ブロックチェーン技術を活用して不動産取引の安全性を高める動きが出てきている。不動産運用を行うマーチャント・バンカーズ(東京都港区)は、不動産の販売時にNFT(Non-Fungible Token)と呼ばれる代替不可能な資産としてトークンを発行する取り組みを9月21日に開始。IT企業のユニメディア(東京都千代田区)はブロックチェーンで取引履歴や案件の情報を透明化する不動産クラウドファンディングサイトを開設した。
デジタル証明で情報透明化し投資促す
上場会社で賃貸住宅を運営するマーチャント・バンカーズは、不動産NFTの第1弾として、海外投資家向けに山中湖の別荘の販売をスタートした。
NFTとは、取引履歴や所有者をブロックチェーン上に書き込むことにより、本物であることをデジタル上で証明する資産のことを示す。
ブロックチェーン技術は分散型台帳ともいわれ、世界中のネットワークに情報の履歴を残す仕組みであるため、情報の改ざんができない。その技術を基にしてデジタル証明書を発行した資産であるNFTは、デジタルアートなどですでに活用されている。
不動産のNFT化によるメリットは、既存の登記簿謄本による所有者証明に加えたデジタル証明により、海外の投資家に安心して日本の不動産を購入してもらうことだ。同社の髙﨑正年副社長は「日本の法制度がよくわからない海外投資家に対し、いつでもスマートフォン上で取得した不動産の取引履歴や所有者が確認できることで、日本の不動産取引に安心感を持ってもらえると考えている」と話す。
メリットのもう一つは、希少性だ。不動産NFT案件はまだ極めて少ないため、投資家への営業時に差別化になるとみる。今回、アジアの富裕層向けに不動産販売や日本不動産のポータルサイトの運営を行ってきた世界(東京都新宿区)と業務提携。世界の既存顧客である台湾や香港などの富裕層5万7000人に対し、マーチャント・バンカーズの不動産NFTの情報を発信することで、投資家に訴求する。
不動産NFTの第1弾は、外国人観光客の認知度が高い山梨県の山中湖近くに立つ1億円規模の別荘だ。第2弾として、マーチャント・バンカーズの所有する賃貸住宅をNFT化し投資家に販売することも計画する。「当社だけではなく、ほかの不動産会社から物件を募り、不動産NFTのプラットフォームをつくっていく。ゆくゆくは外国人投資家への家賃送金記録にブロックチェーン技術を使うなどして、投資家や管理会社にとって安全なビジネスができるサービス提供もしていきたい」(髙﨑副社長)
不動産クラファンの情報開示を推進
IT事業を行うユニメディア(東京都千代田区)は、8月に、ブロックチェーン技術を活用した不動産クラウドファンディングサイト「cellF(セルフ)」を立ち上げた。
連携する不動産会社が不動産特定共同事業法に基づく不動産の小口化商品を同サイト上で掲載する、いわばポータルサイトだが、既存のサービスと異なる点は、全体の投資総額やファンドのバランスシートの推移などの履歴をブロックチェーンに残し、投資家らに開示する機能を持つ点だ。ビジネスイノベーション室の蓑和航室長は「既存の不動産クラウドファンディングサイトは、運用状況が不透明。ブロックチェーンに案件の運用履歴、投資履歴などを残し情報開示することで投資家が安心して投資できる。また、現在は行われていない投資家同士の売買などもゆくゆくは可能になるだろう」と話す。
今後は連携企業数とその掲載する案件の幅を広げ、3年後に同サイトでの総流通額380億円を目指す。デジタル化により不動産取引や運用状況の情報がいつでも見られるようになれば、日本の不動産への投資も進んでいくだろう。
≪NFTとは≫
Non-Fungible Token(非代替性トークン)。ブロックチェーン技術を活用することでデジタル証明書を発行し、対象が本物であることを担保する。取引履歴が残り、データの改ざんが不可能。デジタルアート作品での活用が進む。
(10月11日1面に掲載)