まもなく全面解禁となる賃貸仲介のオンライン契約。IT重要事項説明(IT重説)については各社対応が進むものの、オンライン契約導入の方針は各社に違いが見られる。オンライン契約の導入について異なる意向の2社に話を聞いた。
アメニティーハウジング、IT重説は12%、本社人材が支援
年間仲介件数1255件のアメニティーハウジング(神奈川県横浜市)では、申し込みに100%オンラインで対応するが、契約までに紙とオンラインが共存しており全体的な効率化については準備段階だという。先行して社内のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に取り組み、内部の事務処理の電子化を推進している。2022年5月までに可能になる賃貸借契約の完全電子化に合わせスタートを切れるよう、前向きな姿勢だ。
同社は、管理戸数約2万1500戸のジェイエーアメニティーハウス(神奈川県厚木市)のグループ会社で、賃貸仲介専門の会社として独立している。アメニティーハウジングの売上高(非開示)の内訳は、広告費を含む仲介手数料60%、更新事務手数料が31%、付帯商品の紹介が6%、月極駐車場の管理・仲介が3%となる。全従業員29人のうち、賃貸仲介部門のスタッフは23人。このうち、営業担当が17人、事務担当が6人だ。
アメニティーハウジング日吉店店舗外観
賃貸仲介店舗は神奈川県横浜市を中心に計5店舗を構える。商圏は、横浜市と同県川崎市全域を網羅する。
年間仲介件数1255件のうち、ファミリー向け物件の成約件数が約8割を占める。仲介する顧客属性は、法人が1割、一般が9割となる。
仲介手数料は家賃の1カ月分。スタッフ1人あたりの平均成約単価は、ADを含めず約9万円。営業スタッフの1人あたりの年間平均成約件数は約75件。賃貸仲介のうち、専任媒介は66%、一般媒介が34%となる。来店成約率は42%。例年40%台を保ち、コロナ下でも大きな変動はないという。
申し込みから入居審査までのIT活用割合は、グループ管理物件の仲介では100%。アットホームが提供するウェブ申し込みサービス「スマート申込」を活用。来店した顧客から聞き取りの形で店舗スタッフがウェブの申し込みフォームに入力する。紙の申し込みと比較し記入漏れや誤字などの不備が減ったという。
家賃債務保証については、オリコフォレントインシュア(東京都港区)や日本セーフティー(同)を利用。現時点ではオンラインでのやりとりに対応していないが、オリコフォレントインシュアとスマート申し込みが連携済みのためオンラインでのやりとりはシステム上可能。業務フローの確認後、22年の繁忙期明けにはオンライン対応の導入を検討しているという。
重説と賃貸借契約は基本的に同日対応。IT重説の割合は約12%で、顧客の意向を優先している。この12%には、本社スタッフがオンラインで店舗の来店顧客に対応する社内間のIT重説割合も含まれる。来店の多い土・日曜日には、店舗スタッフが営業を優先し、本社の宅地建物取引士(以下:宅建士)保有者がオンラインで対応するという。アメニティーハウジングのみの宅建士の資格保有率は55%で、各店舗に1~3人配置。IT重説のツールはスマート重説を利用する。
家財保険は、損害保険ジャパン(東京都新宿区)を利用し、個人賠償責任特約包括契約で、家財保険会社と同社が契約を結ぶ形となる。契約書は書面の郵送でやりとりを行う。申し込みから契約までの所要日数は平均で10日間だ。
鍵の受け渡しは100%対面となっている。
アエラハウス、申込手続きは紙ベース100%
電子化対応にかかる労力を懸念
年間賃貸仲介件数650件のアエラハウス(兵庫県尼崎市)では、入居申込書など書類の取り交わしはすべて紙で行っており、電子化の予定はない。電子化で得られる効果と、導入する際にかかる労力が見合わないのではないかと疑問を感じているためだ。
同社の売上高は約4億円。内訳は売買仲介が36%、リフォーム・修繕を含む工事が32%、賃貸仲介・賃貸管理を合わせた賃貸事業が30%となっている。賃貸事業のうち、賃貸仲介売り上げは7000万円だ。賃貸仲介店舗は尼崎市内に1店舗を運営している。
賃貸仲介売り上げには仲介手数料、広告費、家財保険の代理店手数料、家賃債務保証の代理店手数料、付帯サービスの売り上げが計上されている。仲介手数料は家賃の1カ月分だ。成約単価は11万~12万円。平均家賃は1Kやワンルームなど単身者向け物件で6万~7万円、1LDK以上のカップル・ファミリー向け物件で9万円だ。
従業員15人のうち、賃貸仲介営業担当は社員である4人だ。1人あたりの年間成約件数は162件ほど。繁忙期で1人あたり月20件、閑散期で月12~13件ほど成約している。個人契約、法人契約はそれぞれ5割ずつで、一般媒介、専任媒介も5割ずつの割合だ。
アエラハウスが運営するピタットハウス立花店の外観
同社では、入居申込書や家賃債務保証会社と取り交わす契約書などはすべて紙で行っている。遠方に住む顧客との契約の際は、メール本文に申し込み内容を記入してもらい、従業員が申込書に転記する。
今後も契約関連業務を電子化する予定はない。大浦崇弘社長は「電子化するとなると、それまでのやり方を崩してシステム側に合わせた業務フローを再構築する必要がある。その労力に対し見合う効果を得られるのか疑問」と電子化に慎重な姿勢を見せる。
特に、管理を受託するオーナーが電子化した申込書に対応できるのかを懸念する。顧客のオーナーは60~70歳代が多く、新たなシステムに慣れるのに時間がかかると考えているためだ。
一方、重説に関しては非対面化が進んでおり、対面とIT重説が5割ずつの実施割合だ。IT重説は顧客側でも対応が容易なうえ、外出自粛のニーズに押され新型コロナウイルス下以降件数が増加した。システムはアットホーム(東京都大田区)が提供する「スマート重説」を活用している。
利用する家賃債務保証会社は「ピタット保証」と全保連(東京都新宿区)だ。ピタット保証は管理物件への自社付けの際に利用しており、割合は全契約のうち9割を占める。審査結果は不備がなければ即日メールで届く。
家財保険はChubb(チャブ)少額短期保険(東京都品川区)を利用する。鍵はすべて手渡し。入居申し込みから契約まで、2~3週間かかるという。
アエラハウス
兵庫県尼崎市
大浦崇弘社長(47)
(2021年12月20日6面に掲載)