3.11から11年、帰還困難区域で初の賃貸住宅稼働へ

双葉町, 双葉不動産

管理・仲介業|2021年11月22日

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修繕箇所を確認する現地調査の様子

 東日本大震災に伴う東京電力福島第1原子力発電所の事故の影響により帰還困難区域に指定されていた福島県双葉郡双葉町において、賃貸住宅の稼働を再開させる動きがある。2022年6月の避難指示解除予定に合わせ、町に帰ってくる一般住民を迎え入れる準備を行うオーナーに復興再生への思いを聞いた。

福島県双葉町で止まっていた時が動き出す

 双葉町で止まっていた時が、やっと動きだす。11年3月11日の原発事故から11年たつ22年6月をめどに住人の帰還が可能になることを受け、地元での賃貸経営再開を決意したのが大沼勇治オーナー(茨城県古河市)だ。

 双葉町の出身で、学校卒業後、仕事で上京。母親の定年退職を機に地元双葉町に戻り、持っていた土地で賃貸経営を始めた。だが、原発事故で避難を余儀なくされ、現在は茨城県古河市に拠点を置き家族と暮らしている。大沼オーナーは「賃貸住宅の運営をきっかけに、故郷の双葉町に通うことで生涯接点を持てる。避難先で子育てをしているため、簡単に故郷には戻れないが、賃貸経営を通して地元の復興に協力したい」と語る。

 同町は、11年3月11日の地震に伴う原発事故で放射性物質漏れの被害に遭い、避難区域となった。中でも福島第1原発から20km圏内に位置していたことから警戒区域に指定され、例外を除き立ち入りは禁止。役場機能を県外へ移し、元の住民もほかの町への移住を迫られた。町を離れたのは延べ6722人(10月31日時点)に及ぶ。

 その後、住民の帰還に向けた環境整備と地域の復興再生を進めるために避難指示の見直しが行われる中、20年3月には双葉町の一部が避難指示解除準備区域となった。

 しかし、残りの多くのエリアは帰還困難区域のままだった。事故発生から5年経過後も放射線の年間積算量が20ミリシーベルトを下回らない恐れのある地域に対しては引き続き避難が徹底される。

 双葉町は、10月7日、町内のJR常磐線「双葉」駅を中心としたエリアを含む特定復興再生拠点区域の避難指示解除時期が、22年6月になる見通しを示した。該当エリアに賃貸物件を所有していた大沼オーナーは避難解除とともに物件を稼働させるべく動きだした。

残置物処理で直面 時が止まった室内

 大沼オーナーは、双葉町に2棟6戸の物件を所有。避難指示解除に向け、物件のリフォーム・リノベーションに取り掛かっている。それぞれ、築16年のメゾネットタイプ全2戸の物件と、築13年のオール電化対応全4戸の物件だ。

 物件が立つのは3月4日に避難指示解除準備区域となったエリアで、防護服の着用なしで立ち入れるようになった。

 原発事故当時、満室稼働していた全6戸の元入居者全員に残置物処分に関する許可を得た9月、残置物の撤去作業のため、10年ぶりに物件に足を踏み入れた。「10年前から時が止まった状態。冷蔵庫にも物が入ったままだった」(大沼オーナー)と現場の様子を振り返る。

状況検査中の写真

所有物件における放射線モニタリング・目視による建物などの状況検査の様子

修繕に向け現地調査 22年1月の入居目標

 10月19日、大沼オーナーと共に物件の修繕のための現地調査を行ったのが、管理会社の双葉不動産(福島県双葉郡)だ。同社は、管理戸数約600戸の地場不動産会社で、管理エリアは浪江町、双葉町、富岡町、広野町を含む双葉郡全域となる。

 物件を見て回った同社の岩野丈美営業部長は「新たな入居者にとって、気持ちの休まる空間へと生まれ変わらせたい。町自体の復興はまだ進んでおらず、インフラ整備や飲食店、コンビニエンスストアも稼働していない状態。復興事業関係者が入居者となることが予想されるが、せめて居住部だけでもきれいに整備したい」と語る。

 同社としても、町に人が戻ってくることを願うというが、特にこの土地で住み暮らし続ける人口の回復を望むという。

 「管理物件の入居率は90%。高水準の理由は、復興事業関係者の入居にある。しかし、復興に関わる工事が終了すると一斉に退去し別のエリアへ移動してしまうため、3月の入居率は70%まで落ち込んだ」(岩野営業部長)と話す。

 大沼オーナーの所有物件のうち、1棟については復興事業関係者からの入居希望の問い合わせがあり、一般人向けの避難指示解除前の22年1月入居を目標に、リフォームを進めていくという。

 双葉町は避難指示解除後5年で約2000人の居住人口を目指すという。人が暮らすために欠かせない「住まい」の整備は、町の復興にとっても重要な役割を担っている。

大沼勇治オーナーの写真

大沼勇治オーナー(45)
茨城県古河市

 

(2021年11月22日・29日24面に掲載)

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