美想空間(大阪市)は、大阪市難波エリア、大阪港エリア、奈良県大和郡山市で、空き家を借り上げ、地域一帯の不動産価値を上げるエリアリノベーションを実践する。鯛島康雄社長は、複数の空き家の借り手となり、テナントの発掘も自ら行う。個人事業主が多いテナントを支えるために、開業後も集客面を中心にサポートする。
工事金額、借り手で決まる
鯛島社長の空き家ビジネスは、空き家の取得、改修工事、リーシング、開業後のテナント支援をワンストップで行うものだ。どのような工事にいくらかけるかは、借り手の存在を見据えて決めていくという。
「この場所(立地、条件)なら、このテナントにいくらで貸せる、空き家を借りるにはいくらかかる。それなら、工事費用としていくらまでかけられる、そのように考える」(鯛島社長)
だが、賃料を抑えた空き家に紹介するだけでは、借り手のビジネスがうまくいくわけではない。どのような事業ならば、その場所で経営しやすいかを、企画者として見定める必要がある。
「例えば、エステを始めた人が現れたら、近くにネイルショップができるようになる。周辺にも女性向けのテナントができていく。一つ軸ができたら、そこから広げる。テナント集めは一方通行ではない」(鯛島社長)
自治体、大企業と連携
オカマチ荘は築70年の店舗兼住居の空き家
テナント集めは、地域住民からとは限らない。大阪市港区築港でビールを醸造するブルワリーを始める人は、奈良県宇陀市から移住してきた。大和郡山市では、三重県から地元に帰ってきた人もいる。彼らのようにリスクを背負って他地域から出店に挑む人の背中を押すには、地域の魅力や、手頃な賃料だけでは足りない。
そこで、鯛島社長が重視するもう一つの活動が、自治体やメディア、地域の大手企業との連携だ。イベントを開催する際、後援を取り付けたりすることで連携を深める。イベントそのものの集客につながると同時に、地域店舗の集客支援につなげる。
24年6月、オカマチ荘で開催されたイベント「DIY教室」のテープカット。主催した大和郡山まちづくりの大垣満氏(写真左)と楽天の兼松遼氏(同右)、共催の大和郡山市の上田清市長(同中央)
大阪市港区にある美想空間が運営する複合施設「KLASI COLLEGE(クラシカレッジ)」は、まちづくりを推進する立場で大阪市港区と地域協定を結んだ。大和郡山市で手作り作家が利用するシェアアトリエ「オカマチ荘」では、オープニングセレモニーや空き家の借り手募集イベントで大和郡山市との連携を積極的に行う。これらの活動を新聞などのメディアに取り上げてもらい、住民に対する認知度や信用を築いていく。
オカマチ荘ではDIY教室を開催。参加した地域住民は、塗装作業、壁紙貼り、木工作業などを体験した
期間貸しでテナント育成
テナントの事業支援という側面では、小スペースを貸し出すシェアオフィスやシェアキッチンなどの期間貸しが果たす役割も大きい。美想空間がKLASI COLLEGEで運営するシェアキッチン「カリキチ」は、五つのテナントに3週間単位で貸し出しをする。月替わりの店を楽しみに来店するのは、地域住民だ。
KLASI COLLEGEの1階にあるシェアキッチン「カリキチ」
借り手にはプロの事業者だけでなく、期間限定とはいえ自分の店を持つことにやりがいを感じる人、自分の常設店を持つことを目指す人もいる。鯛島社長は、味やオペレーションに対して、積極的に意見を伝えるという。
「3週間で、めっちゃくちゃ良くなっていくんです。カリキチのメンバーが育てば、将来、空き家の入居者になりますよね」(鯛島社長)
鯛島社長の空き家ビジネスは、宮崎市でも始まっている。行政や地域団体などと連携し、空き家を使ったトークイベントなどを通じ、地域住民との共同事業が動き出している。
「イベントで集まった人が、その地域でやりたいビジネスを実現できるよう、受け皿をつくるのが僕らの仕事。人と不動産をつなげるルートづくりです」(鯛島社長)
(2024年10月7日13面に掲載)