野生の小型・中型の哺乳類が住宅にすみ着くと家屋や住人に被害をもたらす。野生生物による被害を食い止めるための対策に取り組む事業者2社に、被害の実態について話を聞いた。
ふん尿放置で異臭や腐食の原因に
獣害とは、野生動物、特に哺乳類が人間に対して与える被害のことを指す。今回は、獣害の中でも特に家屋や、住人に被害を及ぼす小型・中型の哺乳類について、事業者が見た被害の実態について紹介する。
日本における獣害のうち、家屋や人間に対する被害は、従来はネズミによるものが主だった。しかし、近年はそのほかの哺乳類からの獣害が急増しているのだという。
【獣害の種類】
・農業被害:害獣により、農作物や樹木が荒らされたり、食べられたりする被害
・家屋被害:害獣が家屋や家畜小屋などに侵入することで発生する被害
・人的被害:害獣の攻撃で人が負傷する被害
・生態被害:食物連鎖により特定の生物の数が極端に増減し、生態系が破壊される被害
「ハクビシンやアライグマといった中型哺乳類の個体数が増加しており、これらの獣害の相談が増えています」
そう語るのは、害獣の駆除や、対策を業務とし、「駆除ザウルス」を運営するAAA(トリプルエー)メンテナンス(東京都世田谷区)法人営業部の内田翔部長。本来は愛玩用として輸入された外来種が野生化し、環境に適合して繁殖していったのだという。さらには在来種のイタチやコウモリの相談も多いという。変わったところではテン、タイワンリス、アナグマなどの名前も挙がった。
内田氏は「害獣が家屋や住民に及ぼす被害の中で、最も多いのがふん尿によるものです。放置していると、異臭はもちろん、雑菌の繁殖による衛生面の危険や、建材の腐食による建物へのダメージも考えられます」と話す。
ホームレスキュー(大阪市)広報の元田誠氏は、ふん尿による被害で特に注意しておきたい害獣として、コウモリを挙げた。
「コウモリはさまざまな病原菌を保有しており、ふんも非常に危険。昆虫が主食でふんがすぐ乾燥し、粉じんとなって部屋の中に飛び散りやすいという点も注意が必要です」(元田氏)
ふん尿のほかには、害獣に付いているノミやダニなどにより体がかゆくなったり、アレルギーを発症するなど人体への影響が考えられる。また、野生生物は本来人間に近づいてこないが、繁殖期でどう猛になっている夏などには縄張りへの侵入者に対し攻撃してくることもあるという。さらに、恐ろしい二次災害を引き起こした例もある。
「ネズミが電源のケーブルをかじり、漏電して火災が発生するケースがあった」(元田氏)
東京消防庁が発表したデータでは、2017年度および18年度の2年間で、ネズミが原因の火災が20件ほど発生したという。
獣害は環境や衛生、健康面への被害のみならず、家屋の損壊や火災の原因にもなり得る。放置すると深刻な事態を招く可能性があるため、軽視してよいものではない。
(2022年5月23日12面に掲載)