人口3万人ほどの地方都市で、成長を続ける佐伯物産(愛媛県東温市)。特定のエリアで徹底した営業活動を行う「不動産ファーミング」の手法で、着実に受託戸数を伸ばす。
ファーミング営業で認知度獲得
商圏人口は3万 競合少数を選択
―管理戸数が年々増加傾向です。
ここ5年で240戸純増し、2025年3月末時点では住宅のみで1100戸を管理しています。東温市の管理シェアで見ると、24%に到達しました。
―佐伯大地社長の代で、不動産業を本格的に展開されたと伺っています。
はい、当社は父が1990年に設立し、東温市内で関係性のある地域住民向けにビジネスを展開していました。私は新卒で入行した銀行員時代に宅地建物取引士を取得。2002年にUターン就職で家業に入り、07年に社長に就任しました。どのエリアで不動産業を拡大するか、商圏の選択が最初の分岐点でした。
―選ばれたのが、人口約3万人の東温市です。
愛媛県の県庁所在地・松山市と比較し、競合が少ない東温市での事業展開を決めました。競合他社が約800社ある松山市と比較し、東温市は現在も10社程度しかありません。加えて賃貸住宅を手がけている会社に絞ると数社程度。競合が非常に少ないです。東温市は、松山市に隣接したベッドタウンです。09年以降人口は減少傾向にありますが、住宅ニーズのほか、山に囲まれた立地特性から災害が少ない地域として、大学病院など県内の医療機関が集約されている点が特徴です。東温市の平均家賃は、単身者向けで4万円、ファミリー向けで5万5000円ほどです。
区画整理が契機 FCや団体に加盟
―商圏を東温市に定めた後、どのように成長してきたのでしょうか。
地域および業界のコミュニティーに参加し、ノウハウや情報を収集することから始めました。競合が少ないことのデメリットは、ビジネスが活況になりにくいこと。必要な情報やノウハウを得ることが難しかったです。そのため最初の5年間は、地域の祭りや付き合いに積極的に参加することで、オーナーから建設会社まで幅広い関係の構築に努めました。そのような日々の中で出合ったのが、地元の賃貸住宅の建築会社でした。協業し、その会社が建てた物件を当社で管理するという仕組みで、まずは1棟9戸の賃貸管理からスタートしました。09年には、売買から管理受託営業までを学ぶために不動産フランチャイズチェーン(FC)「ERA LIXIL(リクシル)不動産ショップ」に加盟。一般社団法人全国賃貸不動産管理業協会(以下、全宅管理)にも入会し、管理受託後のノウハウ収集に努めました。
―管理拡大の転機は。
市の区画整理事業でした。東温市では、04年から20年までに、2度の区画整理が実施されました。市が田を区分けして、事業者が販売していくものです。当社は、地主の土地の販売を手伝い、売却利益で賃貸住宅を建ててもらう。建築後に物件の管理を受託するというフローを構築しました。私一人でスタートした不動産事業でしたが、2年に1人ずつ増員し、現在は駐車場など含め1300戸を12人体制で管理しています。受託オーナー数は120人で、地主が7割を占めます。
定期的な顧客接点 行動管理で成長
―売り上げ規模は10年で1.4倍に拡大しています。
戦略的に実施しているのが、不動産ファーミングです。ERAの基本的な営業手法として推奨されているもので、和訳すると農耕型営業という意味になります。顧客との関係を長期的に育むことを狙う営業手法です。具体的に何をしているのかというと、目視で空き地・空室を探して、登記簿謄本からオーナーの情報を仕入れます。FC本部が作成しているチラシに当社でアレンジを加え、郵送。これを、特定のエリアを対象に2カ月で一巡する形で、通算100回以上実施しています。「地域の不動産屋さん」として認知度が向上し、顧客からの信用力の獲得にもつながります。例えば金融機関からの紹介で初めて接点を持つ顧客でも、当社のチラシが届いているというケースは多いです。そのため、初対面でも心理的距離が縮まりやすいというメリットを実感しています。先に述べた区画整理の時代に行った地主向けの営業でも、ファーミング活動を徹底していました。アプローチを定期的に行う、という行動管理を仕組み化できることが成果につながると考えます。
―顧客と関係性を持続させるポイントは何でしょうか。
「地域」と「全国」という両輪を訴求することです。地域に根差していることできめ細やかな対応ができるメリットと、FCや業界団体加盟による全国の最新情報を獲得できている立場である両方を当社の魅力としてオーナーに伝えることで、不安を払拭しています。
―今後目指す会社像を教えてください。
管理戸数に限らず、不動産事業領域で地域のトップシェアを取ることです。実績の数字に表れない、認知度や信頼度も1番を目指します。ファーミング活動の最大の目的は、資産家との信頼関係の構築にあります。管理受託だけではなく、売買の案件獲得にもつながるためです。意識していることは、オーナー(資産家)の困り事・相談を何でも聞くという姿勢を持つこと。対話の内容は、不動産経営にとどまらず、人生相談にまで広がっています。
―資産家との関係性が深まることで感じている変化はありますか。
例えば住宅確保要配慮者の受け入れを促進していますが、オーナーへのお伺いなしで入居契約を進めることができています。現在、管理物件の15%が65歳以上の入居者です。東温市の人口約3万3000人のうち、3割ほどが65歳以上のため、リーシングの対象として意識しています。居住支援を進めることで、行政からの認知度や信頼を獲得することも狙いの一つです。
佐伯物産
愛媛県東温市
佐伯 大地 社長
【プロフィール】
1973年3月24日生まれ。甲南大学法学部を卒業後、大阪府の金融機関に入行。ショッピングセンターでの飲食店のマネジャー職を経て、2002年4月より家業であった佐伯物産にて不動産業を本格始動。07年3月に代表取締役に就任した。座右の銘は「率先垂範」。
(齋藤)
(2025年10月13日20面に掲載)




