不動産会社のAI(人工知能)活用の取り組みにおいて、導入から実際の施策、目指す方向までを紹介する連載の第3弾。愛媛県松山市を中心に管理・仲介を行う日本エイジェントは、入居者対応の品質向上にAIを生かす。評価を数値化し、各担当者の教育にもつなげていく。
報告書の作成業務3割減
上長確認50%削減
日本エイジェントは、賃貸管理業務を中心に生成AIの活用を進めている。オーナー向け報告書の作成時間を短縮するなど業務効率化を図る。社員の教育や接客品質の向上にも役立てている。
同社におけるAI活用の特徴は、既存の業務フローにAIを組み込み、効率化と品質向上を同時に追求している点にある。特に、24時間の入居者対応を行う賃貸管理の「レスQセンター」での活用が進む。
具体的な成果として、オーナーへのトラブル対応報告書の作成業務が挙げられる。同社は、自社の顧客管理システムに生成AI「Chat(チャット)GPT」のAPIを組み込んだ。担当者が入力した対応記録を基に、AIが報告書の文章を自動で生成・修正する。これにより、報告書の作成時間は約30%削減され、上長による確認の時間も50%削減された。
また、入居者に対する電話応対の分析にも活用。通話内容を音声テキスト化し、AIが対応品質を分析してフィードバックを行う。従来はすべての通話内容を確認することが物理的に困難だったが、AIの導入により効率的なチェックが可能となった。特に経験の浅いスタッフの教育・育成に効果を発揮している。
入居者の声をAIが分析しレポーティング
さらに、顧客からのフィードバック分析も進めている。はがきや「LINE」、インターネット上の口コミなど、さまざまな経路で寄せられる「お客さまの声」をAIが集約・分析する。迅速性や親切さといった定性的な要素を可視化することで、自社の強みや改善点の把握につなげる。
人材育成に活かす
同社が全社的にAI活用を本格化させたのは2025年8月ごろ。それ以前から個人レベルで試験的な利用は見られたが、情報漏えいリスクなどを考慮し、会社として管理する体制へと移行した。当初は専任部署を設けず、業務上の課題に対してAIで何ができるかを検証する「スモールスタート」の方針をとった。
推進にあたっては経営企画部のメンバーが中心となり、各部署へ活用アイデアを提示してきたが、今後は体制をさらに強化する。経営陣直轄の専属スタッフや役員を配置した「AIタスクフォースチーム」を立ち上げ、組織的な活用を加速させる計画だ。
日本エイジェントの乃万春樹社長は「AI導入に対し、経営層が『変化は進化である』とのメッセージを発信し続け、トップダウンで定着を図っている」と語る。
今後は、賃貸仲介業務や、より高度な管理業務への活用拡大を予定している。賃貸仲介では、過去の膨大な取引データを基に、顧客の条件に合致する物件をAIが提案する業務支援ツールの導入を検討中だ。経験に依存しがちな物件提案をAIが補完。若手社員でも早期に成果を上げられる環境を整え、戦力になるまでの期間短縮を目指す。管理業務では、データの蓄積を前提に、コンサルティング精度の向上につなげる構想を描いている。
同社はAI活用の目的について、単なる業務効率化にとどまらず、売り上げ・利益に直結する人材育成や成約率向上を重視する。「AIが事務処理やデータ分析などの定型業務を担うことで、人間はAIでは代替できない『感情に寄り添う』接客や創造的な業務に集中できる」
AI活用が進むことで、業界内での企業の二極化が進むと予測される中、同社はAIを使いこなし、新たな価値を創出することで競争力を高めていく考えだ。
(2026年3月23日4面に掲載)





