〜30年以上の単身者向け物件では3万円台の物件もある。7年間で家賃は1〜2割ほど下落したという。
学生需要が減ったのは、「他県からの学生の流入がなくなったため」と同社の担当者は考えている。15年以前は広島県や岡山県など、兵庫県よりも西側にある県から、神戸市内の大学へ入学し、西区、北区、垂水区、須磨区で一人暮らしを始める学生が多かったという。当時は学生のうち県外流入による入居が全体の90%を占めていた。
神戸住環境整備公社、リノベで団地に若年層
神戸市内の団地を中心に2535戸を運営する神戸住環境整備公社(同)では、団地のリノベーションを企画し、神戸市の活性化を図る。それまで少なかった若年層の入居につながっている。
団地のリノベは14年から開始し、所有する3棟11戸の実績がある。
特にリノベの効果を感じているのは灘区に所在する5階建てRC造の鶴甲住宅15館だ。JR東海道本線六甲道駅よりバスで15分に立地する。
同物件では全40戸中18戸をリノベした。外付け洗濯機を室内に設置したほか、和室を洋室に変更したり、3DKの間取りを2LDKにするなどして若年層に訴求した。
リノベ後の鶴甲団地104号室
団地の入居者は80代の高齢者層が中心だったが、従来よりも若い30〜40代の子育て世代を中心に入居が促進された。
住環境部の藤本晃一担当課長は「30〜40代の単身者といったこれまでに反響のなかった層からの問い合わせもあり、入居者層が広がっている」と手ごたえを感じているようだ。
(2022年7月18日7面に掲載)