不動産業界における働き方改革の事例を紹介する本企画。第4弾となる今回は、「残業ゼロ」へ向けた取り組みや女性が活躍できる職場づくりなどで成果を上げている不動産会社の取り組みを紹介する。新型コロナウイルス禍をきっかけに働き方の選択肢を増やしたり、職場環境の見直しを行ったりするケースも出てきている。
福岡県、福井県、長崎県の地方企業の取り組みを紹介
不動産のデパートひろた、改修費1億5000万円 ニューノーマルな職場へ
グループ全体で6776戸を管理する不動産のデパートひろた(福岡県北九州市)では、ハード面とソフト面の両軸で働き方改革を推進している。
グループ全体の全従業員数は154人。そのうち正社員が121人、パート・アルバイトスタッフが33人。本社には約80人の従業員が在籍する。部門ごとの従業員数は営業本部が83人、管理本部が41人、他部署が30人だ。売上高は20億9314万円。そのうち、賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、自社物件の家賃収入がそれぞれ25%を占める。
2021年12月に改装費約1億5000万円をかけた本社社屋の拡張工事が完了し、オンライン会議などに対応したオフィス環境の整備を行った。
新社屋は元の規模から延べ床面積4343㎡と、約2.5倍の広さになった。地上4階建てで、1階はエントランスとテナントや倉庫として利用。2階には接客スペースとオンライン会議やIT重要事項説明(IT重説)用の個室ブースなどを設置。3階は、従業員が一堂に会するメーンフロアだ。4階は会議用フロアとした。
2階のオンライン会議やIT重説などに使える個室ブースは全21室を新設。また、3階には非対面で本社と支店間の情報共有が行えるよう大型デジタルサイネージを2台設置。それぞれ高さ2.16m、幅3.84mと高さ0.83m、幅4.38mで、本社や支店間での共有情報として、売上金額や管理戸数から、KPI(重要業績評価指標)、入居率、全11店舗の店内映像までを表示する。本社に入った社宅代行会社からの送客案件を、各店舗の混雑具合を見て采配を振り、店舗をまたいだ業務量の調整にも活用している。
コロナ禍を機に業務のデジタル化を積極的に取り入れ、毎朝の全社員が集まる朝礼や部署ごとの会議などを「Zoom」で開催している。そのため、社長や幹部が必要だと思う部署や支店の会議に簡単に参加できるようになったのもメリットだ。
廣田豊社長は「成績の報告は受けても、その理由までは支店の雰囲気を見ないとわからない。『店長の指示や手配にキレがある』『部下が素直に受け答えできている』など、会議に参加することで見えてくる活気から好成績の理由を確認できる。社内の風通しが良くなった」と効果を話す。
20年4月から継続している働き方として、営業時間を短縮し、繁忙期を除いた4〜12月は残業がなくなった。
コロナ前の営業時間は午前10時〜午後5時45分だったが、閉店時間を午後4時とし、1時間45分を残務整理の時間に充てた。コロナ前は月の残業時間は平均20時間ほどだったのが、現在はゼロになっている。
不動産のデパートひろた
福岡県北九州市
廣田豊社長(50)
住みかえ情報館、独自システムで属人化脱却 年間休日125日取得を達成
福井県内全域を管理エリアとし、約5600戸を管理する住みかえ情報館(福井県越前市)では、生産性の向上により、従業員の休日を確保。社員1人あたりの労働時間を減らしながらも利益を上げている。
全従業員数は37人で全員が正社員。部署を設置せず従業員に主要業務を振り分けており、営業業務22人、管理業務15人、社長夫妻も現場業務をフォローする。売上高は13億8000万円。そのうち賃貸管理が44%、介護事業が18%、自社物件の家賃収入が15%、リフォームが14%、土地の売買が9%となる。
創業33年目となる同社は、約15年前の7年ごろから働き方改革に関わる取り組みを実践してきた。年間の休日数の増加で、従業員の仕事とプライベートの時間の両方を充実させることや、柔軟な働き方ができる職場になっている。
07年ごろに働き方改革を意識し始めたが、その理由は優秀な人材を確保するためだ。採用を強化する際のアピールポイントとして年間休日の増加を図った。従来は、業界全体の平均だった年間休日100日台を、120日に再設定。加えて、毎年最低5日間の有給休暇取得も推進し、全従業員が年間休日125日を達成している。
同社では今後も、「生産性」というキーワードを意識した働き方改革の取り組みを推進していく方針だ。
残業ゼロを達成している住みかえ情報館坂井営業所の店舗外観
同社の働き方改革実現の要になっているのが、創業時から取り入れている自社開発業務管理システムだ。労務や営業、賃貸仲介部門で活用する追客や物件情報をインターネットにアップする業務、管理部門で活用する送金や報告ツールなど一式のシステムを自社で開発した。
