熊本県内の賃貸市場が一部で活況を呈する。台湾の半導体大手、台湾積体電路製造(以下、TSMC:台湾新竹市)工場開業の影響で、工場がある菊陽町とその周辺地域で賃貸住宅の開発が進む。法人の需要でにぎわう中、家賃の上昇や供給過剰を懸念する声も上がる。
3年で家賃3割上昇も
長期目標で開発
熊本県地場大手の明和不動産(熊本市)は、TSMCの工場進出により、中期的なビジネスチャンスが見込めるとする一方、賃貸住宅の供給増加による入居率悪化を懸念する。
同社の川口英之介COOは「TSMCの従業員に対する賃貸仲介は1700件ほどになると計算されている。当社はそのうち330件と、約2割のシェアを獲得できている」と話す。
賃貸仲介では、TSMCの駐在員に加え、日本の合弁会社Japan Advanced Semiconductor Manufucturing(ジャパンアドバンストコンダクターマニュファクチャリング:菊陽町)が地元で新卒を採用するにあたっての依頼も大きい。2024年の繁忙期には、130件ほどの契約があったという。
TSMCの駐在員向け社宅において、安全な建物であることが選択されるポイントになっているという。
「RC造で新築や築浅を希望している。構造にはかなりシビアな印象。企業側からすると、海外赴任する従業員が安心して暮らせる住まいであることを重視しているようだ」(川口COO)
単身者であれば30〜40㎡の1Kや1LDKを探す傾向にあり、対象となる物件の家賃は3年で2〜3割上昇した。
法人の需要が旺盛な中、投資家も不動産の取得に積極的な姿勢を見せる。明和不動産は、同工場の立地する菊陽町周辺に23〜25年の3年で42棟の賃貸住宅を開発する予定だ。そのうち6割がRC造で、1棟30戸ほどの賃貸マンション。4割ほどが、1棟6〜8戸のアパートだという。土地と建物を合わせ、賃貸マンションであれば表面利回り5%強、アパートは5.5%強。土地と建築費の上昇により、利回りが下がっている。投資家の需要を踏まえ、24年から27年までの間に年間20棟ペースで開発を進めていきたいとする。
TSMCの工場が商機につながると考える一方、地域で賃貸住宅の供給が急増することに懸念を示す。
菊陽町には他社メーカーの工場がある。リーマン・ショックの際には、社宅が一気に解約になり、一時、周辺の賃貸住宅の入居率が20%ほど下がったことがあったという。「周辺と競合する物件を造ってしまうと、管理物件のリーシングが苦しくなる。それを踏まえ、設備やグレードで独自性を打ち出し、長期的に入居者を獲得できる物件の企画に力を入れている」(川口COO)
明和不動産
熊本市
川口英之介COO(44)