人口減少が進む地域にとって空き家問題は深刻だ。空き家が増加することで、さらに住人が減り、地域の経済活動は縮小してしまう。こうした悪循環を食い止めようと、空き家の活用を進める明生興産(長崎市)を取材した。
空き家を改修、安価に賃貸
人口減少進む長崎 急斜面の住居活用
明生興産は、人口減少と空き家の増加という商圏の課題に対し、子育て世帯向けの賃貸住宅として空き家を転用するアプローチをとる。
同社が事業を行う長崎市では人口減少が進む。総務省の調査によると、2023年の転出超過は2348人で、全国で3番目に多かった。若い世代が進学や就職で県外に出て行くことが要因の一つと考えられている。人口減少と相まって、坂道が多い地形が特徴の長崎市では、密集した住宅街に空き家が増え始めている。空き家は車が入れないような狭い接道に多く見られる。
明生興産はこうした空き家を活用し、10年間家賃を払って住み続けた賃借人にその住宅を贈与する「贈与型賃貸住宅」を運用している。22年から始めた取り組みで、すでに6戸が入居中。
1995年に創業した同社は、中古住宅の売買仲介や買い取り再販事業を主力とする不動産会社だった。2017年に尾上雅彦社長が就任後、空き家や古民家の再生に注力するようになった。近年は個人宅のリノベーション工事が売り上げの6割を占めている。残りの4割は住宅の買い取り再販事業や、所有物件の賃料収入などだ。同社には年間100件ほど空き家に関する相談が寄せられる。
子育て世帯向け 住宅取得を支援
贈与型賃貸住宅のスキームは次の通り。同社が安く購入、もしくは無償で譲り受けた空き家を改修。相場の7〜9割程度の家賃で10年間、戸建て賃貸として運用する。入居者は毎月家賃を支払いながらその住宅で暮らし、入居11年目以降は賃貸のまま住み続けるか、贈与で土地・建物を譲り受けるかを選択できる。10年未満で退去することも可能。
贈与型賃貸住宅は、賃貸中の利回りが20%になるように設定している。5年間の家賃収入で、住宅の取得とリノベにかかった費用を回収する。贈与型賃貸住宅を事業として、継続・拡大するために、一定の収益性が必要なためだ。
「子育て世帯がローンを組んだり、多額の頭金を工面したりしなくても住宅を取得できるようにと考えた。子育てにはお金がかかる。家賃の支払いがなくなる分、子どもの高校や大学進学の費用に充ててもらいたい」と尾上社長は事業に込めた思いを語る。