家賃債務保証会社のニッポンインシュア(福岡市)が、10月3日に東証スタンダード市場に上場した。上場により社会的信用力を得て、商圏および事業規模の拡大を目指す。
事業拡大視野に信用力を強化
商品需要を見極め 新規契約3万件強
家賃債務保証事業を主軸とする会社としては、5社目の上場企業となるニッポンインシュア。同社の坂本真也社長は、「賃貸管理業務の中でも『家賃』という重要な部分に関係する家賃債務保証事業者としては、商品力以外に社会的信用力も重要だと考えていた。この上場を機に、今後の会社の成長・発展につなげ、地域、社会の進歩・発展に貢献していきたい」と話す。
賃貸住宅において、入居時の加入割合が高水準となっている家賃債務保証サービス。提供する会社の数も増え、市場に成熟感が見られる中、今後の成長において会社の信用力を向上させるための取り組みは欠かせないと同社は考える。
2022年9月期の売上高は前期比120%の26億478万円、経常利益は同210%の4億638万円を達成した。家賃債務保証の売り上げの内訳は賃貸住宅が6割、事業用店舗が4割弱、残りが駐車場や倉庫だ。
同社は02年に福岡市にて設立。それ以降、保証事業の譲受と支店開設を重ねて商圏と事業規模を拡大してきた。現在は東京都、大阪府、神奈川県、宮城県仙台市、新潟県に支店を置く。19年には介護費・入院費に対する保証商品の販売を開始するなど、保証領域の拡大にも挑んでいる。提携する代理店数は1400社を超える。
成熟市場においてサービスのさらなる差別化が求められる中、販売代理店となる不動産会社の業務効率向上につながるサービス展開に注力する。
取り組みの一つが、外部企業と連携した商品の開発だ。入居者トラブルの解決を支援するヴァンガードスミス(東京都港区)と業務提携し、騒音や生活ルールを巡る入居者同士のトラブルが発生した際の対応を保証商品に付帯することで、管理会社の負担を削減する。駐車場関連サービスを手がける会社と提携した商品もあり、月極駐車場における契約手続きの簡素化を実現している。
今後、長期的に増加が見込まれる高齢者世帯に対しては、ヤマト運輸(東京都中央区)との連携により、電球の使用状況を活用した見守りサービスを提供。管理業務における負担やリスクを軽減する商品を増やす。
商品開発に役立てているのが、販売代理店となる不動産会社の声だ。業務課題や潜在的な商品ニーズのくみ取りを徹底することで、必要とされる商品を分析し、開発スピードを上げている。
業務効率化の一助とするのが、独自開発した契約管理システム「Cloud Insure(クラウドインシュア)」だ。提携する管理会社に提供し、家賃債務保証契約や顧客情報の管理、契約書など必要書類のダウンロードを手軽に行えるようにした。
多様な商品の展開や運用面の改善が奏功し、家賃債務保証の年間の新規契約数は、22年9月期で3万1267件となった。
教育体制を整備 傾聴力の向上重視
保証事業において重要な指標となる求償債権発生率については、これまでの保証実績に基づいた独自の審査基準を設けることで抑制。人による対応に加え、AI(人工知能)オペレーターやロボットコールなどのシステムを併用し、滞納発生時に素早く対応できる体制を整えることで債権回収率の向上にもつなげている。
社員育成では、「質問力」「傾聴力」の向上に取り組む。代理店訪問時に、しっかりと課題のヒアリングができるようになるため、また、滞納者に寄り添いながら正確に生活状況を把握する力を身に付けるためだ。
経営理念に「全従業員の物心両面の幸せを追求すると同時に人と地域社会の進歩発展に貢献する」を掲げる。積極性や向上心、コミュニケーション力を重んじながら、経営理念の実現に向け、チャレンジ精神を持って仕事に取り組む企業風土を醸成している。
(國吉)
(2023年11月20日20面に掲載)