空き家の貸し手としてエリアリノベーションを実践することを決めた美想空間(大阪市)は、大阪市港区築港エリアで、1952年築のビルが解体されようとしていることを知る。鯛島康雄社長は持ち主の上組(兵庫県神戸市)の役員を訪ね、ビルをリノベし、10年間借り上げるプランを提案する。
周辺の空き家も取得
鯛島社長は、話を聞いてから半年で、上組との間で10年間のサブリース契約をまとめた。建物の改修費4000万円はすべて自社で負担した。2019年1月にリニューアルした建物は「KLASI COLLEGE(クラシカレッジ)」と名付けられ、飲食店や複数のリノベ会社を誘致し、美想空間の本社も移転した。テナントはその後入れ替わっているが、賃料収入は23年の時点で年間2400万円だ。
時を同じくして、築港エリアの空き家を購入、あるいは借り上げた。24年8月時点で、自社で購入したのが3棟、借り上げたのが3棟、さらに、地域の有志と設立した会社で4棟を所有する。建物は80坪の土地に立つ築50年のRC物件が最大で、木造のパン工場、文化住宅、あるいは更地もありさまざまだ。ここでも賃料を抑えてテナントを集め、貸し手として利益を得ている。
テナントの顔ぶれは、美容室、飲食店、シェアオフィス、シェアハウス、民泊など幅広い。大規模にチェーン展開するテナントはなく、個人や小規模事業者の借り手が多い。これらのテナントの誘致も鯛島社長が担当する。賃料を抑える以外にも、入居テナントがビジネスを継続しやすい仕組みをいくつも整える。このテナントを誘致し、育てるノウハウが、鯛島社長のエリアリノベ事業における最大の特徴だ。
大阪メトロ中央線大阪港駅から徒歩2分の場所に立つKLASI COLLEGE。オープン当時からテナントは一部入れ替わっているが、現在1階では、シェアキッチン「カリキチ」が運営されている
イベントでテナント発掘
テナントを発掘するために、鯛島社長が力を注ぐのがイベントだ。自社で主催するもの、協力者と実施するものを含めて、ほぼ毎週どこかで何らかのイベントに関わっている。イベントのテーマは、飲食に関わるもの、DIY教室、ヴィンテージ雑貨、或いは空き家を使った事業のトークイベントなどさまざまだ。ポイントは、出店者の顔ぶれが個人や小規模事業者ばかりということだ。
鯛島社長(中央)は、新たな空き家の利用者やビジネスパートナーとの出会いを求めて、セミナーやイベントの開催に力を注ぐ
「築港ナイトマーケット&サンセットシアター」は、築港エリアのシンボル「港大橋」を臨む屋外スペースで、映画を上映するイベントだ。ハンバーガーやドーナツなどの飲食ブース、古着や雑貨などの物販ブースが出展し、バンドやダンスなどのショーも用意され、地域住民を中心に、老若男女が集う。主催は築港エリアの活性化を目指して集まった有志団体「築港エリアリノベーション協議会」だ。
映画上映イベント築港ナイトマーケット&サンセットシアターには、地域住民を中心に来場者が集まり、飲食ブースも出展する
イベント出展者は、自身の店舗を持たない人も多い。自慢のメニューや作品を並べ、来場者に向けて腕試しをする。彼らの中から、本気で店を出そうとしている人を見つけだすのが、鯛島社長のテナント候補発掘術だ。
「『場所を使いたい人、いませんか』って、めっちゃ声をかける。出展者だけじゃない。イベント関係者、ボランティアスタッフすべての人が、未来のテナントのターゲット」(鯛島社長)
借り手、地域の中にも
イベントを通じて、地域に住んでいる借り手のニーズを掘り起こすこともある。24年冬には奈良県大和郡山市で築70年の長屋を改修し、手作り作家が利用するシェアアトリエ「オカマチ荘」をオープンする。1.37〜6.77㎡まで18の小スペースに区切り、1㎡あたり月額3500円で貸し出す。借り手の多くは、事業者ではなく、手作りを趣味や特技とする地域の女性たちだ。家事や子育てをしながら、ビジネスとしてシェアアトリエを活用する。運営するのは鯛島社長も参加する地域のまちづくり会社、大和郡山まちづくり(奈良県大和郡山市)だ。
大和郡山市には、市主催のまちづくりイベント「リノベーションスクール」で、講師として参加したことをきっかけに関わるようになった。20年から地域住民と共同で、空き家を活用したビジネスを創出する。オカマチ荘の企画は、地域イベントで作品作りをする地域の女性が多いことに気が付いて始まった。作品作りに取り組みやすい空間、スモールビジネスを起業できる場所を、負担にならない金額で貸せれば、賃貸業として成り立つと考えた。
(2024年9月30日21面に掲載)