その効果の一つが、社内での情報共有をシステム上で行うことにより、属人的な業務の在り方をなくした点だ。業務を全従業員がシステム内で把握し、その都度対応できるようにするため部署を設けていない。全従業員37人で、状況に応じて業務を振り分け仕事を回すことで、休みの調整がしやすいという。仕事が属人化していないため、年間休日125日が可能となった。
効果の二つ目が、システム内で業務管理を可能にしたことによるペーパーレス化だ。日頃から紙を取り扱わないことで20年前の2年ごろからオフィスのフリーアドレス制の導入がかなった。これは、休日の取りやすさにも寄与しているという。席や部門を決めないことで、すべての従業員が接客スペースと内勤用のデスクのどちらにも移動できる。顧客から見える席に3人程度を配置し接客を行いつつ、同一のパソコンでバックヤード業務も遂行。当日の出勤人数によって接客班とバックヤード班を変動できる仕組みだ。
全体の取り組みの成果として、従業員1人あたりの経常利益は20年で約600万円、21年で700万円と増えてきている。
さらに、22年1月から新たに開始したのが、残業時間を削減することで賞与が得られる取り組みだ。定時から30分以内に店舗スタッフ全員が退勤すると、1日1人あたり1000円の特別賞与を支給する。店舗単位で行っており、全6店舗中、3店舗が取り組み開始以降残業ゼロを達成した。
林洋三社長は「1人が30分から1時間残業すると1000〜1500円の残業代が発生していた。考え方として、このお金を就業時間内に仕事を終わらせられる生産性の高い人に配るというもの」と話す。
加えて、店舗単位の連帯責任にすることで、特定の人が残業してしまう環境を改善し、チームで仕事を終わらせる協調性を培うことも狙っていく。特別賞与の額は、繁忙期は1日1人1000円。その他月は500円など今後検討していくとした。
住みかえ情報館
福井県越前市
林洋三社長(63)
ハウジングロビー、賃貸店舗半分に縮小、管理に注力
働き方改革の一環として、業務内容をがらりと変えた例もある。管理戸数2700戸のハウジングロビー(長崎市)は、20年4月より賃貸仲介事業を縮小し、管理に特化した働き方を推進している。管理物件を商品として捉え、デザインリノベーションの提案やホームステージング、人気設備の導入による物件の質の向上を主力業務とした。取り組み開始後の入居率は2%アップの97%と効果を示す。
売上高は約9億円。このうち、賃貸管理が75%、リフォーム工事が15%、賃貸仲介が5%、その他売り上げが5%となる。全従業員30人のうち、正社員が22人、パート・アルバイトが8人を占める。部門別では、賃貸管理に22人、賃貸仲介に4人、民泊事業に4人を配置する。
賃貸仲介店舗は4店舗を2店舗に縮小。賃貸仲介においては、顧客の要望がない限り管理物件の仲介を行わない。現在は、他社物件の仲介と、セルフ内見への対応、賃貸借契約業務、オーナーへの対応業務を行う。
改革のきっかけは、仲介業務はいつでも再開できるという考えから、優先度を下げたことだ。現在管理している物件の商品化に注力する方針を定めた。これに伴い、21年1月から管理物件はスマートロックの導入でセルフ内見を可能にして、仲介に関わる業務を切り離した。
管理業務の効率化の面では、20年4月から入居者とオーナーに向け「LINE」の導入を推進中だ。オーナーには訪問で導入を勧め、入居者には契約時に提案している。LINEの登録割合は、オーナー約400人に対し1割。入居者は1100人ほどで2割程度を占め、新規契約者のほとんどが導入済みとなる。
LINEの導入で、困りごとを気軽に受け付けられるようになり、オーナー・入居者ともにコミュニケーションの円滑化を実感しているという。また、入居者からの設備故障に関する連絡時に、写真や動画を添付してもらえるため、現場確認の業務がなくなり対応の工程が減ることで効率化になっている。
20年4月ごろからは、コロナ感染対策防止として出社回数を減らすため管理部門で2人ずつ交互にテレワークを導入。1年間実行したことで体制が整い、現在も濃厚接触者などを理由に出社できない場合はテレワークで対応している。また、支店同士の会議はオンラインで行い、非対面での業務推進に前向きだ。
21年12月にリニューアルしたハウジングロビーのオフィス内の様子
経営企画課の野方航課長は「地場不動産会社として、地域とのつながりを大事にしていきたい。当社がセルフ内見やテレワークなど、新たな取り組みを行い発信することで、就職先の選択肢として意識してもらい、都心への流出が多い地方エリアでの若手人材の確保につながればうれしい。ひいてはそれが地域活性につながると考える」と話した。
(2022年2月14日4面・5面に掲載)